アンコールワットの宗教美とわびさび感 #2



いつか行きたいと思っていた世界遺産、「アンコールワット」。宗教と芸術が至高の次元で合体した、世界でも類を見ない建造物です。先日「世界で花咲け! なでしこたち」(NHK BS1)の海外で働く日本人女性の取材のために訪れ、この遺跡にも行くことができました。
アンコールワットは5つの塔を中心とした巨大な寺院。12世紀前半にスーリヤバルマン二世によって創建されました。巨大な建物は遠くから見ても遺跡オーラが。年月を感じさせる色合いが渋くて、わびさびすら漂っています。観光客が橋を渡って吸い込まれている真ん中の門は、かつて王様しか通れないやんごとなき門だったそうです。今は王族門からも自由に出入りできるのと引き換えに、入場料もセレブ価格の20ドル。ただ、現地の人は無料だそうで、遺跡のお堀の近くではピクニックをしたりハンモックに揺られて午睡する人々がいて、こんな人生もうらやましいです。
 
入って左右には第一回廊が広がっていて、神話などをモチーフにした大量のレリーフが彫られていて圧巻です。のんびりしてる南国気風のカンボジア人がこんな細かい骨の折れる作業をやったというのにも驚かされます。(二階には未完成の部分もありましたが……) なぜか戦のシーンだらけで、ビシュヌ神と阿修羅の戦争、ラーマーヤナの猿軍と悪魔の戦い、など、800年ずっと戦い続けているレリーフたち。エネルギーがうずまいているようです。レリーフにリアルな猿が引き寄せられてきたのか、遺跡周辺には猿がたくさんいて、ココナッツの殻に群がっていました。ナーガと呼ばれるヘビの石像も多数ありましたが、リアルなヘビは見かけなかったです。ナーガは頭が七つある八岐大蛇チックなヘビですが、世界の神話にヘビが絡んでくる率が高いのには、理由があるのでしょうか。やはり爬虫類系宇宙人が文明に関与……? と想像が広がります。
第二回廊の外側には、美しい女神像のレリーフが並んでいます。女神は階段を登る人たちを鼓舞してくれているようです。塔の中の第三回廊に行くための長い列ができていて、その先には結構険しい階段が。クローズ時間間際だったのであきらめざるを得ませんでした(内心安堵)。しかし観光用に新しく作られた階段はまだギリギリ登れそうですが、周囲に12世紀当時の階段が残っているのを見ると、幅が狭いうえにほぼ垂直の壁のよう(傾斜角度70度以上)。石だし落ちたら死にそうです。しかし女性のガイドさんに聞いたら、観光客用の階段ができる10年ほど前は、この鬼階段をふつうに使っていたそうです。知り合いで落ちた人もいたけど死ななかった、というのに神仏のご加護と霊験を感じます。こちらの階段は、テレビ局「CNN」で「世界の怖い階段」1位に選ばれたとか。スーリヤバルマン2世が、天国に行くことは難しい、ということを、険しい階段で表現している説が。逆に、かんたんに天国に逝ってしまいそうですが……。アンコールワットをガイドしてくれた女性はすごく痩せていて、聞いたら前は太っていた、とのこと。やはり遺跡の階段を上り下りする効果でしょうか。




アンコールワットの隣には「アンコール・トム」という遺跡もあり(トムは大きい、という意味)、こちらではさらにスケールアップしたレリーフを見ることができます。「バイヨン」には巨大な顔の遺跡が林立。しかしの表情は柔和で、国の繁栄と平和を祈って瞑想しているかのようです。「象のテラス」には、象や女神、ナーガなどの大量のレリーフがこれでもかと迫ってきます。鎌首をもたげるナーガは、人間の体内のエネルギー(クンダリニー)もしくは、性的なメタファーを表しているのでしょうか。敷地内の「ピミアナカス」というピラミッド型寺院には、当時の王様がここでヘビの女神と交わらなければならなかった、という伝説が。拒んだら国が滅ぼされてしまうので、王様は民のことを思い、毎晩ヘビを満足させてあげていました。お疲れさまです……。
遺跡の随所に神仏への畏敬の念が感じられるアンコール・ワット。その思いに答えるかのように、廃墟化する寸前でとどまった遺跡は、ずっと人々の生活を見守り続けています。
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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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