2016.04.08

魔女の展示に鳥肌が…… #4

CMまでやっていて全国巡回もするという、気合いが入りまくった「魔女の秘密」展。行ってみたら、結構ディープで前世魔女の人が観たらトラウマが蘇りそうな内容でした。

最初の部屋はわりとPOPな感じで、安野モヨコ先生、真島ヒロ先生など漫画家の描いた魔女の絵が展示。日本人は、欧米のように魔女を悪役でなく、親しみやすい存在として描いているのが特徴、と説明にありました。たしかに魔女や魔法少女ものはかわいくて子どもにもお兄さんたちにも大人気です。この展示にも一人で来ている男性が結構いて、魔女っ子萌えの方でしょうか……。
しかしそんな萌え心も、展示が進むにつれちぢみあがりそうです。第一章には、モグラの前足のお守り(実際の前足を使用)、魔女のナイフ(魔除けのため天井に突き刺したそうです)、五芒星のゆりかご(魔女から赤子を守る魔除け家具)といった、秘儀的なアイテムが展示され、経年劣化のくすんだ色合いがまた不気味です。魔女は仰向けに寝ている人間を踏みつけ圧死させるとか、4マイル先からでも聞こえる身の毛のよだつ恐ろしい叫び声を上げるとか、魔女についての言い伝えにもゾッとします。16-18世紀頃は気候が寒冷化し、凶作になったりペストが大流行したりで、人々は不安のはけ口を探していて、魔女を仮想敵と見なすことで一抹の平安を得ていたようです。現代でも、人生的にくすぶっている人が、ネットで目立つ人をバッシングし、炎上させる、という魔女の火炙りにも似た行為が行われています。人間は数百年経ってもあまり成長していないということなのかもしれません……。

魔女のイメージもどんどん邪悪になっていきます。醜い老魔女が馬丁に魔術をかけて殺したシーンの絵、雹を降らせながら雄ヤギに乗って空を飛ぶ老魔女、悪い目つきの全裸の4人の魔女、サバトで悪魔と契約、など。醜い老婆の姿で描かれていて、日本の美魔女とは正反対です。キリスト教圏では魔女や悪魔にはネガティブなイメージが。前に仕事でケイティ・ペリーにインタビューした時、褒め言葉のつもりで「小悪魔ですね」と言ったら、リトルデビルと翻訳され「えっ?何?」と、表情が曇り、一瞬緊張が走ったことを思い出します。


会場には魔女裁判で自白させるための拷問用具も展示されていました。「苦悩の梨」は、口の中に入れて押し広げることで歯が折れ、顎が砕けるという器具。「親指締め」は文字通り、指をつぶす器具。座席や背もたれ、肘掛けなどに鋭い刺がびっしり林立する「刺のある椅子」、そして手かせや猿ぐつわなど数々のアイテムがどれも黒ずんでいて禍々しさがMAXです。実際、この展示を見てからしばらく体調が悪くなりました。共鳴しやすい人は要注意です。これらの非人道的な拷問を乗り切った人は釈放されたそうです……。

恐ろしい魔女裁判を疑似体験できるコーナーもありました。男性の裁判官の映像が映し出され、「お前は魔女として告発された。お前は悪魔と契約を結んだのだ!」「隣の息子が魔女の呪いで足の骨を折った」「有罪であることを確信している!」と責め立てられます。そして最終的に火炙りの処刑台へ……。ご丁寧に、火の映像が投影されてメラメラと効果音が。火炙りの疑似感が味わえます。そして見物する人々がモニターに映し出され、表情が性悪そうにニヤニヤしていたりで、魔女以外の人にも悪魔的な本性が潜んでいることを表しています。ヨーロッパではおよそ6万人強が魔女として処刑されました。女性が虐げられた悲しい歴史です。
しかし会場を出たところのコスプレコーナーでは、空気が一変し、魔女コスプレで箒にまたがり写真撮影して盛り上がる女子たちが。魔女の魂も、こうして日本人に好意的に受け止められているのを見て、浮かばれると良いのですが……。

魔女の秘密展
会期:4月8日(金)~5月29日(日) 
場所:福岡市博物館
   福岡市早良区百道浜3-1-1
時間:9:30~17:30
http://majo-himitsu.com/top.html
“辛酸なめ子”

辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は「妙齢美容修業」(講談社文庫)「辛酸なめ子の現代社会学」(幻冬舎文庫)。twitterは@godblessnamekoです。