上野の森美術館で開催された「ブータン しあわせに生きるためのヒント」展。ブータンといえば、幸せの国。独自の国民総幸福量という基準では国民の97%が幸福だそうです。(一般的な、国民幸福度ランキング2015では131位ですが……) その幸せ感に貢献していると思われるのが美男美女の国王と王妃の存在。さらにお子さんまで生まれて、幸福度は高まり続けています。自国の王族のルックスがすばらしいとテンションが上がり、国への誇りも芽生えます。ジェツン・ペマ王妃にいたっては、若くて美しくておしゃれなのでブータンのキャサリン妃と呼ばれているそうで、実際にウィリアム王子とキャサリン妃がブータンに訪れ親睦を深めていました。美しく恵まれた者同士は引き寄せ合うんですね……。そんな天上人に少しでもあやかりたく、展示に伺いました。
美術館の壁ののぼりには「伝統文化に生き続ける『しあわせ』の教え」
「しあわせに生きるためのヒント」
「見るだけでしあわせになれるかも」と、三回も「しあわせ」という単語が。ここまで強調されると相対的に自分は不幸なのかな……という思いがよぎります。
会場に入ると鮮やかな赤を基調としたキルトや、仏教の儀式で使われるお面など、多幸感あふれる極彩色で、これはブータン人幸せだわ、と感じ入りました。お面をつけた踊りの動画など見るだけでトランス状態になりそうです。次の部屋には、「キンマ容器」という金色の小物入れが展示されていたのですが、「キンマ」とはビンロウ樹の実と石灰を葉で包み、噛みタバコのように用いて軽い陶酔感と酩酊感を得るというもの。ブータン人の幸福は合法ドラッグの助けも……? もちろんまじめに幸せを追求している、魔除けのお守りなども展示されています。
展示はところどころ撮影OKでした。こちらは踊りに使われるヨガ行者のお面です。
そしてブータンの民族衣装「キラ」(女性用衣装)、「ゴ」(男性用衣装)は、全面に細かく刺繍がほどこされ、吉祥モチーフの文様が多く、しかも素材も天然(木綿や絹)、この民族衣装自体が強力な魔除けアイテム。災いから守り、幸せに導きます。キラの文様は「野蚕」が使われていて、ブータンの野蚕は殺さないでサナギが羽化したあとの繭を使っているとのこと。蚕など虫まで幸せな国、ブータン。
霊験あらたかな仏像コーナーに続き、最後の部屋には王と王妃が実際に着用された高級感漂う装束や写真が展示されていました。ガラスケースごしなので幸せ分子は吸収できない感じでしたが、お子さんを抱いた完璧すぎる幸せ写真を見るだけでありがたい気持ちになれます。物販コーナーにはお二人のハガキが販売されていましたが、もっと皇室グッズ並に商品展開してほしかった……。思わず「ブータンしあわせストール」を買ってしまいました。
最後に、それぞれの見つけた幸せについて書き込んだポストイットを貼るコーナーが。「いつでも笑っていられること」「家族が仲良しなこと」「健康に日々暮らせていること」「愛する人と一緒にいる時」「みんなが美味しそうにご飯を食べている時」「生きていること 生かされていること」など、来場者は素朴でハートウォーミングな展示に感化されたのか、いい人っぽいコメントだらけです。でも、こうして常に善良でポジティブな心でいることが、神に愛され、一番幸せになれる近道なのだと感じました。
来場者がしあわせについてポストイットに書き込むコーナー。自分が何と書いたか覚えていません……。
ブータン ~しあわせに生きるヒント~
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漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。