フランス人の祖先のセンスに驚く「世界遺産ラスコー展」 #14

国立科学博物館の特別展「世界遺産ラスコー展」。実物大の洞窟の模型などが人気だと聞いて、もうすぐ会期が終わる前に上野に行って参りました。
クロマニョン人の描いた洞窟壁画がメインのテーマ。フランス南西部、ラスコーで発見された考古遺跡です。会場でまず視界に入ってきたのは2万年前の「クロマニョン人母子」の像。発掘された骨や考古学的証拠に基づいてフランス人芸術家が再現したそうです。革製の服とブーツに毛皮をコーディネイト。服の裾には小さい貝殻があしらわれ、アクセサリーは貝や動物の骨製。「おしゃれ~」という声が上がっていましたが、ブーツはUGGみたいだしファーのあしらわれた服も現代に通用するかわいさ&こなれ感。フランス人の元祖は2万年前からこんなおしゃれだったとは。もう北京原人とかとはレベルが違います。後期旧石器時代には骨でできた縫い針が出現し、衣服の可能性が広がりました。最初に縫い針を発明した人天才すぎです(もしかして宇宙人の入れ知恵が…?)。なぜか古代の衣服を見ているとむしろ現代よりも進化している未来形に見えてきます。

氷河期を乗り越えるにはやはり毛皮しかないという説得力があるクロマニョン人の像。ファーの着こなしとアクセづかいががおしゃれです。

クロマニョンファッションで驚いている場合ではありません。会場にはまず、ラスコーの洞窟の全体像がわかる1/10スケールの模型が展示されていました。牡牛や雌牛、馬、インパラ、ヤギ、鹿、猫など多くは動物の絵が描かれていたようです。
続いて薄暗い展示室には実物大の洞窟壁画のレプリカが。一つ目の壁画にはバイソン、ヤギ、ウマが描かれていました。その躍動感あふれるタッチと、赤茶色のリアルな色彩に、一瞬筆を折りたくなったほど、予想を越える画力に圧倒。壁画っていうと、棒人間みたいなタッチを想像していましたがお見それしました。少なくとも私が描く馬や牛の絵より全然うまいです(また宇宙人の指導説が浮上)。 動物は後ろ足を描くのが難しいですが、クロマニョン人はラフなタッチで特徴をつかんでいます。芸大レベルの画力に圧倒。しかも暗い中、凸凹の壁に石で刻み、鉱物を砕いた顔料で描くなんて相当難易度の高い作業です。携帯型のランプに火をくべて照明にしていたようです。泳ぐシカや、行進するウシ、背中合わせのバイソンなど、続いての壁画もハイレベル。ユニコーン風の生き物もいました(当時実際にいたのかもしれません)。


謎なのは「井戸の場面」の壁画。頭部が鳥の人間が横たわり、その横には鳥モチーフの投槍器(槍投げの道具)。傷を負って腸が出たバイソンがトリ人間を襲っています。そして傍らにはケサイという動物がたたずんでいるという全体的にシュールな絵です。トリ人間は当時本当にいたのか、それともシャーマンの仮装なのか……。気になったのはトリ人間の性器が反応していたことです。特殊なプレイ中だったのでしょうか? 洞窟の中ではさまざまな秘密の儀式が行われていたのかもしれません。フランス人の性的な早熟度に感じ入りました。また、後世に文明を伝えるためにも、洞窟に描けば気候に影響されず保存状態も良好です。この展示に影響され、洞窟に壁画を描きたくなったのですが、現代人は下手に落書きしたら逮捕されてしまいます。何千年後かに、今の時代の痕跡が壁画として見つからないことを不思議がられるかもしれませんが、落書きしたら器物損壊で捕まる時代だったと訴えたいです。

さて、第二会場には「クロマニョン時代の日本列島」についての展示がありました。ここまでさんざんフランスのクロマニョン人のセンスの良さや芸術的才能について見せられてきましたが、同じ頃日本の旧石器人は……絵などは残っていないかわりに、大量の落とし穴が存在。なんと世界最古の落とし穴は日本にあり、当時は狩猟用の罠として掘り、動物を捕まえていたようです。おしゃれなクロマニョン人が壁画を描いていたとき、日本の人類は姑息な落とし穴を掘りまくってました。軽くショックな事実です。くやしいけれど2万年前からフランス人には完敗です。




特別展「世界遺産 ラスコー展 〜クロマニョン人が残した洞窟壁画〜」
期間:~2017年2月19日(日)※月曜休館(2月13日(月)を除く)
時間:9:00〜17:00(金曜日は20:00まで・入館は閉館の30分前まで)
場所:国立科学博物館
   東京都台東区上野公園7‒20
http://lascaux2016.jp/

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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