京都国立近代美術館で始まった「技を極める ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸展」#18

雲の上の世界すぎて物欲すらわかなそうですが、至高の美を体感するべく、京都へ向かいました。

京都国立近代美術館の内覧会では、まず、館長や学芸課長、ヴァン クリーフ&アーペルCEO、音声ガイドナビゲーターの松雪泰子さん、建築家の藤本壮介さんのご挨拶やトークセッションがありました。驚いたのは、プレジデント兼CEOのニコラ・ボス氏の肌のハリとツヤ感と血色のよさ。最高級のハイジュエリーのエネルギーを日々吸収しているからでしょうか。パワーストーンより格上の貴石の効果を遠目にも実感しました。「私どもの宝飾品はデコラティブアートとして多くの皆様に見ていただくべきものと思っています」とCEOはおっしゃっていました。
内覧会に登壇された方々。CEO(右から2番目の方)が若くて驚きました。
展示では、日本の伝統工芸品と対比させヴァン クリーフ&アーペルはメゾンのヘリテージ コレクションを出品。トークセッションで松雪泰子さんは、お気に入りの逸品として《鳥かご》というヴァン クリーフ&アーペルのオブジェを挙げていました。第1セクションの「ヴァンクリーフ&アーペルの歴史」コーナーに展示されていましたが、あまりにもふんだんに宝石が使われていて驚きました。鳥かごの敷石にはラピスラズリ、飾りにはルビーとサファイア、ケージはゴールドでできています。このかごでは蛙が飼われていて死んでしまったそうですが、石の放つ波動が強すぎて当てられてしまったのかもしれません。

蛙ならずとも、ヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーのエネルギーが強すぎて、ジュエリー酔いしそうなラインナップでした。《侍女に囲まれたウジェニー皇后》シガレットケースは、ゴールド、ルビー、サファイア、エメラルド、ダイヤモンドなどがちりばめられ、宝石で女性の姿が表現されていて、誰が王女で誰が侍女かわからないほどです。花やブーケ、鳥などを宝石でかたどったジュエリーの数々。そしてセレブになるほど上級者向けモチーフを好むのでしょうか。ユニコーンやフェアリー、グリフォン、龍、そしてシーラというUMA的な海洋生物のアクセサリーもありました。これらは魔よけとしての意味もあるのでしょう。
黒い壁で鏡面状になったケース内で、ジュエリーが映り込んで増えているという目の錯覚が。
第2セクション「技を極める」コーナーは、明治時代の「超絶技巧」と呼ばれる工芸作品とハイジュエリーの共演です。建築家の方の空間デザインにより、ジュエリーのいくつかはケースの中の中空に浮いて、しかも暗い展示室のガラスが反射し、ジュエリーが鏡の反射で増幅しているように見えました。富がどんどん増えていく……そんな錯覚で、幻のジュエリーに手を差し伸べそうになりました。明治のやんごとなき鉢や花瓶と、ヴァンクリーフ&アーペルの貴族的なケースやジュエリーは、品格でも芸術性でも釣り合っていました。ヴァニティケースやピルボックス、ミノディエールなど、ヴァン クリーフ&アーペルの何か小物を入れる用のケースがどれも美しく、やはりレディは荷物を小さい箱に入れるくらいが優雅だと感じ、荷物がパンパンの自分を反省。女としてミノディエールというアイテムを一つは持っておいた方が良いのかもしれないと思えてきます。
第3セクションでは、「文化の融合と未来」と題して、現在活躍中の日本の工芸作家の作品とハイジュエリーのコラボを展開。上品で洗練された《神代杉木画箱》と《レディバード ミノディエール》、ゴージャスな《獅子のペンダント》と、巨大な陶器と金でできた《卑弥呼山》、金色の花が咲き乱れる《耀貝飾箱》とダイヤモンドが燦然と輝く《ソクラテスリング》など、高次元の競演に圧倒されました。気になったのは「ゴールドのシャンパンの泡消し」というアイテム。なぜわざわざシャンパンの泡を消すのでしょうか……。もしかしたらアッパークラスを極めると、シャンパンの泡のようなつかの間の幸せ感に浸るレベルではなくなるのかもしれません。刹那的な泡を消すことで、富や幸福をより現実的なものにしようとしているのだと推察しました。
今回の展示で最も居心地良かったのは、職人の作業場の再現コーナーです。やはりセレブ側よりそっち側なのでしょうか。美しく素晴らしいジュエリーと工芸品は、文化財的価値があり、持つ人を選びます。庶民としては、今回のように展示で拝見し、少しだけエネルギーを吸収させていただくので充分です。でも、展示されているジュエリーのような芸術的な価値が高い作品は、購入したとしてもブランドのアーカイブのために買い戻されたり、もしくは売ったとしても高値がつきそうです。セレブの方は資産としてお持ちになるのでしょうか。世界のどこかには、同じ女性で、こんなハイジュエリーや工芸品が身近にある人もいる、そんな現実に気付かされ、明日への鋭気が養われる展示でした。

妙に落ち着く職人の作業場コーナー。他にはモニター上で宝石をはめるゲームコーナーもありました。

技を極める―ヴァン クリーフ&アーペル ハイジュエリーと日本の工芸
期間:~2017年8月6日(日)
時間:9:30〜17:00(※4月29日(土)~6月30日(金) の金曜日、土曜日は20:00まで開館
7月1日(土)~8月5日(土)の金曜日、土曜日は21:00まで開館 ・入館は閉館の30分前まで)
休館:月曜日 但し、6月13日(火)、7月18日(火)(※7月17日(祝月)は開館)
場所:京都国立近代美術館
   京都府京都市左京区岡崎円勝寺町
http://highjewelry.exhn.jp/

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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