アートなチャネリング空間、草間彌生展 #15

展示室に入った誰もが「すごーい」「すごすぎる!」と声を上げていました。六本木の国立新美術館で始まった、草間彌生展「わが永遠の魂」は、集大成という単語ではおさまらない、宇宙規模の展示。メインの大きな部屋は、正方形の作品「わが永遠の魂」が壁にびっしりと貼りめぐらされています。日本未公開の約132点で、大きいもので一辺が2m弱。それぞれ、「心の中の陽光」「星の世界へ行った時」「魂の内側」「宇宙の足跡」「わが悲しみのきわみ」「夕映えの星くず」といった、宮沢賢治にも通じる心洗われるタイトルがついています。「私の死の瞬間」「死の足跡」「死の祭典」など「死」がテーマの作品も多いですが、決して暗くなく、むしろポップでプリミティブな絵だったりして、草間先生の、達観されたポジティブな死生観が現れています。



解説の南雄介副館長によると、草間先生は、なんとこの「わが永遠の魂」シリーズを2、3日に1枚のペースで仕上げられるそうです(7年で520作品も制作)。自動書記のように、習作や下書きもなしで、白いカンヴァスを前にすると手が勝手に動き出すそうです。宇宙パワーが原動力なのでしょうか。ちょっと忙しいだけで休みたいとかマッサージ受けたいとか弱音を吐く自分を反省。さらに、正方形の作品をスカーフにしたら売れそう、と世俗的な考えがよぎったことにも反省。

でも、草間先生も、ご自分のブランディングをちゃんと考えていらして、デザイン会社とコラボし、「黄樹」シリーズのインテリアグッズや家具を作ったりされています。近年もルイ・ヴィトンとコラボされたり、草間先生の尊敬すべき点は天才と商才を両立されているところです。作家でもありながら、プロデューサー目線も持っているという、希有な存在です。

ブレイクされる前の初期の作品も数多く展示されていました。赤黒くうごめく暗い絵画、不気味な目玉のコラージュなど、今のポップな作品とは全然違います。ニューヨークに渡ったことが突破口となったのでしょうか。無限の網や水玉、男根状のソフト・スカルプチュアシリーズなど、ミニマルアートの先駆けとなった作品は、今見ても古びていなくてかっこいいです。「我ひとり逝く」(1994年)は、突起物が付いた白いハシゴが天井と床の間にかけられ、しかも天井と床に鏡が付いていて、覗き込むと合わせ鏡で天国や地獄に続く階段に見える、というコンセプチュアルでもあり、アトラクション的な驚きもある作品。つい奈落を見てしまいますが、天国の方を見上げたいです。それにしても「死」とか「逝く」とか連発する人に限って長生きする、という説を信じたいです。

草間彌生といえば「南瓜」の大きな立体作品も、屋外にさり気なく展示。かぼちゃの「太っ腹な飾らぬ容貌」に草間先生は魅せられているそうです

プレス内覧会には草間先生ご本人もいらっしゃいました。すごいカメラの数でフラッシュがたかれる中、両手を前にかかげて真顔で座っていた草間先生。その瞳を見た瞬間、純粋さに魂の奥が感応しました。どんなに成功してのぼりつめても、汚れることのない少女のような瞳。図録には草間先生の素直な言葉が綴られています。

 「白いのは雲、白いのは雲、いつのまにかきびしい生活にひたり、幾年月を経て、しらぬ間に私は世俗のアイドルにさせられて、あまたの人々に芸術の喜びをもとめられる身となっていたのだった、いま」

 「わたしは虚名をなげすてて、一人ぼっちで死界へさまよいでていくだろうか?」

「先生~こちらにおねがいしまーす!」というマスコミの呼びかけに無言で答える草間先生。ありがたいお姿です

熱狂と裏腹に冷静さを保っている草間先生。才能、人格、ルックス、全てを兼ね備えていて、彼女みたいにはとてもなれませんが、同じ時代に生きていることにただ感謝したくなる展示です。

草間彌生 わが永遠の魂
期間:~2017年5月22日(月)※火曜休館(5月2日(火)を除く)
時間:10:00〜18:00(金曜日は20:00まで・入場は閉館の30分前まで)
場所:国立新美術館 企画展示室1E
   東京都港区六本木7-22-2
http://kusama2017.jp/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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