藤田嗣治と猫と女#34 #藤田展

東京都美術館で開催されている藤田嗣治展。藤田といえば猫の絵を連想するくらい猫好きのイメージがありますが、何よりも世界で活躍した日本人画家としてレジェンド的な存在であることを忘れてはいけません。一貫しておかっぱに丸メガネで見た目のキャラを確立させた自己プロデュース能力は、当時としては新しすぎるセンスです。しかも海外で女性にモテまくっていたという日本男児希望の星。作品にそんなモテオーラがにじみ出ているのでしょうか。

展示の初めの方、最初の妻との写真では髪型がオールバックでした。23歳の自画像も普通のヘアスタイル。パリに行ってから個性的な見た目にイメチェンしたようです。フランス人に負けたくないという気合いがみなぎっています。画力は東京美術学校(現・東京藝術大学)だけあって最初から安定感が。でもパリでの1921年の自画像はうつろな目で覇気がありません。故郷を遠く離れ、芸術家たちがせめぎあう街でコンプレックスや孤独を感じていたのでしょうか。パーティでドジョウすくいなどしてウケを狙っていたというエピソードも伝えられています。最初の頃はキュビスムに染まってピカソ風の絵を描いたり、友人モディリアニの画風に影響されたりしていました。キュビスムがちょっと入った女性像の顔が目の高さが違っていて不気味ですが、妙に引きつけられました。いっぽうで、特徴的な乳白色の下地の画風が生まれ、それが評価に結びついていきます。

photo:getty images ullstein bild Dtl.1926

1920年代、藤田の乳白色の裸婦像が評判になります。女体を最高に美しく見せる乳白色。影も微妙な薄さで描き込まれ、光を放っているようで一瞬目がくらみ、焦点がぼやけます。そして徐々に女体が浮き上がってくるという……。乳首はベビーピンクで美しいです。美化されて女性としては嬉しい裸婦像。初期は、縦長の顔で目が病んでいる陰キャラの女性像を描いていたのに、何があったのでしょう。モテだして自信が出たのでしょうか。説明にも「モデルはユキ」「中南米旅行をともにしたマドレーヌ」「妻の君代とパリへ」と、年代ごとに相手がコロコロ変わっているのが気になります。

女性と猫が途切れなかった藤田(そして時々犬)。猫が描かれた作品も期待通りたくさん展示されています。猫が出てくるまで結構じらされた感がありますが……。自画像の中で藤田になつく猫、裸婦の足元に横たわる猫、猫同士喧嘩する姿、娼館のギラギラした女たちの横で純粋な瞳で佇む猫、飲み屋の椅子の下にいる猫、など、絶妙にリアルでイキイキとした表情の猫たちに目が奪われます。絵をパッと見て何秒で猫を見つけられるか、猫体視力が養われます。犬やキツネ、猿など他の動物も登場するので、猫好き以外にもおすすめできます。

猫の余韻に浸っていたら、人形の絵が出てきて「藤田は人形愛好家で収集していた」という説明が。守備範囲が広すぎます。ところで絵のモチーフを見ていて藤田のモテる理由がちょっとわかった気がしました。骨董市とか、描くのが面倒くさそうなところにわざわざ行って、細かいアンティークの品など描き込んでいるのです。多少性格が面倒くさい女性もマメにケアしてくれそうな方だと推察しました。

photo:getty images Keystone-France 1968 妻の君代とパリのアパートメントにて

晩年は、日本人の妻の君代と一緒にフランスで洗礼を受けてカトリック教徒に。教皇とも会い、自分と妻を宗教画に描き込んで絵の中で聖母の祝福を受けたりして、死後の段取りもちゃんと考えていたようです。用意周到な終活アートで安心して天国へ……。画家としてずっと活躍し続けて、世界でも日本でも評価され、理想的な芸術家人生だと思われます。そして後世の猫ブームまで予見していたかのよう。藤田は丸メガネの奥の理知的な眼差しで先の先まで見通していたのでしょう。

展示会場の入口。お土産売り場も猫アイテムなど充実していました。

没後50年 藤田嗣治展

期間:~2018年10月8日(月・祝)
時間:9:30~17:30」(金曜は、20」:00まで。 8月3日、10日、17日、24日、31日は21:00まで。入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜、9月18日(火)、25日(火)※ただし、8月13日(月)、9月17日(月・祝)、24日(月・休)、10月1日(月)、8日(月・祝)は開室
場所:東京都美術館(上野公園)
東京都台東区上野公園8-36
http://foujita2018.jp/

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展示会場の入口。お土産売り場も猫アイテムなど充実していました。