渋谷の松濤美術館で開催中の「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」展が静かな盛り上がりを見せています。
区立美術館なので入場券が安くてありがたい松濤美術館は、時々ツボにはまる展示を開催してくれます。今回も期待を胸に伺いました。ギャラリートークがある日に行ったらかなり混んでいて、廃墟ブームは今も脈々と続いていることを実感。ただ、日本における廃墟と、この展示の前半に出てくる廃墟は、格調が違います。
日本だと観光地にあった廃ホテルとか廃病院など、何か出てきそうないわくつきの雰囲気ですが、展示に出てくる廃墟はローマやギリシャの遺跡が多く、それを廃墟と言って良いのか迷うというか、絵になるのは当然のずるい廃墟です。
1章は「絵になる廃墟」。ギャラリーの方の説明によると、西洋では400年前にすでに廃墟ブームがあったそうです。今回の展示で一番古い作品はシャルル・コルネリス・ド・ホーホによる、17世紀に描かれた『廃墟の風景と人物』。崩れかけたお城の一部と村人が描かれています。廃墟と、人物や動植物が一緒に描かれることが多く、それは、死と生の対比を表しているそうです。『廃墟となった墓を見つめる羊飼い』(アシル・エトナ・ミシャロン)なんて、そのままの作品もありました。ジャングルの絵などのイメージが強いアンリ・ルソーの『廃墟のある風景』は素朴なタッチで描かれている廃墟が不気味さを漂わせます。
展示会場で写真撮影がOKなのはジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージの原画を25倍に拡大した遺跡の絵。『ローマの景観 』シビラの神殿、ティヴォリ細かいのでこれだけ拡大しても密度があります。
2章「奇想の遺跡、廃墟」では、廃墟の細密画が多く展示されていました。廃墟を細かく描き込む行為は、画家にとって快感なのかもしれません。ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージの廃墟画シリーズは圧巻で見応えがありました。彼の影響を受けたとされる画家たちの廃墟画も多数展示。崩れ落ちた神殿や荒廃した修道院は「滅びの美」を表現しています。
それにしても、廃墟になった建物名を見ると「セント・ソヴァー・ル・ヴィコーント大寺院」「ビーストン小修道院」「サン=ネクテールの教会堂」「ライジング城」「エイカー城小修道院」と、どれも立派で荘厳そうな施設ばかり。それがすっかり、壁とか柱だけになって朽ち果ててしまって諸行無常です。
18世紀のイタリアではポンペイなど古代遺跡の発見と発掘が行われてたこともあって廃墟や遺跡が注目されていて、古代遺跡などを見に行くツアーがブームだったそうです。イギリスの若者たちが「グランド・ツアー」と題された、見識を広げる旅行に出かけて、その中で廃墟や遺跡を巡っていたとか。裕福なセレブの子弟がツアーに参加していたそうなので、かつて栄華を誇った建物が廃墟になっているのを見て何を思ったのでしょう。自分の家の仕事をちゃんと継がなければと肝に銘じたのかもしれません。
3章は「廃墟に出会った日本の画家たち」を紹介。歌川豊春も遺跡の絵を描いていたのが意外でした。4章は「シュルレアリスムのなかの廃墟」でポール・デルヴォーの作品が豊富でした。美女と廃墟という組み合わせが素敵です。
5章「幻想のなかの廃墟」には戦前から戦後にかけて日本の画家たちが描いた廃墟が紹介されていました。シュール系が多かったです。戦争を経て、リアルながれきの山や廃墟からは目をそらして、イマジネーションの廃墟に現実逃避したいという思いがあったのでしょうか。
6章の「遠い未来を夢見て」は渋谷など、繁栄する現代の日本の都市を廃墟にした絵も何点か展示。元田久治『lndication : Shibuya Center Town』などはセンター街が壊滅的です。渋谷区立の美術館なのに大丈夫なのでしょうか? ギャラリーの方によると、区長に確認したところ「当館だからこそ展示すべき」という返答だったそうです。渋谷の繁栄に甘んじず、廃墟となった光景まで俯瞰して見ている姿勢が素晴らしいです。
展示会場の渋谷区立松濤美術館の建物の壁。古代ローマの廃墟画と廃墟化した渋谷の絵が並んでいます。
それにしても松濤という日本で最もゴージャスな住宅が立ち並ぶ街でこのような展示を見られるとは。どんなに頑丈な造りでも形あるものはいつかはなくなるので……展示を見る前と見たあとで高級住宅街を見る目が変わります。
「終わりのむこうへ:廃墟の美術史」
期間:~2019年1月31日(木)
時間:10:00~18:00(金曜は20:00まで。入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜 ただし1月14日(月・祝)は開館。翌日は休館。(土・日曜に当たる場合は開館)、12/29(土)~1/3(木)は年末年始休館)
場所:渋谷区立松濤美術館
東京都渋谷区松濤2-14-14
http://www.shoto-museum.jp/exhibitions/181haikyo/