ヨーロッパの歴史に燦然と輝くハプスブルク家。600年に亘って続いた華麗なる一族の肖像画や収集品などが集められた「ハプスブルク展」が開催されました。ヨーロッパ王室好きとしては要チェックです。
展示の最初、白い神殿のような空間にマクシミリアン1世の肖像画がうやうやしく飾られていました。神聖ローマ帝国のローマ皇帝で、ハプスブルク家の繁栄を築いたお方です。鎧を身に着けた姿に威厳が漂っています。数々の戦を勝ち抜いてきたからこそ、トップに君臨できたのでしょう。(王侯貴族の繁栄の裏には流されてきた血が……)
次の部屋には、ハプスブルク家の甲冑コレクションが展示。夜中動き出しそうな臨場感です。実際の戦いだけでなく槍試合などにも用いられていたそうで、全身入る甲冑はデザイン性も高くて一部のスキもなくて、死ぬ気が全然ないのが伝わります。王侯貴族だからこそこのような完成度の高い甲冑で余裕で戦えたのでしょう。スカート風のデザインだったり、後ろがプリーツになっていて「sacaiがデザインしたのでは?」というようなおしゃれな甲冑も。このセンスで敵を威圧できます。
戦と同時にハプスブルク家は政略結婚によって勢力を拡大していきました。領地だけでなく芸術作品も貪欲に収集。例えばマクシミリアン1世はブルゴーニュ公国の相続人と結婚したのがきっかけで、ブルゴーニュのタペストリー作品を集めたり……。ハプスブルク一族の国王や皇帝、大公たちは絵画や甲冑、工芸品や彫刻などを蒐集し、コレクションは富や権力の象徴となりました。アルブレヒト・デューラーの銅版画やディエゴ・ベラスケスによる絵画など、見応えある作品が展示されていました。
でも何より興味深いのが実際のハプスブルク一族の肖像画です。隆盛を誇った一族だけあって、とにかく衣装が派手です。展覧会のパンフにも使われている、王女・マルガリータ・テレサのゴージャスな青いシルクのドレス(未来の夫に成長ぶりを伝えるために制作されたそうです……しかも相手は叔父なので微妙です)。オーストリア大公、フェルディナント・カールの真っ赤で大きな金のリボンがあしらわれた装束も印象的でした。オーストリア大公、フェルディナント2世の等身大肖像の、緻密な金の刺繍にも圧倒。神聖ローマ皇帝ヨーゼフ2世も赤に金糸の縁取りで、ハプスブルク一族は派手好きのようです。皇妃マリア・テレジアの肖像は、赤いマントやドレスもインパクトありますが、台の上にさり気なく3つの王冠が置かれていました。3つの国を支配していた上にお子さんを16人も産み(マリー・アントワネットを含む)、次々と海外の王室に嫁がせるという、やり手すぎる女性です。とにかくハプスブルク一族の金に糸目を付けないファッションと対照的に、庶民の服の色は茶色やねずみ色やくすんでいる色だったりするのが侘しいです。地味な肖像画の独身貴族、神聖ローマ皇帝ルドルフ2世への好感度が高まります。
貴族がわざと地味な服を着ることもあり、「神聖ローマ皇帝レオポルト1世と皇妃マルガリータ・テレサの宮中晩餐会」の絵を見ると、庶民の仮装をして楽しんでいる様子が。皇帝と皇妃は、架空の宿屋の主人と妻のコスプレをして、地方の各職業団体に扮した貴族たちをもてなしています。絵の中では地味な格好をしていてもスポットが当たり、夫妻は輝いてインペリアルオーラを放っていました。今やったら炎上しそうな遊びです。
展示の終盤には、最後の皇帝、フランツ・ヨーゼフ1世と、その妻で元祖美魔女のエリザベトの美しすぎる肖像が展示。第一次世界大戦が終結すると君主制も廃止されてしまいました。それでもまだハプスブルクの血を引く貴族たちがヨーロッパで人々の憧れの的になっています。表舞台にたたない、裏王族くらいが気楽で良いかもしれません。
ちなみに展示はハプスブルクの光の部分にスポットが当たっていましたが、裏では策略とか幽閉とか暗殺とか血族結婚による短命とか結構ドロドロなものがうずまいています。展示に行ったとき、ハプスオタみたいな女性が近くにいて結構詳しくて、同行者に「この人の妻がフアナでフィリップには浮気されまくったのよ」とか噂話のようにトークしていました。そんな周りのハプスブルク小ネタに耳をすませてみても楽しい展示です。
ハプスブルク展 600年にわたる帝国コレクションの歴史
期間:~1月26日(日)
時間:9:30~17:30 ※金・土曜日は20:00まで。11月30日[土]は17:30まで ※入場は閉館30分前まで
休:毎週月曜日(ただし11月4日(月・休)、1月13日(月・祝)は開館)、11月5日(火)、12月28日(土)〜1月1日(水・祝)、1月14日(火)
場所:国立西洋美術館
東京都台東区上野公園7-7
https://habsburg2019.jp/