#ムーミン展でトーベの強さと繊細さに触れる #42

子ども時代や思春期に誰もが通るムーミンの道。そんな懐かしさと北欧のセンスあふれるタッチに浸れる展示「ムーミン展 THE ART AND THE STORY」が森アーツセンターギャラリーにて開催。トーべ・ヤンソンの貴重なコレクションや、フィンランドのムーミン美術館から約500点もの作品が集まった充実の展示です。

遠い記憶の中だと、「ムーミン」の絵本やアニメではムーミン谷で仲間たちが集い、牧歌的なストーリーを展開していた印象がありましたが……。今回、原作のあらすじと繊細なタッチのスケッチが並んでいるのを拝見し、そんな生易しいストーリーではないことがわかりました。

展示会場の入口。直筆の繊細なタッチを間近で見ることで、ムーミンのエネルギーを体感できます。

「ムーミン谷の彗星」はジャコウネズミに、彗星衝突による地球滅亡を予言され、天文台に調査に行く展開。「ムーミンパパの思い出」はパパの回想ですが、そもそもパパはムーミンみなしごホームに置き去りにされたという不遇の過去が……。ホームを飛び出し各地をさまよい、ママと出会うまでが描かれています。「ムーミン谷の夏まつり」は、火山が噴火し、ムーミン谷は洪水に襲われ、どこからか劇場が流れ着く、という夏まつりをしている場合ではないストーリー。「ムーミン谷の冬」は、家族全員冬眠している中、一人だけ目覚めてしまったムーミンの冒険談。生き物的に冬眠失敗して大丈夫だったのでしょうか?

撮影OKのコーナー。行った時は皆さん遠慮して一緒に撮る人はいませんでした。ムーミンファンは奥ゆかしいです。

「ムーミンパパ海へいく」は、平和な日常では家長として威厳を保てないと思ったムーミンパパが、血迷ってムーミン谷から大海原の孤島に移住するという、「ビッグダディ」も驚きの展開。「ムーミン谷へのふしぎな旅」はムーミンではない少女が主人公ですが、旅する途中に火山が噴火し、吹雪に襲われ、魔物においかけられ、逃げたら目の前は滝壺という絶体絶命状態から救われる、という物語。雄大な自然のフィンランドで生まれた物語なので、自然の美しさだけでなく厳しさも描かれています。

そして自然災害を生き抜くムーミンという生き物の強さに感じ入ります。原作はハラハラする内容ですが、ポスターや壁紙、グッズ、カレンダーなどになると、登場人物のキャラの個性が引き立ってメジャー感が倍増します。トーべが銀行の広告も手がけていたとは。女手一つで稼ぎまくっていて頼もしいです。

飯能にオープンしたムーミンの施設、ムーミンバレーパークの制服も展示されていました。もと飯能市民としては早く訪れたいです。

ムーミンは、完成系は曲線的でかわいらしい形態ですが、原型はわりと怖い感じでした。ムーミンのアイディアの元には諸説あり、トーベが叔父から、「首筋に冷たい息を吹きかけるおばけ」の話を聞いたのが元になったという説と、弟とケンカしてトイレの壁に描いた「スノーク」という鼻の大きい生き物が原型だという説があります。また、トーベが初期に描いていた、体が黒くて目が赤い「トロール」はかなり不気味でした。今の姿になってから人気が出たようです。

ムーミンに出てくる登場人物の中には、当時の恋人を投影したキャラクターもいるようです。生涯独身だったトーベでしたが、恋多き女性でした。孤高の旅人スナフキンのモデルとなったのは当時の恋人で雑誌編集長のアトスだったそうです。舞台監督のヴィヴィカ・バンドレルは女性の恋人。父親が副市長だった関係で、トーベは壁画の仕事も依頼されています。

アーティストのトゥーリッキ・ピエティラは、「ムーミン谷の冬」で冬眠から覚めたムーミンを導く「おしゃまさん」というキャラのモデルです。彼女とは生涯のパートナーに。孤島の小屋などでも生活を共にします。電気も水もない生活だったそうですが、もしかしたらムーミンの気配を感じて寂しさとは無縁だったのかもしれません。

同性愛ということを公言しにくい時代でしたが、トーベはただ自然に、好きな人と一緒に暮らしていたのでしょう。過酷な試練を淡々と生き抜くムーミンのような強さと、自分らしい人生を生き抜いた姿に憧れずにはいられません。

同フロアのCafe THE SUNにムーミンコラボメニューが。 ムーミンパスタ1480円をオーダーしてみました。白いムーミンがパスタの真ん中に鎮座していて存在感あります。

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#ムーミン展でトーベの強さと繊細さに触れの画像_1
展示会場の入口。直筆の繊細なタッチを間近で見ることで、ムーミンのエネルギーを体感できます。
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撮影OKのコーナー。行った時は皆さん遠慮して一緒に撮る人はいませんでした。ムーミンファンは奥ゆかしいです。
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飯能にオープンしたムーミンの施設、ムーミンバレーパークの制服も展示されていました。もと飯能市民としては早く訪れたいです。
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同フロアのCafe THE SUNにムーミンコラボメニューが。 ムーミンパスタ1480円をオーダーしてみました。白いムーミンがパスタの真ん中に鎮座していて存在感あります。
辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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