大嘗宮の高次元ヴァイブス #49

日本にとって最も重要な儀式である大嘗祭。大嘗祭の中心儀式「大嘗宮の儀」では天皇陛下に天皇霊が降臨する秘儀が行われていると伝え聞きます。ニュースで拝見した、薄灯りの中で古式ゆかしい装束をお召しになられた皇族の方々の神々しさが脳裏に焼き付いています。

烏帽子の方とかもいて、時空を超越した情景でした。その大嘗祭を行った大嘗宮が一般に公開されると伺い、さっそく初日に行ってまいりました。砂曼荼羅のように役目を終えたら取り壊されてしまう大嘗宮は、もはやアートです……。


大嘗宮の高次元ヴァイブス #49の画像_1
初日は空いていましたが、レーンの数を見ると土日はかなりの人出になることが予想されます。乾通りの紅葉の一般公開と重なる期間は混雑しそうです。

9時すぎに東京駅に到着し、皇居方向を目指します。行幸通りを直進し、薄々予感していましたがやはりまっすぐ皇居に入れず、左に曲がって二重橋方面から入るように警察に指示されました。一般参賀の時もそうですが、やたら歩かされるので、やんごとなき方々との身分差を痛感することになります。しかし初日なので意外にも空いていて、一般参賀の同時刻と比べると十分の一以下の人出だと体感。公開期間が長いからでしょうか。

 砂利道のレーンを進んで、荷物検査とボディチェックを受けます。なぜか警察官に「お薬とかお持ちでないですよね?」と確認されました。持ってる感が漂っていたのでしょうか……。門をくぐると気持ちが切り替わり、いちだんと清らかになった空気を感じます。宮内庁の前を通り、右方向へ。どこかと思ったら東御苑でした。ふだんは特定の期間を除き、夕方まで一般人も入れる公園で、皇居に隣接しています。なんとこちらに大嘗宮は建てられたようです。

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石垣のゲートをくぐるとボーナスステージに行けたみたいな感覚で高揚。この先に大嘗宮が……。
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東御苑の真ん中、江戸城の本丸のあった場所の奥に佇む大嘗宮。とりあえず写真を撮りまくります。消えてしまう建物だと思うとデータに残したいです。

東御苑に入ると、遠くの方に神社の社殿のような真新しくてきれいな平屋の建物が並んでいました。厳かな気を放っていて、ありがたさがこみ上げます。ここで夜通し、天皇陛下は国家の安寧や五穀豊穣を祈ってくださっていたのです。大嘗宮は神格が高い神社のような造りで、ほぼ左右対称になっています。

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まず目に入るのが膳屋。神饌を調理した建物です。壁一面には椎の葉が。

ちょっと違うのは右と左の社殿の屋根の丸太、「千木」の形。右側の悠紀殿は千木が水平に切られた内削で、女神が祀られていることを表しています。左の主基殿の千木は垂直に切られた外削なので男神がおわすようです。天皇陛下は大嘗祭の時はまず悠紀殿で天照大神に神饌をお供えになり、続いて主基殿でも同様にお供えされました。竹箸で箱から三個ずつお皿に移すというかなり大変な作業をされていたのが、この社殿だと思うと感無量です。悠紀殿と主基殿の内部には寝座や櫛、扇などが置かれてどんな秘儀がなされていたのか想像が膨らみます。外から見た社殿は固く扉が閉められ、秘儀の気配すら漏れないようになっていました。

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主基殿の特徴的な屋根が見えます。見学者は中には入れない神域となっています。

配られた資料によると、大嘗宮は以下のような建物で構成されています(抜粋)

悠紀殿(ゆきでん)
悠紀殿供の儀において、天皇陛下が神饌(新穀をもって調製された御食・神酒など)をお供えになり、御拝礼の上、御告文をお奏しになり、自らもお召し上がりになった建物

主基殿(すきでん)
主基殿供の儀において、天皇陛下が神饌をお供えになり、御拝礼の上、御告文をお奏しになり、自らもお召し上がりになった建物 

廻立殿(かいりゅうでん)
儀式に先立ち天皇皇后両陛下がお召替えなどをなさった建物

雨儀御廊下(うぎおみろうか)
儀式中に天皇陛下がお通りになった、屋根の付いた廊下

帳殿(ちょうでん)
皇后陛下が、ご拝礼のためにお出ましになった建物

小忌幄舎(おみあくしゃ)
男子皇族が参列された建物

殿外小忌幄舎(てんがいおみあくしゃ)
女子皇族が参列された建物

膳屋(かしわや)
神饌を調理した建物

楽舎(がくしゃ)
楽師が奏楽を行った建物

庭積帳殿(にわづみのちょうでん)
各都道府県の特産の農林水産物が供えられた建物

風俗歌国栖古風幄(ふぞくうたくずのいにしえぶりのあく)
楽師、歌を奏した建物

威儀幄(いぎあく)
武官の装束を着た者(威儀の者)が着座した建物

庭燎舎(ていりょうしゃ)
庭火を焚いた建物

黒木灯籠(くろきとうろう)
皮付き丸太で造られた灯籠

といった建物が配置されています。建物の名称も風流を超えて浮世離れ感が漂います。

女子皇族が参列された建物は一つなのに男子皇族用は大きな二つの建物で、女子皇族の方が多いのでかなりの人口密度だったと思われます。

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庭燎舎の銀色の穴では庭火が焚かれたようです。木製ですが火気は大丈夫だったのでしょうか。神に守られた空間です。

真ん中に立つと鳥居の奥に、神秘的な社殿が見えて、思わず一礼してしまいました。大嘗宮は平屋だけれど最高の木材が使われていて、特別な建築なので、十億円かかったというのも納得させられます。

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皮付き丸太で造られた灯籠がかわいいです。
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垣根のところには木の葉っぱが全面に貼られていました。宮内庁のスタッフに「これは榊ですか?」と聞いたら「椎の葉です」とのこと。「なんで椎なんでしょう」と伺ったらまじめそうな男性は「我々にもわからないのですが、伝統的に使っています」とのことでした。別の人にもくり返し同じ答えをしていました。お疲れさまです……。もう一人、やんごとなき若いイケメン宮内庁職員がマダムに大人気でした。

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鳥居の奥には、廻立殿が。天皇皇后両陛下がお召替えなどをなさった建物です。

公園内なので後ろ側からも大嘗宮周辺を見て回れます。地面が土ではなくコンクリートなのがちょっと気になりましたが、日本の神々は日本人を守護するためにちゃんと降りてきてくださったのでしょう。この神がかった大嘗宮がもうすぐ撤去されてしまうと思うともったいないですが、なくなってしまうからこそ尊くて、なくなった後もどこか別次元で存在していそうです。大嘗宮を見学している間はどこか違う次元にワープしたような感覚でした。

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横から見た悠紀殿。この内部で秘密の儀式が……。
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大嘗宮の後ろには松の樹が。神社の境内の樹木は神が降りてくるそうですが、この松はその代わりになったのでしょうか。
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建設会社の表記が。大嘗宮の工事を受注されたなんて、後世に残る業績です。
辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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