世界5都市で100万人以上動員した「バンクシー展 天才か反逆者か」が横浜のアソビルにて開催。なんと9月27日までの約半年間、バンクシーの作品70点以上が日本で展示されているとは……都庁までわざわざ「バンクシー作品らしきネズミの絵」を見に行った身としては感無量です。
入り口ではバンクシーの重要なモチーフである巨大なネズミの絵が出迎えてくれます。今年はちょうどねずみ年なので、相乗効果で集客力が高まりそうです。
存在が謎に包まれている匿名のカリスマアーティスト、バンクシー。今回の作品の数々はコレクターの方々からの出品だそうで、本人の収益にはなっていないようです。もはやお金には興味がないのだとしたらバンクシーらしいというか潔いです。(ありがたいことに作品の写真も撮影OK)
展示は、まずバンクシーの想像のスタジオ再現コーナーから始まります。制作中の作品や画材に囲まれて、黒いパーカー姿の等身大人形が座っています。顔は影になっていて見えないのがただならぬ存在感を感じさせます。どこか死神っぽい雰囲気ですが、バンクシーも人類に警鐘を鳴らす存在であることは変わりありません。作品のテーマは消費、政治、文化、戦争など。メッセージ性は強く、タイトルの「天才か反逆者か」の通り、巨大権力に対して反対の立場を貫いています。
「消費」のコーナーでまず目立っていたのは、アンディ・ウォーホルのマリリン・モンローのアート作品のようにケイト・モスのプリントを並べたもの。セレブでも何でも人気がある存在を消費し尽くす現代社会への風刺のようです。バンクシーの反消費主義をテーマとした作品は他にもあり、「バーコード」は、バーコードがプリントされたトラックとヒョウが描かれていて、狩りをする感覚で消費する現代人へのメッセージのようです。
「セール・エンズ」は、「セールは今日までです」という赤地の看板を前に、中世風の人々が悲嘆にくれている図。自分もセール終了の時こんな心境になっていたかもしれません。少女がカートと共に落下する「フライング・ショッパー」、国旗の代わりにショップの袋が掲揚されている「ベリー・リトル・ヘルプス」など、「消費」の作品コーナーは身につまされる作品が多いです。
「資本主義が崩壊しない限り、世界を変えるためにできることなんて何もないです。それまでは気休めにショッピングしましょう」というバンクシーの言葉が壁に書かれていました。バンクシーらしき人物の映像や写真を見る限り、いつも同じようなパーカー姿で、ふだんあまり買い物しなさそうです。たまたま物欲が薄いからこそ、意識が高いメッセージを繰り出せるのでしょう。
「政治」コーナーでは、さらに風刺の攻撃力が増し、イギリス議会議事堂の下院で議員が猿と化している「モンキー・パーラメント」、イギリスの君主の肖像画を猿に置き換えた「モンキー・クイーン」などがドキッとさせられます。日本でこれをやったら炎上しそうな……。これらの作品を見て、バンクシーは危険な作風で、消されないために匿名にしているのでは? と気付かされました。匿名は自由に作品を制作できて、自分を守ることにもなり、結構便利です。
さらに危険なのが「ディズマランド」という、2015年の夏の期間にブリストル・ベイに実際に設置された、呪われたテーマパークのインスタレーション。廃虚のような城、事故でひっくり返ったカボチャの馬車、歪んだマーメイドの像、ライドに乗る死神など、子どもにとってはトラウマものの光景が広がっています。こちらのインスタレーションには、ダミアン・ハーストやジェニー・ホルツァーなど58名ものアーティストが参加。匿名のバンクシーがどうやって彼らに企画を打診し、打ち合わせしたのか気になります……。それにしてもタブーに切り込みまくるバンクシーの恐れ知らずぶりに驚かされます。日本でもテーマパークとかリア充のスポットを嫌うシニカルな文化系男子の存在が確認されていますが、バンクシーはその究極の存在かもしれません。今回改めてバンクシーの攻撃力に戦慄しました。
展示のところどころには、バンクシーの絵が描かれたベンチや、バンクシーがプロデュースしたパレスチナの「ザ・ウォールド・オフ・ホテル」の客室再現コーナーなど、写真映えスポットがあって、メッセージの刺激に疲れた心を休めることができます。監視カメラに抗議するインスタレーションでは自分の姿を映り込ませて撮影できたり、バンクシーの世界観に没入できます。
全ての作品がメッセージ性とメジャー感に満ちあふれていて、本人の意図とは関係なく、巨万の富を生み出し、時には町おこしにもなる、作品の強いパワーを感じました(名前にBankが入っているからお金を生むのでしょうか……)。バンクシーに触発され、何かメッセージを発信しなければ、という使命感にもかられます。展示の最後にはホワイトボードが設置され、誰でもバンクシー気分で絵が描けるようになっていましたが……マジックを手に取ったもののスケールの小さいイラストしか描けず、天才との差を実感させられました。伝説のバンクシーと同じ時代に生きているだけでも光栄だと思って、地道に都会のネズミとして生きていきたくなる展示です。
バンクシー展 天才か反逆者か
期間:~9月27日(日)
時間:10:00~20:30 ※入場は閉館30分前まで
休:無休
※開催日時などにつきましては、新型ウィルスの問題で変更の可能性もあるので、念のため下記HPなどでご確認ください。
※事前チケット予約制
場所:アソビル
神奈川県横浜市西区高島2-14-9 アソビル2F