キュートでセクシーでおしゃれな水森亜土さんのイラストや絵画は時代を超えて普遍的な人気を保っています。かつて少女だった人は当時を思い出し、今現在少女の人は女性としての成長をサポートしてもらえそうな亜土グッズ。コケティッシュな魅力もあるので男性にとっても見応えありそうで、動物好きの人は猫やウサギのPOPなイラストに癒されるでしょう。
そんな老若男女に愛される水森亜土さんの作品を集めた「水森亜土グッズコレクション いつみても、いつでもラブリー」展が、休業期間を経てついに弥生美術館で始まりました。
待ち望んでいた開幕。会場の入り口横には「キャッホーイ 好きなところから見てみてネネネ 間隔あけるんよ 亜土展楽しんでネネネ 亜土」というイラスト入りのハートウォーミングなメッセージが。来場者のソーシャルディスタンスにも気にかけてくださる優しさに感じ入ります。
まずは、亜土さんの少女時代の写真や思い出コーナーからスタート。生まれ育ったのはなんと日本橋室町1-1という、日本橋のたもと。日本橋の敷石にロウセキで絵を描いたり、橋の外側の50センチ幅のでっぱりを通って肝試ししたり、三越のライオン像にまたがったりして遊んでいた生粋の江戸っ子です。
子ども時代の家族写真を見ると、財力も感じさせられます。父は建築関係の事務所を営み、母は絵やお花を教えていて、料理上手で多才な人だったようです、そのDNAを亜土さんは受け継いでいるんですね。ちなみに母娘とも超難関校、桜蔭学園ご出身です。
桜蔭では飼っていたジュウシマツを連れて行ったり自由すぎる学園生活を送っていましたが、高校卒業後進路が決まらず、母のつてでハワイのモロカイ島の高校に入ることになります。そこで母と毎日絵日記を書くことを約束し、そのハワイ絵日記が帰国後評判になり、英語雑誌にイラストを描くことになった、というのが初仕事だそうです。
自然豊かなハワイでリフレッシュし、フラやウクレレなど南国のカルチャーを吸収した亜土さんの絵は、日本人離れしていました。会場にはハワイの絵日記も何枚か展示。ピアスを友達に開けてもらったら体調を崩した話、ハワイの食材についてなど、かわいいイラストとともに綴られています。多才な亜土さんは先生に弟子入りしたり、オーディションを受けたりしてジャズ歌手としても活動をはじめます。
そして転機になったのがNHKの「たのしいきょうしつ」。元々左利きで右手も使えるようになっていた亜土さんだからこそできたのが、有名な両手を使って透明なガラスやアクリルに絵を描くパフォーマンスです。
番組には1965~67年、1974~83年にわたって「亜土たんコーナー」が。私も幼稚園時代に大ファンで、手紙を送ったら直筆のハガキが届いて感動した思い出があります。この時日本中に亜土チルドレンが生まれたことでしょう。ただ本人は、一発勝負で時間ぴったりに歌と絵を終わらせなければならないプレッシャーで、頭痛薬が手放せなかったそうです。スプレーを大量に使うことでトリップしそうな危険も……。
こうしてメディア露出も増え、人気が出てくるにつれて、グッズ化の話もどんどん来るようになります。会場には文房具から食器、エプロン、オルゴール、ハンカチ、人形、アクセサリーなどありとあらゆるグッズが展示。そして現代ではスマホケースやLINEスタンプまで。サステイナブルな需要と供給に驚嘆の念を禁じ得ません。当時持っていたアイテムを見つけるとタイムスリップしそうです。そして時代を超えても古さを感じさせない絵柄の魅力は何なのでしょう。亜土さんの優しさのヴァイブスがあふれていて、それが普遍性をもたらしているように思います。
実は苦労人でもそれを見せないポジティブな作品
今回、展示を拝見しながら弥生美術館学芸員の内田静枝さんにエピソードを伺い、亜土さんの素晴らしい包容力について改めて感動しました。自分のグッズが売れて収入が入ると、夫・里吉しげみの「劇団未来劇場」(女優としても出演)の制作費に注ぎ込み、家に集まる劇団員のために数十人分の料理を作り、夫の度重なる浮気を乗り越え、両親や義父母(&なぜか近所の人)の介護をするという、博愛的なお方です。夫の劇団のポスターの仕事はノーギャラ。しかも描き直しを何度も要求されて……とても愛がないとできません。亜土さんはイラストレーター、画家、歌手、女優として活躍しながら家事や介護をこなし、夫を経済的に支えていました。
会場ではそんな亜土さんのジャズの曲が流れている部屋がありますが、人生経験を感じさせつつもポジティブな歌声に包み込まれ、癒されます。亜土さんはずっと人気で羨望を感じますが、多くの徳を積んでこられた結果でもあるのかもしれません(もちろん才能あってこそですが)。良いことをすれば良い結果が返ってくる……そして根底にある無私の精神にも感じ入りました。
亜土グッズや絵の魅力は、人生に何があっても、亜土さんの絵を見ている間は少し現実逃避できて、気持ちが楽になるというところでしょうか。今こそ必要な絵です。青い目の人物画が多く、その瞳に吸い込まれた先には宇宙や大空が広がっているようです。