一生分の横尾忠則を観た……そんな充実感に満たされる展示「GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」が東京都現代美術館で開催されています。60年以上にわたるデザイナーや画家としての作品、600点以上が出品。新作もかなりの量で、その尽きせぬ創造力とバイタリティにはリスペクトしかありません。
1階は「神話の森へ」「多元宇宙論」「リメイク/リモデル」「越境するグラフィック」「滝のインスタレーション」「地球の中心への旅」「死者の書」などのコーナーにわかれていて、大作が並んでいます。グラフィックデザイナーから画家へと転身した横尾忠則の80年代の作品は実験的で創造のエネルギーがうずまいています。「男の死」など1970年に割腹自殺した作家、三島由紀夫をモチーフにした作品もいくつかありました。自作を三島由紀夫に贈ったことがきっかけで交流を持ち、自宅に招かれてそこでレジェンド的な文学者たちとも人脈を築いた横尾忠則。 横尾忠則がすごいのは宇宙人とも交流があったこと。本にも書かれていますが、呼んだらUFOが来たり、UFOや宇宙人が夢の中に度々現れたりしてコンタクトしていた、というのは有名です。絵には時々、空飛ぶ円盤がモチーフとして出てきています。日常生活の中で常に見られているような感覚を持っていたそうで、宇宙人も彼のアートに関心を持ち、鼓舞したりプロデュースしたりしていたのでしょう。宇宙人の絵に「KEN」「KIRI」「SACHE」など文字が書き込まれている作品もありましたが、名前なのでしょうか。彼の作品から宇宙人にもいろいろな人種がいることがわかって興味深いです。
切り裂いたキャンバスを重ね合わせて格子状に編んだ「多次元絵画」は、四次元を超越した、五次元からの視点を感じさせます。受胎告知をモチーフにした「受胎された霊感」や「放たれた霊感」など精神世界系の作品が多く、魂が刺激されます。
滝の絵が本当に流れているように動く「テクナメーション」シリーズは、ファンなら今まで展示で目にしたことがあるかもしれません。今ならタブレットを並べればすぐ再現できますが、93年頃の技術による、モーター音がかすかに響く半分アナログで半分デジタルな作品には不思議な味わいがあります。 口を開けた血色の良い女性が泳ぐ様子を描いた作品群や、後ろ姿を描いた「Back of Head」シリーズ、女性の肖像画の顔にキャベツやトイレットペーパー、石などを描き入れた作品など、次々と新しい手法が出てきて、いったいいくつ画風があるのかと驚かされます。「今夜の酒には骨がある」など骨をカンヴァスにコラージュした作品も。家族連れで小学生くらいの息子さんが骨に反応していて、若いお父さんが「いつも食べてる鳥の手羽先に似てるね」などと解説していました。こんなきっかけから芸術に興味を持つのもアリかもしれません。
写真OKだったミュージアムショップ内の「WITH CORONA(WITHOUT CORONA)」展示コーナー。画集のインタビューでマスクについて聞かれて「かなり仮面の効用になってると思いますね」「ぼくも内気だからちょうどいい」と語っていました。
「リメイク/リモデル」コーナーには、アンリ・ルソーの絵を引用した作品がたくさん並んでいて、そのうちKAWSのコレクションになっているものが結構な枚数ありました。お互いの才能を認め合うトップアーティスト同士の交流に胸が熱くなります。 圧巻なのは「滝のインスタレーション」。横尾忠則が集めた滝の絵はがき1万枚以上が壁と天井を覆い尽くしています。モノクロのはがきなのにマイナスイオンを放ちそうです。このコーナーで1回リセットされて3階へ。
3階は「Y字路にて」「タマへのレクイエム」「横尾によって裸にされたデュシャン、さえも」「終わりなき冒険」「西脇再訪」「原郷の森」といったコーナーが。まだ膨大な作品が半分あると思うと楽しみながらクラクラします。
「黒いY字路」シリーズは、人生の局面で訪れる、無数の選択を象徴しているようです。本当にY字路に立つ気分になって、どっちを選ぶか絵の前で考えてみるのもおすすめです。こちらの道は暗いとか不吉な感じがするとか、犬が立っていて導かれているとか、何枚も見るうちに直感力が高められます。
自分の作品や人のポートレイトにマスクをコラージュしている作品。リアルな世界でコラージュアートを体感できます。
猫好きなら感動必至の「タマへのレクイエム」は、愛猫のふとしたかわいさを捉えてアクリルで描いていて、写真以上に思いが伝わります。このコーナーだけでもボリュームがあるので、今回の展示は何回か通ったほうが(体力的にも) 「原郷の森」コーナーは2018年から2021年頃に描かれた作品を中心に展示。2021年の作品だけでも20作品以上あり、かなりの大きなキャンパスに月に3作品くらい描いている計算になります。80代で……超人すぎます。揺れるようなタッチで、唐の時代の高僧「寒山拾得」などを描いた作品は、コロナ禍でも明るい希望を感じさせます。寒山と拾得がトイレを掃除したり掃除機を使用したりしていて、開運のためには掃除が大切だというメッセージが込められているのでしょうか。福々しい作品で、浄化されます。
ショップでは横尾忠則デザインのマスクが2750円で販売。
これで作品は終わりではなく、ミュージアムショップ内には横尾忠則がコロナの感染拡大を受けてマスクをモチーフにした作品シリーズ「WITH CORONA(WITHOUT CORONA)」が壁いっぱいに展示。もう許してください、助けてください、と懇願したくなるほどの作品数です。人がこんなに夥しい数の作品を制作できるとは……無限の可能性にも驚かされ、見た人それぞれ自分に置き換えて、リミットや固定観念を外したくなる展覧会です。地球の価値観を突破すれば、宇宙のご加護が得られるかもしれません。
「GENKYO EYE and MOUTHまんじゅう」756円もかなりのインパクトでした。アートなお土産としては手頃な価格です
「 GENKYO 横尾忠則 原郷から幻境へ、そして現況は?」 期間:~10/17(日) 休館日:月曜日(9/20は開館) 9/21 ※チケット購入については公式HPにて。 ※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、下記HPなどでご確認ください。 会場:東京都現代美術館 企画展示室1F/3F 東京都江東区三好4-1-1(木場公園) https://genkyo-tadanoriyokoo.exhibit.jp/