フィンランドの幸福度を守るデザインの結界 #71

世界幸福度ランキングで4年連続1位をマークしているフィンランド。極寒で冬は厳しそうですが、暮らしの中でどうやって幸福度を高めているのでしょう?  そのヒントが得られるかもしれない「ザ・フィンランドデザイン展」に行ってみました。会場は、Bunkamura ザ・ミュージアムで、ヘルシンキ市立美術館(HAM)監修のもとテキスタイルや工芸、陶磁器や家具、絵画などが展示されています。

入ってすぐのところにフィンランドの大自然の写真が展示。氷河や雪や湖……一見して寒そうですが、美しいです。フィンランドのデザインには「大いなる自然を忘れない」という思想が息づいているそうです。 寒い方が集中力が高まり、感性が研ぎすまされるのかもしれません。そう感じさせる、名デザインの数々が並んでいました。

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誰もが一度はおしゃれ空間で目にしたことがありそうな、アルヴァ・アアルトの有機的な「『サヴォイ』花瓶」。「北欧の賢人」と称えられた建築家です。椅子のデザインも曲線が美しいです。サナトリウムに置かれた椅子「パイミオ」は患者さんが呼吸しやすい座面のデザインだとか。おしゃれと優しさのハーモニーが心地よいです(買おうとすると値段は財布に優しくないですが……)。ティモ・サルパネヴァのオブジェ「悪魔の拳」の霊妙なフォルムも印象的。デザイナーで彫刻家のタピオ・ヴィルッカラは「イッタラ」で400以上ものガラス作品を作り上げたレジェンド。氷山や樹氷にインスパイアされたようなガラス作品が有名です。アイノ・アアルトの、繊細な波紋状のグラス「ポルゲブリック」は、今も「イッタラ」で売られている名品。自然にインスパイアされると、流行に惑わされない普遍的な造形ができるのかもしれません。

サーラ・ホペアのグラスも有名です。スタッキングの原型と呼ばれ、カフェで見かけたことのある人は多いのではないでしょうか。「フィンランドデザインの良心」と呼ばれるカイ・フランクの食器は、シンプルで安定感があります。「北欧の賢人」「フィンランドデザインの良心」など、デザイナーのキャッチフレーズにも信憑性が。

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撮影OKなインテリアコーナー。 今も買える名品たちに物欲が刺激されます。

自然を感じる作品といえば、氷モチーフのガラス工芸作品が多く、展示後半にも次々出てきます。ナニー・スティル「氷山」は険しい突端が大自然の厳しさを物語っています。タピオ・ヴィルッカラ「パーダル湖の氷」、ライラ・カルットゥネン「凍ったグラス」、トゥーリッキ・ピエティラ「氷河の境目」など、視覚的に体感温度が下がりそうなので、夏に部屋に置いたら冷房効果が期待できそうです。

「信頼のフィンランドデザイン」が花開いたのは1950年代。1917年のロシアからの独立のあと、新しい国作りの一環として、発展してきました。その国策は成功し、名デザインで今も外貨を稼ぎ続けています。ティモ・サルパネヴァ、カイ・フランク、タピオ・ヴィルッカラが、フィンランドの三大デザイナーだそうです。女性アーティストも負けていません。グンネル・ニューマンは「バラの花びら」でミラノトリエンナーレ金賞受賞。ナニー・スティルのオブジェ「メイポール」も色合いが素敵です。


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グッズショップではフィンランドデザインのアイテムが充実。もっと買いたい場合は表参道のイッタラへ……。

おしゃれなだけでなく、かわいいデザインも多数。タピオ・ヴィルッカラの「イソシギ」は、フィンランドは鳥のフォルムも洗練されているのかと思わせられる作品。ドラ・ユングのテキスタイル作品「子連れのアヒル」も、青い線でラフに描かれていて、アヒルをここまでおしゃれに表現できるなんて……と驚かされます。鳥が充実していて、ミハエル・シルキンの陶芸作品「かもめ」もいいですが、今回の展示で最もかわいいのは、同じ作家の「横たわる山猫」かもしれません。眠くて不機嫌そうな表情に引き寄せられます。

もちろん、フィンランドといえば……超メジャーな「マリメッコ」のテキスタイル、そしてトーベ・ヤンソンの「ムーミン」関連の作品も多数展示されています。「ムーミン」の展示コーナーの前に、フィンランドの妖精についての説明がありました。フィンランドにはトントゥという小人がいて、全ての家に生息しているとか。秩序を監視し、危険を知らせてくれるそうです。もしかしたらトントゥが秩序という名の「デザイン」を監視し、統一感の乱れやダサさが入ってきていないか、守ってくれているのかもしれません。完璧なデザインには魔よけの力が感じられます。秩序の乱れは運気の乱れです。トントゥがデザインの守り神でいるかぎり、フィンランドの幸福度は安泰です……。

「ザ・フィンランドデザイン展 自然が宿るライフスタイル

期間:〜2022年1月30日(日)
時間:10:00~18:00 ※毎週金・土は21:00まで(いずれも入室は閉室の30分前まで)
   ※2021年12月31日(金)は18時閉館
休:2022年1月1日(土・祝)

※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。

会場:Bunkamura ザ・ミュージアム
東京都渋谷区道玄坂2丁目24−1
https://www.bunkamura.co.jp/museum/exhibition/21_Finland/

会期中の全ての土日祝、および最終週の1月24日(月)~30日(日)は【オンラインによる入場日時予約】が必要

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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