「LOUVRE」の綴りの中には「LOVE」が入っていて、「ルーヴルには愛がある」という小粋なキャッチコピーの「ルーヴル美術館展」。これはすぐ大人気になるに違いないと思い、急いでチケットを取って行ってきました。
ルーヴル美術館は宗教画や歴史画など、格調高いイメージがありましたが、今回は「愛」がテーマなので間口が広いです。神話に出てくる存在があられもない姿で誘惑したり、恋の駆け引きをしている場面の絵画が多くて、そのストーリー性に引き込まれていきました。ギリシャ・ローマ文化は性的におおらかで、その神話モチーフの絵画は登場人物が神々という大義名分もあって、キリスト教の国でも広く受け入れられていたようです。
様々な絵画に登場しているのが、天使のようなかわいいアモルです。ギリシア神話ではエロス、ローマ神話ではキューピッド、アモルと呼ばれていて、愛の神の矢を心臓に撃ち込み、恋心を芽生えさせます。「アモルの標的」(フランソワ・ブーシェ)は、ハートに矢が刺さっている場面が描かれ、アモルたちが恋の誕生を祝福しているようでした。でも、恋が生まれてもそれがうまくいくとは限らないのは、神々も人間も同じです。
「プシュケとアモルの結婚」(フランソワ・ブーシェ)で描かれている、アモルと美貌の王女プシュケは珍しくハッピーエンドでした。「アモルとプシュケ」(フランソワ・ジェラール)には、若い恋人たちの、純粋な愛の場面が描かれています。アモルにおでこにキスされて、驚いた表情のプシュケが初々しいです。でも、交際中には、息子アモルとの結婚を許さない愛と美の女神ヴィーナスに呪いをかけられたり、ムチャぶりの試練を課されたりしたことも。さらに、アモルが自分の姿を直視することを固く禁じていたのをプシュケが破ってしまい、一度破局してしまいます。「眠るアモルを見つめるプシュケ」(ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ)には、眠るアモルの裸体をランプで照らして眺めるプシュケの姿が。カップルの間でも節度を保ちたいものです。アモルが去ったあとも、あきらめきれないプシュケは彼を追って旅に出て再会し、元のさやにおさまった、という波乱の展開。しかし最後までヴィーナスはプシュケのことを認めず、嫁姑問題が根深いようでした。
ヴィーナスは愛と美の女神なのに、恋愛がうまくいかず、それがまたプシュケへの嫉妬心にもなっているようです。「アドニスの死」には、ヴィーナスと美青年アドニスの悲恋が描かれています。ヴィーナスの心配をよそに危険な狩りに出かけたアドニスは、不幸にもイノシシに突き殺されてしまいます。アドニスの遺体を見て、ヴィーナスは失神。そんな体験もあって、ヴィーナスは息子アモルへの執着心を強めていったのかもしれません。ヴィーナスは火の神ウルカヌスと結婚しながらも、軍神マルスと浮気したり、満たされない思いを抱いているようです。
神々は恋をすると衝動的になって、強引な手段に出ることも。神様の世界は治外法権なのか「誘拐」というパターンも多いです。「オレイテュイアを掠奪するボレアス」(セバスティアーノ・コンカ)には、翼が生えたおじさんの姿をした北風ボレアスが、王女オレイテュイアを力ずくで抱いて飛び去る場面が描かれています。イケメンだらけの神話の世界で、まさかおじさんに連れ去られることになるとは……。女性の表情もどこかいやそうです。
「ディアネイラを掠奪するケンタウロスのネッソス」(ルイ=ジャン=フランソワ・ラグルネ)は、血気盛んなケンタウロスの若者が、英雄ヘラクレスの妻、ディアネイラを強引に略奪する場面の絵画です。下半身が動物だけあって、本能的な衝動にかられがちのようです。ヘラクレスの女に手を出すとは、かなりの怖いもの知らず。そのあと、ヘラクレスに射殺されたそうです……。
男女逆パターンもあって、「リナルドとアルミーダ」(ドメニキーノ)には、魔女アルミーダが騎士のリナルドに恋をして、魔法をかけて宮殿へと連れ去り、魔法の効果でいいムードになっているシーンが描かれています。反則感が漂います。「アルミーダの庭のカルロとウバルド」(ジュゼッペ・パッセリ)には、リカルドを探しにきた騎士仲間たちが、ほぼ裸体の美女に食事に誘われるシーンが。風紀が乱れています。
強引に連れ去る実行力までない場合は「盗み見」という行動に出る場合も。しかも相手が寝ている時にこっそり眺めるという……フェティッシュな場面を描いた作品がいくつかありました。
「ニンフとサテュロス」(アントワーヌ・ヴァトー)には、半人半獣のサテュロスが、無防備に眠るニンフの裸体にかけられたベールをそっと持ち上げて、しげしげと眺める姿が描かれていました。サテュロスの黒光りした体とギラついた表情に引いてしまいます。
「ディアナとエンデュミオン」では、月の女神ディアナが羊飼いの美青年エンデュミオンに恋をして、全能の神に頼み、彼に不滅の若さを授けて永遠の眠りにつかせます。眠るエンデュミオンを愛しそうに見つめる月の女神。イケメンをそのまま保存し、観賞したいという、今の推し文化にも通じる絵画です。
BLを思わせるテーマの作品もありました。「アポロンとキュパリッソス」(クロード=マリー・デュビュッフ)は、アポロンと美少年キュパリッソスの物語。かわいがっていた牡鹿をうっかり槍で殺してしまったキュパリッソスが嘆き悲しんで横たわっているのを、アポロンが優しく支えて、心配そうに見つめています。
神々の恋愛模様だけでなく、今回目玉の作品「かんぬき」(ジャン=オノレ・フラゴナール)のような、人間の男女のわけありな恋を描いた作品も。でも、人間同士は着衣で露出度が低かったり、匂わせ系だったりで、神々の恋愛に比べてはおとなしめ。やりたい放題でドラマティックな神々の物語は、現代のセレブのように刺激的です。神話は、中世のヨーロッパで一大コンテンツだったのでしょう。目の保養とともに、神様の存在を少し近くに感じられる展示です。
ルーヴル美術館展 愛を描く
期間:~2023年6月12日(月)
時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで。⾦・土曜は20:00まで)
休:火曜日 ※5/2(火)は開館
会場:国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558 東京都港区六本木7-22-2
https://www.ntv.co.jp/love_louvre/
※開催日時などにつきましては、状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。