ガウディの魂が宿るサグラダ・ファミリア聖堂を疑似体験 #89

1882年に着工してから長い時が経つサグラダ・ファミリア聖堂は、そろそろ完成のめどがついてきたようです。サグラダ・ファミリア聖堂と、スペインを代表する建築家、アントニ・ガウディについての展示「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が東京国立近代美術館にて始まりました。

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一生に一度は見てみたいサグラダ・ファミリア聖堂ですが、この展示で、聖堂のディテールやガウディの建築理念に迫ることで、いつか実際に対面した時の感動が倍増しそうです。サグラダ・ファミリア聖堂は、建設途中なのに古代遺跡のような、時間を超越した聖堂。膨大なレリーフや、独特な窓や柱、装飾的なステンドグラスや塔など、細部を見ていくだけでも数日間では足りないくらいの情報量です。

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若い時代の「ガウディ・ノート」には細かい字で建築論が綴られています。アントニ・ガウディ《ガウディ・ノート》1873-79年 レウス市博物館

自然の造形や放物線、幾何学、ゴシック建築やバロック建築などの叡智が凝縮したサグラダ・ファミリア聖堂は、ガウディが生涯かけて取り組んだ未完の最高傑作です。有機的な建築で有名な彼は独創的で天才肌の印象がありますが、建築学科に通いながら建築家のもとでアルバイトし、助手として経験を積んでいったという、たたき上げの人でした。「ガウディ・ノート」と呼ばれる20代の頃のノートには、装飾や色彩についてのまじめな覚え書きが。そのメモによると、美の三条件とは「用途(創造する動機)、性格(美学、倫理的要因からくる規定)、物質的条件(材料の耐久性など)」だそうです。こういう丁寧なメモを書いている建築家は、信用度が高いです。

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合理的な放物線の形状を得るための逆さ吊り模型。天才の発想は常人には計り知れません……。《コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験》(右側のみ部分模型、いずれも1984−85年 西武文理大学)

また、「創造は、人を介して途絶えることなく続くが、人は創造しない。人は発見し、その発見から出発する」というガウディの言葉には、誠実さと謙虚さが感じられます。ゼロから創造するのではなく、過去の建築様式や大自然の造形から学ぶ、という姿勢です。とはいえガウディの建築はひと目でわかるくらいの、唯一無二の存在感です。

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「コローニア・グエル教会堂、地下聖堂模型」実物は半地下のみで未完に終わっているそうですが、模型だけでも芸術的です。《コローニア・グエル教会堂、地下聖堂模型》1984-85年 西武文理大学

カサ・ビセンスやキハーノ邸、グエル別邸などの写真も展示されていましたが、色とりどりのタイルが美しいです。サグラダ・ファミリア聖堂でも使われていますが、ガウディは「破砕タイル手法」を発明。割れたタイルの破片を、建築物の曲面に貼るというものです。本来なら捨てるタイルの破片も活用していて、ガウディはエコロジーの先駆者かもしれません。ガウディは他の建造物でも自然のエネルギーを活用し、建物の風通しを考えて中庭を作ったり、住民のための貯水槽を設けたり、人と自然との共生を考えていたと言われています。
 

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クリプタ(地下礼拝堂)で使われていた「クリプタの磔刑像」は、他でなかなか見ない迫真の体勢です。カルロス・マニ、アントニ・ガウディ《サグラダ・ファミリア聖堂、クリプタの磔刑像》1906年 サグラダ・ファミリア聖堂

サグラダ・ファミリア聖堂は未完ながらも地下礼拝堂は機能していて、人々が集っていました。建築を続けるための資金も信者の献金や入場料で捻出。ガウディ自身も資金集めに奔走し、建設が中断しそうになった時は自身の給与を放棄したこともあったそうです。いつも同じ服で質素な生活だったガウディですが、サグラダ・ファミリア聖堂の彫刻や装飾には経費を惜しみませんでした。礼拝用聖具の十字架は、磔にされたキリストが脚を曲げて苦難の表情なのがリアルですが、細かい聖具に関しても、モデルにポーズさせて彫刻家が制作したようで凝っています。

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「クリプタのステンドグラス」には、天使の姿が描かれています。手の込んだ手法で重量感も。《サクラダ・ファミリア聖堂、クリプタのステンドグラス》1885−90年 サクラダ・ファミリア聖堂
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「主身廊高窓模型」は、それ自体オブジェのようです。窓からの採光はステンドグラスで調節されていました。アントニ・ガウディ《サグラダ・ファミリア聖堂、主身廊高窓内観模型》製作年不詳(複製)早稲田大学建築学教室本庄アーカイブス

また、柱などには植物の構造を取り入れていました。柱はねじれながら上に向かって8角形、16角形、と円に近付いていきます。安定感が高く、植物の成長エネルギーも取り込めそうです。完成に向かって成長し続けるサグラダ・ファミリア聖堂。まるで森の中にいるような疑似感が。しかし、NHKの動画で礼拝中の内部映像を見たら、その多数ある柱にモニターが取り付けられていました。ガウディが生きていたらどう思ったでしょう……。


有機的に見えるガウディの建築ですが、模型をよく見ると、石工に発注しやすくするために、幾何学的に直線で分解できるようになっています。「建築家の言葉は幾何学」というのはガウディの格言。細部まで気を配っていたガウディは大胆さと繊細さを兼ね備えた天才です。


 

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「マルコの塔模型」は、22年12月に完成したばかりの塔の模型です。ライオンがかわいいです。《サグラダ・ファミリア聖堂、マルコの塔模型》2020年 制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 サグラダ・ファミリア聖堂


 

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外尾悦郎「サグラダ・ファミリア聖堂 、降誕の正面:歌う天使たち」(1990−2000年に設置 作家蔵)は、歌声が聞こえてきそうです。

サグラダ・ファミリア聖堂は名だたる彫刻家とのコラボ作品でもあります。ガウディの思いを継ぎ、彫刻家として40年以上関わっているのが日本人の彫刻家、外尾悦郎氏。「降誕の正面」の彫刻群を手がけています。随所でレリーフや彫刻で聖書の物語が展開している聖堂は「石のバイブル」と呼ばれていました。中でも重要でホーリー感あふれるシーンを描いた「降誕の正面」。会場にはその、「歌う天使たち」の9体の石膏像が展示されていました。よく見ると顔立ちが和風で、日本人のDNAが世界遺産に刻み込まれています。

「『完成』とはなんなのか、そして人間はなんのために生きているのか、人間にとってなにが完成なのか、そういったことを問いかけてくるのがサグラダ・ファミリアだと考えています」と、外尾悦郎氏は語っています。


「この聖堂を完成したいとは思いません。というのも、そうすることが良いとは思わないからです。このような作品は長い時代の産物であるべきで、長ければ長いほど良いのです」というガウディの言葉もあります。当時の大詩人ジュアン・マラガイも「一人の命よりも長い歳月を要する作品に,また、将来の幾世代もの人々がつぎこまなければならない作品に、その人の全生涯を捧げること以上に、さらに意味深く,より美しい目的があるとでもいうのであろうか」とガウディへのエモーショナルな賛辞を綴っていました。

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ガウディは鐘塔の細かいデザインも手がけていました。「サグラダ・ファミリア聖堂、受難の正面:鐘塔頂華の模型」(2003年制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室 サグラダ・ファミリア聖堂)はどことなく「太陽の塔」に似ていて,天才同士のシンクロを感じます。

もはや完成したら壮大な物語が終わってしまって淋しいとすら思えてきます。サグラダ・ファミリア聖堂は完成しない、というのが永遠のキャッチフレーズ。このまま未来に向けて、ところどころ更新しながら成長を続けていくのがいいのかもしれません……。
人類にとって大切なのは富や栄誉や成功を追い求めるよりも、神や自然と一体になって、急がずに自分のペースで生きていくことかもしれない、とサグラダ・ファミリア聖堂の展示を観て考えさせられました。

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特設ショップには自分で組み立てられる「サグラダ・ファミリア聖堂」の模型の数々が。こちらも未完になりそうな難易度です。

「ガウディとサグラダ・ファミリア展」

期間:~2023年9月10日(日)
時間:10:00~17:00 金・土曜20:00まで(入館は閉館30分前まで)
休:月曜日、7月18日(火) ※ただし7月17日(月・祝)は開館
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
    東京都千代田区北の丸公園3-1
https://gaudi2023-24.jp/information/

※会期中一部展示替えあり 

※開催日時などにつきましては、状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。

※滋賀、愛知への巡回予定

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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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