展示はまず、NYの地下鉄の雑踏から始まりました。第1章は「Art in Transit 公共のアート」と題し、ギャラリーを飛び出して公共空間でアートを展示したキース・ヘリングの軌跡を追います。NYの地下鉄の音やざわめきが流れる中、駅構内の広告板にドローイングするヘリングの写真が。普通に逮捕もされたそうですが、公共空間によく描いていた、光り輝く赤ちゃん、吠える犬、宇宙船などはその後もたびたび登場する重要なモチーフとなりました。
生き馬の目を抜くようなNYで、アンディ・ウォーホルと交友を持てたのは、心強かったに違いありません。第3章「Pop Art and Culture ポップアートとカルチャー」では、ヘリングとウォーホルの珍しいコラボ作品も展示。「アンディ・マウス年」(1986)シリーズは、ネズミと合体したウォーホルが担ぎ上げられたり、0ドル札の肖像になったり、0ドル札の山の中に立っていたりするユーモラスな場面が描かれています。作品の下には2人のサインが書かれています。しかし0ドル札にされるとは、価値がないと言っているようですが、アート界のカリスマをこんな風にいじって大丈夫でしょうか? 根底に信頼や尊敬があったからこそ描けた作品かもしれません。
極彩色で独創的な作風のヘリングなので、やはり当時の時代背景的にドラッグをやっているのでは? と疑いの目を向けてしまいます。パラダイス・ガラージというクラブにも通っていたので、これは確定では……と勝手に思っていたのですが、ヘリングがデザインしたアルバムを見て印象が変わりました。レコードのジャケットには太字で「LIFE IS FRESH! CRACK IS WACK!!」と描かれていたのです。訳すと「人生は新鮮だ! クラックはヤバい!!」……ヤバいの意味がどちらなのか素人として判断が難しいですが、おそらくコカインの危険性を訴えているのだと思います。絵には何かを吸引して目がイッている人が描かれていました。第4章「Art Activism アート・アクティビズム」の展示コーナーにも、「CRACK DOWN!」と書かれたポスターが(「クラック・ダウン!」/1986年)。足で吸引器具を踏みつける絵が描かれていました。日本風に言えば「コカイン、ダメ、ゼッタイ」なのでしょう。
第5章は「Art is for Everybody アートはみんなのために」。アートは富裕層だけのものではなく、もっと気軽に手に入れてもらいたいと考えたヘリングは、自身がデザインした商品を販売する「ポップショップ」をオープン。一時は日本にも出店していたようで、その時買った人は、商品にプレミアがついて値上がりしているかもしれません。