フィンランドの巨匠建築家として知られるアルヴァ・アアルトと、公私にわたるパートナーだったアイノ・アアルト。アイノがまだ無名だったアルヴァの事務所で勤め始めた1924年から、彼女が54歳の若さで早逝する1949年までの25年間の協働の軌跡を追う展覧会が、世田谷美術館にて開催中だ。
近代建築界の巨匠として知られる建築家、アルヴァ・アアルトと、その公私にわたるパートナーとして25年間を共にしたアイノ・アアルト。これまであまり注目されてこなかったアイノ・アアルトの仕事に大きく着目しながら、2人の25年間の協働の軌跡を追う展覧会「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」が、2021年6月20日(日)までの会期で、世田谷美術館にて開催されている。
フィンランド出身の建築家の中で最も影響力がある人物のひとりのアルヴァ・アアルトは、1898年、クオルタネ生まれ。1916年から21年までヘルシンキ工科大学で学んだ彼は、1923年にユヴァスキュラに建築設計事務所を設立する。その翌年、この事務所にやってきたのが、アルヴァと同じヘルシンキ工科大学の卒業生であったアイノ・マルシオだった。
アルヴァの4つ歳上のアイノは、1894年ヘルシンキ生まれ。彼らは意気投合し、半年後には結婚している。大学では古典主義建築を学び、新婚旅行で訪れたイタリアでもかの地の古典主義建築から影響を受けたアルヴァ。イタリア旅行での写真やスケッチと、その影響が反映された作品も本展では見ることができるが、1927年に当時のフィンランドでは最も大きな街のひとつであったトゥルクに事務所を移転した頃からは、合理主義的なモダニズムの方向に舵を切ることとなる。
アルヴァはアイノというパートナーを得たことで、「暮らしを大切にする」という視点を持つようになり、その空間の作り方においては、使いやすさや心地よさが重視されるようになった。自宅兼事務所で子育てをしながら、対等の立場で創造的に作品作りに関わったアイノ。本展では彼女が手掛けた家具で構成された空間などの展示も行われており、実際に当時の雰囲気を体感することができる。
シンプルで実用的、低コストで量産可能なものを目指すモダニズムの考え方は、アイノとアルヴァの思想とも合致するものではあったが、2人はフィンランドの自然の要素をデザインに取り入れ、ヒューマニズムと自然主義が共存する、彼らならではの作品を作り上げていく。その考え方が住宅の形で凝縮されているのが、1936年にヘルシンキ郊外に完成した自邸、通称アアルトハウスだ。本展では設計事務所と家族の生活空間が緩やかに分けられたこの家についても、リビングルームの再現や、図面や模型、写真、それに映像作品などで紹介。アルヴァはアイノが1949年に他界した後も1976年に亡くなるまでこの家に住み続け、そのあとも家族によって長く住み継がれていたこの家の魅力がよくわかるので、ぜひじっくり見てほしい。
他にもアイノとアルヴァ、アート・コレクターで資産家のマイレ・グリクセン、美術史家のニルス=グスタフ・ハールの4人が「家具を販売するだけではなく、展示会や啓蒙活動によってモダニズム文化を促進すること」を目的に設立した家具ブランド、アルテックの黎明期を丁寧に紹介するコーナーや、1938〜39年に開催されたニューヨーク万国博覧会のフィンランド館、アイノの死後の1949年に竣工したマサチューセッツ工科大学のベイカーハウス学生寮などの読み解き的な展示も。さらに、アルヴァ・アアルト財団が所有する、アイノとアルヴァの私的な遺品を含むファミリー・コレクションも日本初公開。アイノによる美しい水彩画やデザインスケッチ、家族写真なども見られるので、最後まで飽きることなく楽しめる。
なお、会期中の美術館内にはアルテックと、アイノやアルヴァがデザインしたガラス器を販売しているフィンランドのブランド、イッタラによる特設コーナー「Contemporary Living with Aalto –アアルトデザインと暮らす-」が。インテリアスタイリストの黒田美津子がアイノとアルヴァのデザインした家具や食器を使って心地よい暮らしのシーンを作り上げているので、こちらもぜひお楽しみに。
「アイノとアルヴァ 二人のアアルト フィンランド―建築・デザインの神話」
会期:〜2021年6月20日(日)
会場:世田谷美術館 1階展示室(東京都世田谷区砧公園1-2)
開館時間:10:00~18:00(入場は17:30まで)
休館日:月曜 ※ただし5月3日(月・祝)は開館、5月6日(木)休館
日時指定予約制
050-5541-8600(ハローダイヤル)
https://www.setagayaartmuseum.or.jp/
text : Shiyo Yamashita