YOSHIROTTENさん、【NFTアート】について教えてください! メディアアートプロジェクト「SUN」から考えるデジタルアート #3

Vol.3となる今回はアーティストのYOSHIROTTENさんをお迎えし、アートとデジタルの最前線についてさらに深掘り! 国内外で数々のデジタルプロジェクトを手掛け、今年3月には複合メディアアートプロジェクト「SUN」を成功させたYOSHIROTTENさん。鈴木えみさんとは旧知の間柄ということもあり、自身の作品に込めた思いや今後の展望、アーティストの側面から眺めるデジタルマーケットへの声について、じっくり語っていただきました。ナビゲーターの「HARTi」代表・吉田勇也さんとともにスペシャル鼎談スタート!

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(右)吉田勇也●1995年生まれ。株式会社「HARTi」代表取締役CEO。「感性が巡る、経済を創る」を企業理念に、 NFTプラットフォームを展開。日本のデジタル産業を牽引する存在として注目を集めている。(中)鈴木えみ●クリエイター・デザイナー。数々のメディアで活躍し、自身のファッションブランド「Lautashi」も展開。2018-2019年AW東京コレクションではメディアアーティスト落合陽一とタッグを組み、デジタルとファッションを融合したショーを発表。優れたアンテナを持ち、デジタルに関する知識も豊富。Instagram:@emisuzuki_official/ (左)YOSHIROTTEN●クリエイティブスタジオ「YAR」代表。東京をベースに活動するグラフィックアーティスト。グラフィック、映像、立体、インスタレーション、音楽など、ジャンルを超えたあらゆる表現方法で作品制作を行う。ミュージシャンのアートワーク制作、広告ビジュアル制作、店舗空間デザインなど、アートディレクター、デザイナーとしての活動も多数。Instagram:@yoshirotten

移り変わる色相を眺めて毎日メディテーション。NFTならではの新たな価値を体感できる「SUN」

鈴木えみ(以下・E): 3月の「SUN」、行きたかったんだけど、どうしても都合がつかず……残念だった。

YOSHIROTTEN(以下・YRT): 東京にいなかったんだっけ?

E:そう、ちょうどいなくて。

吉田(以下・吉田):「SUN」は私たちの界隈でも、とても話題になっていましたね。

E: 具体的にどんな展示だったの?

YRT: インスタレーションもあるし、立体物から平面作品、アクリル、本、レコードなどいろいろって感じですね。「SUN」は今回の展示に限らず、複合的なアートプロジェクトなんです。365個のビジュアルイメージをいろんなカタチに落とし込んでいて、NFTに関しては、ユーザーが手に入れた瞬間から一年かけて色相が変わって一周する仕様になっていて。それを眺めることで、画面越しにメディテーションとしても楽しめる作品になっています。

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「SUN」の会場の様子。東京都の国立競技場・大型駐車場にて開催された。
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「SUN」で販売されたNFTアートの一部。作品それぞれに365日のいずれかの日付がタイトルとして割り振られている。

E: え〜、それめっちゃいい! それこそNFTである意味が生まれるね。

YRT: そもそも、コロナ禍に「1日1枚、何かしらのイメージを制作しよう」って考えたところから生まれたんです。それを1年間続けて、作品のタイトルには、1月1日から12月31日までの日付がついているんですよ。それをNFTという形に落とし込み、色相の移り変わりを毎日手もとで眺めることで、メディテーションのような使い方もできると思って。“NFTでメディテーション”は世界初の試みだったかもしれません。

吉田: 確かに聞いたことないですね。

E: 9月13日、私の誕生日は残ってるかな?

YRT: 誕生日は……売り切れてるね。どちらにしてももう販売は現在ストップしていて。またゲリラ的にオープンする予定です。

E: あ、そうだった(笑)。

YRT: 当初、僕がNFTで引っかかっていたのは、“作品の価格が広く知られる”という点だったんです。ギャラリーで作品を販売する際にはもちろん値段がつくんですけど、それはそこに足を運んだ人たちだけが知る情報じゃないですか。でもNFTになると、ネット上に価格が公表される。それが一番のニュースになって、アートの話とはかけ離れていた。最初はそこに抵抗がありました。でも「SUN」に関しては、みんなにこれを持ってもらうことが非常に意味のあることだったんで、踏み切ったって感じですね。

E: これを買ってウォレットに入れたら、毎回それを開かないと見られないもの?

YRT: 基本的にはそうだね。スマートフォンのロック画面にする場合は、別のアプリに落とし込んでって感じかな。

吉田: ウィジェットとか、推し活系アプリとかで対応できるかもしれないですね。自分が持っているデジタルトレカを表示するアプリがあるんですよ。そこはNFTの領域というより、OSの問題かもしれませんね。

E: もし購入したら、毎朝起きた時に見られるようにしたいなって思う! “NFTでアートを買う”ってことが、今は投資目的で買う人が多い気がして……。それはそれで全然いいと思うんけど、そういうある種の自慢のためじゃなく、メディテーションっていう目的だったり、自分のための実用性もあると、すごく身近に感じられるし、本当に欲しいって思えるよね。

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ステイして、感じて、「SUN」の世界に浸る。 NFTを所有することで広がる、次なる体

YRT: NFTの要素で、これはユーティリティって呼ばれるものなんだけど、それを持っているとその次に何ができるかっていう、そこも大事じゃないですか。僕は今後、宿泊型施設を作って行くんですけど、「SUN」のNFTはその会員券みたいなもので、そこに優先的に泊まることができるみたいな。

E: そうなんだ! さらに最高だね。欲しかった……!

YRT: 自分が持っているNFTが、その宿泊施設で新たな映像作品になったり、太陽がない時には僕の作品を体験して、実際に日が昇ったら、自然と作品とが融合するようなインスタレーションが観られたり、そういう施設を作りたいって思っていて。

E: いいな〜!

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YOSHIROTTENさんが考える、「SUN」のNFTを持つ人が優先的に訪れることができる施設のイメージ。

YRT: 今回の「SUN」は、そのプレゼンテーションでもあったんです。

吉田: YOSHIROTTENさんが素晴らしいのは、アートとユーティリティがちゃんと両立しているところですよね。裏側の権利だけ、ユーリティリティだけだと、運用や投資の側面が大きくなっちゃうじゃないですか。大事なのは、そのNFTにクリエイティブだったり、哲学があるかってこと。さらにそのカルチャーの中に浸れる体験ができるって、素晴らしいですよね。

YRT: まさに、そういうことができるといいなと思っています。各地域、サイズもさまざまで。宮古島だったり北海道だったりっていうのも、海外から友人が遊びに来たときに、「日本で面白いところを教えて!」って言われても、案内したいところがあんまりないなって以前から悩んでいて。友人も結構刺激的なところを求めている人が多いから、だったら自分で作りたいな、と思ったんです。

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E: 日本国内でアテンドされる場所って、限られてるもんね。

YRT: 今後は企業や自治体などとも組んで複合的に進めていきたいと思っています。僕は「YAR」という会社も経営していますが、もう一つWeb3.0に特化した「Y_D(ワイディ)」っていう会社を作ったんですよ。NFTを製作するとか、メタバース上でのデザインスタジオとして、新たなグラフィックの案件をやっていこうってことで、新たな別会社を作ったんですね。

吉田: スタートラインを決めて一気に始めているんですね。素晴らしいですね。

デジタル作品をピュアに届けられる。 NFTが教えてくれる、アートの持つパワー

E:今回の「SUN」には最終的にどれくらいの人が来場したの?

YRT: 2日間の開催で、集客は約5,000人くらいかな。子供たちも多くて、すごく楽しんでたよ。

吉田: 家族で楽しめるというのもいいですね。NFTの購入者へのコミュニケーションはスムーズでしたか?

YRT: イベントではインスタレーションフロアとギャラリースペースを設けていたんですけど、その中にNFTブースを作ったんです。そこで、NFタグっていうカードを購入すると、タッチするだけでウォレットを作る機能が入るシステムを導入してたんですよ。

E: 手取り足取りNFTについて説明してもらえる機会って、すごく親切だね。

YRT: その後「Zora」っていうマーケットプレイスで、オープンエディション、限定版じゃないものを1週間で300個くらい配布したんです。そうやってNFTは”NFTの遊び方”を知ってもらう方法を別軸で進めています。

吉田: YOSHIROTTENさんの作品だと、NFTが分からなくても、「アートとして欲しい」って想いが先行して、何とかして理解しようってなる。それが本当にいいですよね。

YRT:「初めてのNFTだった」とSNSに投稿してくれる人もたくさんいましたね。

E: NFTに関しては、どれくらいから具体的に考えていたの? 「SUN」に取り組む前からイメージできてた?

YRT:  コロナ禍の緊急事態宣言中に一日一作品の制作をスタートさせて、本当に最初はただコツコツ作ってただけだったんだよね。でも、100日分くらいの作品ができたときに、そこからなんとなく今の「SUN」の形やNFTについて考え始めたって感じだね。

吉田:  先ほど作品の価格の公表の話もありましたけど、アーティストとしては、ご自身の作品とNFTをどのように考えていたんですか?

YRT: 僕はもともとデジタルで作品を作っているので、それがちゃんとしたアートとしてみんなに捉えられているのか、っていう疑問がずっとあったんですよ。結局プリントしたり、立体にしたり、アウトプットしない限り伝えられなかった。でもNFTの登場によって、自分の作品の一番ピュアなデジタルの状態に価値がついたことに感動したんです。でも、最初のマーケットはやっぱり投資目的の側面が強くて、ちょっとな〜と。

E: 過激だったし、偏りもすごかったもんね。

YRT: どこかスニーカービジネスに似てるっていうか。誰かが持って、それを転売してっていう。確かに過去にない革命的な事例だったけど、それは作品にピュアに向かうものではないかなって思ってました。

吉田: 確かに、トレーディングカードに近いですよね。だからキャラクターがメインになっていて。作品性はあまりないかもですね。

YRT: 僕の作品には、そことは全然違う価値があると思っていたんで、1個1個やっていこうって思ってました。流行りとか熱が少し落ち着いてからかなと。

E: ピュアなものはどんどん増えていきますかね? どうですか?

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吉田: 僕がこの世界に入ったきっかけも、何百年前の油絵とか彫刻だけでなく、デジタル作品にもアートとしての価値がついたっていいじゃないか、という想いがきっかけだったんです。YOSHIROTTENさんの作品がきっかけに、デジタルアート市場が変わっていくといいですよね。

E:「SUN」みたいにメディテーションという自分への還元があると納得しやすいし、持っている意味を実感しやすいですよね。でもアートって、そもそも私たちに感動や癒しやインスピレーションを与えてくれるものだし、それは絵画だろうと、立体だろうと、デジタルだろうと、同じ。NFTの話を通して、アート本来の意味を再確認できた気がします。