【INTERVIEW】脚本家・古沢良太の「記憶のカケラ」をよむ

「今、自分に何か特別な能力が宿るとしたら、とにかく時間を増やす力が欲しい……」
今をときめく人気脚本家は、いくぶん切実な表情でこう漏らした。

4月29日に公開される映画『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』は、近年の邦画では珍しい完全オリジナルのエンターテイメント作品だ。今回はその脚本を手がけた、“今もっとも眠れない脚本家”である古沢良太さんにインタビューする機会をいただいた。

ALWAYS 三丁目の夕日』では、アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。その他にも『探偵はBARにいる』シリーズや、TVドラマ『リーガル・ハイ』シリーズなど、これまで手がけた数々の映画やドラマはどれもヒット作ばかり。まさに「すごい」の一言に尽きる。
事前情報によると、ご本人はどうやら無口で内向的な方らしい。なかなか不安になる前情報を仕入れてしまったなと思った。稀代の超売れっ子脚本家との対面を前に、緊張がひた走る。

だが実際にお会いして話を始めると、その印象はガラリと変わった。素朴なルックスと物静かな口振りは、確かに寡黙なようにも感じられるが、決してそんなことはなかった。こちらから色々と答えを引き出せるように質問を多めに用意していたが、一を聞けば十は返ってくる。話し方こそ落ち着いてはいるものの、その気さくな人柄にはかなり良い意味で拍子抜けした。

「昔から、よく誤解されて生きてきた人間なんですよ。学生の頃、お肉屋さんでアルバイトしていて、クリスマスの時期になると道行く人に大声でチキンの叩き売りをしなきゃいけなかったんです。僕そういうのは仕事だったら楽しんでやれるんだけど、店の先輩は『アイツにそんなことできるはずない』って。結局やらせてもらえなくて寂しい思いをしたこともありました(笑)。人って、そうやってすぐに思い込むんですよね」

ご自身のちょっぴり切ない「記憶のカケラ」が、まさに今回の作品を書くきっかけとなった。
人の勝手な思い込みによって引き起こされる悲しい事件。それが、今回の物語の軸となっている。

「同じことでも、人とまったく違う風に覚えていることってあるじゃないですか。特に今の時代は、知りもしない相手のことを勝手に決めつけて叩きのめす、なんてこともよくあるし。なんでそんなに自分の都合のいいように解釈できるんだよ!って言いたくなる時もあるんだけど、もしかしたら自分自身もそうなのかもしれない。でも、そこでなかなか『自分もそうかも』とは思えないんですよ。自分の心のフィルターを通すと、どうしてもそれが正しいって思ってしまうものだから。こういうことは、昔からよく考えていました」

ストーリーそのものの面白さはもちろんだが、古沢脚本の最大の魅力は、何と言っても登場人物が持つ強烈な個性にある。

今作で野村萬斎さん演じる主人公の仙石は、残留思念(物や場所に残った人間の記憶や感情)を読み取ることができる超能力者という設定。特殊な能力を持ってしまったばかりにお笑いコンビとしての活動を強いられ、それで神経をすり減らしてしまい、極度の人間嫌いに陥ってしまう。この仙石という人物は、本来の萬斎さんのイメージが180℃覆るほど、とにかくめちゃくちゃ暗い。そこに、雨上がり決死隊の宮迫博之さん扮する、元相方の丸山竜二がやたらと騒がしく絡むことで、異色のコンビができ上がった。

「どちらかというと、ストーリーよりもこのキャラクターが観たいって思ってもらえるような作品づくりを心がけているので、登場人物をなるべく濃く作ることに注力しています。そうすると、気づいたらかなりの変人になっていることが多くて(笑)。だから、ちゃんとパートナーが突っ込んであげないと成立しなくなってくるんです。」

バディの絶妙な掛け合いも古沢脚本の面白みのひとつだ。あの独特のユーモアは、いったい何をヒントに生み出されるのだろう。

「漫才もそうですけど、相手のツッコミが入って初めて成立する笑いってあるじゃないですか。僕自身も、普段からそういうのを期待して冗談を言ったりするんだけど、期待通りのツッコミが入らなくて、結果すごく嫌な空気になる時もあって。だから、あの時こう言い返してくれてたらこんなに面白い会話になってたんだぞっていうのを、台本の中にぶつけている感じです。そういう意味では、僕は台本を書くことで自分自身の誤解を解いているのかもしれません(笑)」

古沢さんご自身の経験から引き出された、クスッと笑えるセリフからも目が離せない。

最後に、今回の映画の見どころについて聞いた。

「仙石は、自分が望まない能力を持ってしまったばかりに、それに苦しんでしまいます。でも人と違う能力を持ってしまった以上、それをみんなのために使って生きていかなければならない。そういう自分自身を受け入れていく物語でもあります。
あと、この映画はミステリーコメディですが、意外とラブストーリーだとも思っています。今、目の前にいない人に恋をすることで、少しずつ自分の心の扉を開いていく物語でもある。そんな風に観ていただけても嬉しいです」

『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』
監督:金子修介 脚本:古沢良太
出演:野村萬斎、宮迫博之、安田章大、杉咲花、木村文乃、風間杜夫、高畑淳子
4月29日公開

Text & interview: Eimi Hayashi
Photography:(C)2016「スキャナー」製作委員会

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