世界的ファッションイラストレーター、マッツ・グスタフソンと考える、手仕事の真価

スウェーデン出身、現在NYに拠点を置くファッションイラストレーターの、マッツ・グスタフソン。見事なロマンスグレーの紳士がキャリアをスタートさせたのは70年代のこと。故フランカ・ソッツァーニにその才能を見出され、これまでに世界中の有名ファッション誌をはじめ、コム デ ギャルソン、ヨウジヤマモトなど数々のデザイナーとのコラボレーションを手がけてきた。

インクドローイングとウォーターカラーを得意とする彼の作風は、ミニマルで抽象的。大胆なシルエット造形と、ハンドワークならではの豊かな濃淡によって描き出されるポエティックな世界観は、写実的な作品が主流とされるファッションイラストレーションの流れの中で異彩を放っている。

今回、MA2ギャラリーにて個展を開催するにあたり来日を果たしたマッツ氏にインタビューを行った。デジタル化の波に反するように、近年盛り上がりを見せるファッションイラストレーションの世界を、少し覗いてみよう。

マッツ・グスタフソン個展「NUDE」エキシビションイメージ Image courtesy of artist
マッツ・グスタフソン個展「NUDE」エキシビションイメージ Image courtesy of the artist and MA2Gallery

 

── 5年ぶりの来日ですね。前回は自然をテーマにした個展を開催していましたが、今回の個展について教えてもらえますか?

今回の個展ではヌードを題材にしています。自然とヌード、いずれも私が個人的に長く描き続けてきたモチーフです。私のことを知っている人は、ファッションイラストレーターだと言うでしょう。一方で、個展でお見せする作品たちは、より私のパーソナルな一面に焦点を当てています。

── 展示作品の中には、初期の作品も含まれているようですね。

ヌードの作品を描き始めたのは90年代のこと。今回の個展では初期の作品を含むアーカイブを集約しています。

── ミニマルなインクドローイングから、より抽象的なウォーターカラーまで、それぞれ作風が少しずつ違うのが印象的でした。

使っている画材はずっと同じ。ペンと水彩絵の具。でも時代によって少しずつ作風が違います。たとえば、この作品はウォーターカラーに見えて、実はインクのみ。ラインを描いた後に、水に浸して滲ませて微妙な濃淡を出している。だから、乾くまで仕上がりが分からない。シンプルに見えて、意外と大変なんですよ(笑)

インクドローイングを、異なる工程で表現した作品。Images courtesy of artist
インクドローイングを、異なる工程で表現した作品。Images courtesy of the artist and MA2Gallery

 

── 長いキャリアの中で、名だたるアーティストやデザイナー、編集者とのコラボレーションを手がけています。特に印象に残っているプロジェクトはありますか?

私がキャリアをスタートさせた頃に仕事をしたのは、ロメオ・ジリ。昨年この世を去ったフランカ・ソッツァーニの推薦でした。まだ駆け出しだった私にとって、彼とのコラボレーションは非常に有益でした。

その他に影響を受けたのは、コム デ ギャルソンの川久保玲や、山本耀司。今年の1月にリゾーリ社から創刊した『Dior by Mats Gustafson』では、ディオールのアーカイブ作品を描かせてもらうという貴重な経験もさせてもらいました。

ラフ・シモンズによるディオール2013年春夏コレクションを描いた作品。Image courtesy of artist
ラフ・シモンズによるディオール2013年春夏コレクションを描いた作品。Image courtesy of artist

 

── ある雑誌のインタビューで、モデルに興味がないと仰っていたのが興味深かったです。

作品制作の時に、モデルをイメージして描くということはあまりないですね。私の頭の中にあるのは、洋服のプロポーション、ルックに込められたメッセージ、そしてデザイナーのビジョン。

── ファッション作品の制作にあたって、どのようなリファレンスを参考にされるのでしょう?

昔はファッションショーに必ず足を運びました。あとは、コレクション速報に載っている写真も欠かさずチェックします。最近ではライブストリーミングも一般的になってきたので、動画を観てルックのディテールまで確認できるようになりました。先ほどのディオールの作品集では、アーカイブ作品にも触れることが出来ました。

『Dior by Mats Gustafson』収録作品。Image courtesy of artist
『Dior by Mats Gustafson』収録作品。Image courtesy of artist

 

── リサーチの方法も、時代やプロジェクトによって少しずつ変わっているということですね。ところで、最近若い世代のファッションイラストレーターが増えた印象があります。SNSでもよく見かけますし。

そうなんですね!知らなかったです。SNSをやっていないので

── ドローイングの工程を動画で発信している人なんかもいたりして。

なるほど、面白いですね。私自身はマイペースなので、デジタルにはあまり関心がないのですが、若い世代がファッションイラストレーションに興味を持つのは、理解できる気がします。スマートフォンがあれば今や誰もがフォトグラファーやグラフィックアーティストになれる。だからこそ、究極のアナログフォーマットであるイラストレーションが、貴重に感じられるのではないでしょうか。

── 確かに、ファッションイラストレーションには、デジタルにはない、手仕事ならではの情緒がありますよね。

デジタルのように、すぐにやり直すことが出来ないですからね。手仕事だからこそ可能な表現は、テクノロジーにも負けないと私は信じています。

Photo by Robert Johansson
Photo by Robert Johansson

 

Mats Gustafson(マッツ・グスタフソン)
1951年スウェーデン生まれ。1970年代後半からはニューヨークを拠点にして国際的に活躍。故フランカ・ソッツァーニその才能を見出され、世界中の著名ファッション誌で活躍。エルメス、ティファニー、ヨウジヤマモト、コム デ ギャルソンなどブランドのビジュアルも数多く手がける。2017年1月には、ディオール70周年を記念して創刊されたイラスト集「Dior by Mats Gustafson」を上梓。これまでにヴィクトリア&アルバート美術館をはじめ、世界各地で展覧会を開催。現在ストックホルムとNYに拠点を置く。

text:Shunsuke Okabe

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