東京・秘境チャイニーズ

東京の中華シーンで、地方料理の風が吹き荒れている。とっておきの一皿を口にすれば、そこは即、異国!

湖南料理 香辣里(シャンラーリー)

ハーブと発酵、燻製が生むキレある辛さ

中国南東部に位置する湖南省の料理は、口に運ぶだけで発汗する辛さが特徴。ただ清々しく、後味が爽快との話も。「ハーブを多用、また発酵や燻製を駆使するので、キレある辛さなんです」。神田『味坊』、御徒町『羊香味坊』などの人気店で中国東北料理の魅力を伝えてきたオーナーの梁宝璋さん。新たな中華のおいしさを発信すべく、今年6月、こちらの店を開業した。爽快な辛さの「青唐辛子のピータン和え」(1・右奥)や適度な塩味の「燻製豚三枚肉と葱の炒めもの」(2)、唐辛子と発酵香がワインを呼ぶ「臭魚〜季節の白身魚の香辣蒸し」(1・手前)など。辛さのレパートリーは幅広い。しかし最も有名なのは郷土の偉人・毛沢東が愛した料理、豚の角煮だというから、辛いだけが湖南料理の魅力ではない。

1 「臭魚〜季節の白身魚の香辣蒸し」¥2,300〜¥3,500(魚の大きさにより異なる)。塩水漬けで発酵させた魚を唐辛子で調理する。奥は「青唐辛子のピータン和え」¥700
2 「燻製豚三枚肉と葱の炒めもの」¥1,000。燻製は自家製。唐辛子がアクセントに
3 「毛沢東の大好物 湖南風豚の角煮」¥1,200。インゲンの煮つけもたっぷりと

DATA

東京都世田谷区太子堂4の23の11 GEMS三軒茶屋7F
03-6450-8791
営業時間:11時30分〜14時30分(LO) 18時〜23時30分(LO)、〜翌2時30分(LO/金)、11時30分〜翌2時30分(LO/土)、11時30分〜23時30分(LO/日・祝日)
無休

 

山西料理 山西亭(さんせいてい)

形状や原料が多彩な魅惑の麺ワールド

三国志に登場する関羽を生んだ山西省は、北京から西に300㎞余り。小麦栽培が盛んで主食は麺、刀削麺発祥の地としても名高い。「写真を見て、ハチノスと勘違いする人もいます」。店主の李俊松さんが指すのが「燕麦のせいろ蒸し麺」(4)。山西省特産の莜麦(ハダカ燕麦)の薄い生地を一枚ずつセイロに並べて蒸した、郷土の料理だ。そのまま食べれば、自然の甘み。つけ合わせのトマトソースで酸味を加えるのもいい。刀削麺は塩・麻辣味も人気だが、具がたっぷりの焼きそば(6)もおすすめ。山西料理の味の決め手・黒酢の風味が食欲をそそる。猫の耳や魚を模した形状に加え、ジャガイモなど原料も多様な麺料理の数々。大人数でシェアして、一皿でも多く堪能したい。

4 「燕麦のせいろ蒸し麺」¥780。トマトソース、唐辛子入り黒酢をつけていただく
5 「山西凉粉(リャンフェン)炒め」¥700。ジャガイモのでんぷんを湯で溶かして固めてから切り分け、炒めて黒酢をきかせる
6 「過油肉(グオヨウロウ)焼き刀削麺」¥1,280。豚肉と野菜を加えて、醤油と黒酢で味つけした刀削麺の焼きそば

DATA

東京都新宿区大久保2の6の10 B1
03-3202-7808
営業時間:11時〜15時
17時30分〜23時(LO)
定休日:日曜

 

湖南・雲南・台南料理 南方中華料理 南三(みなみ)

ミックスして洗練された中国辺境の味

荒木町・車力門通り界隈に今年5月オープン。湖南・雲南・台南料理ベースの8皿5,400円のコースに絞り、連日満席の盛況ぶりだ。店主の水岡孝和さんには、人気店「黒猫夜」で中国地方料理の腕を磨きながら、現地にも留学した経歴が。その知識と経験で地方の味を巧みに合わせる。たとえば「珍味盛り」(9)では、ウイグルソーセージにもち米をしのばせる。台湾シャルキュトリの手法で全体のまとまりを作り、より食べやすくするためだ。さらに羊には雲南で一般的な食材、ミントやレモングラスを合わせて。湖南の火鍋の材料をコンフィに入れるスパイスとしてアレンジし、西洋の技法までも駆使する。毎月メニューが変更されるたび深化する現在進行形の味をぜひ体感したい。

7 「ニラミント羊オーブン焼き」。肉の味わいの重厚さとは対照的に爽快な食後感
8 「アユコンフィ火鍋ソース」。香りに長じた唐辛子を使うため、見た目ほど辛くない。醤油と黒酢の味わい
9 「珍味盛り」は左から鴨舌スモーク、大腸葱パリパリ揚げ、ウイグルソーセージ。中華シャルキュトリは、水岡シェフのスペシャリテのひとつ

DATA

東京都新宿区荒木町10の14 伍番館ビル2F B
03-5361-8363
営業時間:18時~21時(最終入店)
※要予約
定休日:日曜・祝日(不定休あり)

 

甘粛料理 沙漠之月(さばくのつき)

東西文化の交流点が育む豊かな食文化

シルクロードの分岐点だった敦煌を擁する甘粛省の料理には、西洋の味覚が混ざる。女性店主の英英さんが作る「ソーズ麺」(11)は、トマトソースの味わい。「ほかにも卵と炒めたり。味つけや具材に、甘粛ではトマトが大活躍します」。そんな彼女が提供するのは小麦が主食の故郷の家庭料理。形状から中国で「爆竹麺」(12)と呼ばれる炒め麺は、隣省の四川料理とは違い、ふんわり香る辛さだ。「もっと辛い麺も作れますよ。甘粛の味もまた、中国の多様な料理の影響を受けて育まれたものだから」。餃子と麺の生地を仕込み、旬の野菜を揃えて客の要望にこたえる英英さん。味つけの幅広さこそが甘粛の家庭料理の魅力と語る。カウンター5席の店内はいつも彼女を慕って訪れる客の笑顔でいっぱいだ。

10 「自家製餃子」は¥500。この日は白菜を模した外見。緑の部分にはホウレンソウが練り込まれている
11 「ソーズ麺」¥700。大根、ナス、ジャガイモなどの野菜、キクラゲなどきのこもたっぷり(メニューにない日もある)
12 「爆竹麺」¥1,200。濃厚な味でビールのつまみにも最適。自家製ラー油を足すと辛さを調整して楽しめる

DATA

東京都豊島区東池袋2の63の15 3F
080-6634-9898
営業時間:18時30分〜23時
定休日:日曜・祝日 

SOURCE:SPUR 2018年11月号連載「秘境チャイニーズ」photography: Motokazu Hara styling: Tsuyoshi Takahashi 〈Decoration〉 edit: Koji Okano

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