伝統ある「江戸前料理」が今、新しい局面を迎えている。伝統的な仕事に技と工夫を加えた寿司、蕎麦、鰻、天ぷら。その注目すべき唯一無二の美味4軒を、“タベアルキスト”マッキー牧元がガイドする
寿司、蕎麦、鰻に天ぷらは、東京が誇る食文化である。いずれも江戸時代後期にいわゆる“仕事”が確立し、全国に広がっていった。当然、東京には数多く名店がある。今、そんな状況をより面白くしているのは、「新・江戸前」と呼びたい、新たな仕事を加えた店である。知恵と工夫、技が至福へと導く各店を紹介しよう。江戸前という言葉でまず思い浮かぶのは寿司であろう。今や全国から最高品質の魚介が集結し、鮮度が要求されるものと、寝かせておいしくなっていくものが区別されるようになったが、その考えをさらに推し進めたのが「すし 㐂邑(きむら)」である。
店主の木村康司さんは、今まで誰もやっていなかった「魚の熟成」という仕事を始めたのである。血抜きをし、内臓をとって密封。魚種や状態を見て熟成日数を決める。周りをどれくらい削るか見極め、赤酢に合うネタを作り出す。初めて食べた驚きは忘れない。鰯やカンパチ、鯖など、知っている魚が味わいをぐっと深め、色香を灯していた。それが赤酢の酢飯と美しく共鳴する。脂がきれいに抜けてなめらかさが増し、貴婦人の品を漂わすカンパチ。磯臭さが消えて酢飯と抱き合いながらうま味を膨らませる、イサキ。繊維などなきかのようにしなやかで、濃密な味に笑う、皮付き鰯。

1カ月熟成のカンパチ、2週間のシマアジとイサキ

鮑と、10日間熟成の鰯
SOURCE:「Edo Dining Renaissance」By T JAPAN New York Times Style Magazine BY MACKY MAKIMOTO, PHOTOGRAPHS BY SHIGERU OHTSUKI SEPTEMBER 27, 2018
その他の記事もチェック
T JAPANはファッション、美容、アート、食、旅、インタビューなど、米国版『The New York Times Style Magazine』から厳選した質の高い翻訳記事と、独自の日本版記事で構成。知的好奇心に富み、成熟したライフスタイルを求める読者のみなさまの、「こんな雑誌が欲しかった」という声におこたえする、読みごたえある上質な誌面とウェブコンテンツをお届けします。
