「センセイ」と、僕【part2 ステファン・ランビエール編】

ラトビア代表として活躍中のデニス・ヴァシリエフス選手。今、トップに向けて駆け上りつつある19歳の彼のコーチを務めるのが、ステファン・ランビエールだ。2018年は2月に平昌五輪、3月のミラノ世界選手権を経て、フィギュアスケートで最もハードなシーズンが幕を閉じた後も、5月には日本のアイスショーに出演と多忙を極めている。そんな彼にコーチとしての自らの活動について聞いた。

コート(カーフレザーベルトつき)¥410,000・タートルネックニット(参考色)¥92,000・パンツ¥125,000/クリスチャン ディオール(ディオール オム)

——今回はアイスショーで来日(取材は6月中旬)されていますが、新シーズンに向けての準備はどのぐらい進んでいますか?

ステファン:日本に来る前、4月に私たちの拠点であるスイスのシャンペリーで10日間の合宿を。この合宿では、神戸、新潟、静岡のアイスショーで披露する私とデニスのペアプログラム『アイズ・シャットーノクターン No.13』と、デニスの新シーズンのショートプログラム(以下SP)の振付を行ったんです。今季のSPは振付師のサロメ・ブルナーを中心に、これから私たちでブラッシュアップしていく予定です。

その後は1週間の休暇をとり、ラトビアで10日間の合宿に参加。そこでフリースケーティング(以下FS)に取りかかりました。ペアプログラムとデニスのFSは、日本のコンテンポラリーダンサーである小㞍健太さんと私の共作になります。小㞍さんには、まず陸上の動きを氷上に移していくということが、どういうことかを理解してもらい、一方で、私とデニスも彼の複雑な動きをどうしたら氷上に組み込めるのか?を考えました。まずシャンペリーでアイスショー用のペアプログラムから入り、そのあとで競技プログラムに進んだことで、お互いを理解する関係を作れたことが良かったですね。

——競技シーズン前ということもあり、デニスが選んだSPとFSの曲名はまだ秘密ですよね。ヒントだけでも教えてください

ステファン:SPはこれまでよりも、より“グルーヴィー”な感じ。すごくはっきりとしたダンサブルなリズムがあるのですが、その動きの中で非常に重要な要素となる“緩み”をもたせました。リズムと緩みのコントラストこそが、デニスの得意とするところ。動きに正確でありながら、彼はクールな緩みも表現できるんですよ。

一方でFSは“日本的なタッチ”を加えています。2回目のキャンプでの振付はとてもスムースに進みました。五輪後に大きなルール改正がありましたが、私たちにとって特に気になることはありません。新ルールに適応した内容になったと思いますよ。

——同じくシャンペリーでレッスンに励む島田高志郎選手の振付はされていますか?

ステファン:はい。彼のショートにはベンジャミン・クレメンタインの『アディオス』、フリーの『ブエノスアイレスの冬』を振り付けました。

このショートプログラムは、とてもコンテンポラリーな内容なんですよ。最初は、彼が今までやってきた内容とは全く異なる雰囲気から始まります。そして、途中に“破壊”のような間が差し込まれて、雰囲気が変わります、そう劇的に。そのあと、とてもリズミカルな曲とともに、強い主張を持つ歌詞が続きます。この曲を選んだのは、高志郎自身。歌詞には、彼の人生に対する考えや、どのように人生を歩んで行きたいかといった彼の個人的な気持ちが込められているんだと思います。ムーブメントや演技に注ぐ高志郎の感情の強さは見ていて美しく、とてもわくわくさせられる。FSの方は、まだ途中。個性豊かな内容になっています。

——ロシアの選手・ミハイル・コリヤダさんが、あなたとの写真をInstagramにアップしていました。彼のSPの振り付けはあなたが?

ステファン:そのとおり。少しロックでいて、同時にロマンチックな、二面性を持つプログラムです。彼の魅力は活気とスピード。また、性格は実に素直で天真爛漫です。それをプログラムで表現したかった。あと、彼のFSのステップシークエンスも振り付けました。これはラテン系、ヒスパニック系という全く違うコンセプトがテーマになっています。彼との振り付けの作業はとても楽しいものでした。なぜなら、彼は美しいポジジョン取りができるだけでなく、そのポシションを見事にコントロールすることができるから。しかも非常にポジティブな人間で、人当たりが良い。彼がスケートを滑っているのを見ていると、本当に朗かな子だと感心します。

——今回のアイスショー(ファンタジー・オン・アイス 2018)では羽生結弦選手とも会いましたよね?

ステファン:そうですね。平昌五輪について、彼の凄さにとにかく圧倒されました。身体的な能力はもちろんですが、非常に安定していて、精神的な強さが物凄い。普通の人間では考えられないすごい人です。規格外ですね。私なんて彼の足元にも及ばないです。彼のことは、本当に尊敬しています。

——あなた自身についても質問させてください。アイスショーでは「Read  All About It」という新プログラムを披露してました。

ステファン:夏のアイスショー「Fantasy On Ice」の前半の公演では、「Slave to the music」と「Read All About It」の2つのプログラムを滑りました。「Read All About It」は衣装にも注目して欲しいんです。衣装の背中に、透明な布で作った「窓」があるんですよ。この窓を通して、私の背中が現れます。実は、この窓は私の心の中にあるものを見ていただくためなんです。すなわち、パワーと、相反するもろさとを。

この演目ではエミリー・サンデーの歌声にあわせて滑りましたが、彼女の歌声からスピードをもらい、そのスピードで自分の個性のポジティブな部分を強調できたことに、満足しています。タイトルの「Read All About It」というタイトルのまま、伝えたかったのは「私の内側にある全てをみてください」、「私の演技を通して私の全てを見てください」ということ。

——現役を退いたあとも、アイスショーで活躍されていますが、特にあなたのスピンは現役選手たちも憧れる技術をもっていると思います。この技術を保つために、どんな特別な努力をしているのでしょうか?

ステファン:技術のトレーニングは常にしていますね。学ぶこともまだまだありますし、さらに進化することも可能だと考えています。最近、大変だと感じているのは、教えるという責任を負う一方で、アイスショーにも参加していること。両輪の時間的なバランスをとっていくのは難しい。それでも、短時間でも毎日自分のための時間を確保し、体の鍛錬、テクニックの練習、振り付けの練習をしています。

スピンに関してですが、実は、昔に比べるとスピン自体を練習する回数はずっと少なくなりました。スピンをたくさんすることは、筋肉にかなりの負荷を与えるので、体にとっては負担なんです。スピンをする上で最も重要なのは、十分に柔軟性を備え、その柔軟性の中で筋肉の緊張をコントロールできていること。でも、筋力と筋肉のテンションは、スピンをせずとも鍛えられるのです。もちろん、私はスピンを長年たくさんしてきた経験があるので、その必要な要素を解析できるという前提ではありますが、スピン自体を何度も繰り返す練習をしなくても、スピンを回るためのいくつかの要素を練習すればいいというわけです。

スピンで重要なのは、刃のある正確なポイントに重心をおいて回れているかということです。スケートの刃は平らではなく、カーブを描いています。つまりスピンを容易くまわるには、刃の中心前方に重心をおかなくてはならない。この重心をおく「点」が分かれば、スピンは基本的にかなり長い間回っていられるのです。コマがまわる原理と同じです。

そこで、この重要な「点」ですが、たくさんステップを踏んで、自分の刃のカーブをよく理解することでも見つけることができます。もちろん、スケート初心者の子供にとっては、スピンの練習を何度も繰り返すのが大切になります。スピンを総合的に理解しないといけないからね。でも、総合的にスピンを理解してしまえば、スピンを構成要素別に分解して練習することが可能になります。スピン自体の練習を何度も繰り返さなくても、それぞれの構成要素を正しく機能させれば、スピンができるということです。

——ご自身のスクールで生徒をもち、日本や海外でも指導することが多いですね。理想のコーチ像はあるのでしょうか?

ステファン:僕のコーチであったペーター・グリュッターでしょうね。彼は理想のコーチだと思います。コーチにとって、二つ大切だと思っていることがあるんです。それは、情熱と、活力。この二つがあれば一生教えることができると思っています。

活力には、身体的なものと精神的な側面があると思います。一方で、情熱は、好奇心と関係していると思います。常に様々なことに興味と関心を示し、学ぶ意欲を持ち続け、常に向上しようという気持ち。それが、私の考える情熱です。

——今回のSPURとの撮影でファッションに対しても情熱があるのかなと感じました。撮影はいかがでしたか?

ステファン:どれも素晴らしかったですね。 私にとってボッテガ・ヴェネタのルックは完璧な赤でした。一番好きな色を発見したといってもいいと思います。あと、ディオール オムのも好きでしたよ。デニスのルックも全て好きでした。私とデニスが普段は着ないような服だけれど、私たちの個性に近いものを選んでくれて、とても私たちらしいスタイルになりましたよね。

——普段のファッションでこだわりがあったら教えていただけますか?

ステファン:ここのところは、長旅ばかりで、これから6週間は自宅に戻れません。ですから、スーツケースには濃い色の服しか持ってきていません。その方が、洗濯が全て一緒にできて簡単だから。旅行中は実用性を重視します。移動中に楽なズボンと、気分が上がるTシャツが中心です。着心地がよくて、着ていて気持ちのよいものを選んでいます。

——ショッピングもお好きですか? どんなお店に行くのでしょうか。

ステファン:もちろん。でも、あまり下調べはしないほう。何か素敵な場所だな、せっかくだからここの思い出に残るようなものが買いたいなあと思い立って買い物をすることが多いですよ。

——ぜひ、また撮影をやりましょう!できることなら毎年!

ステファン:ぜひ!でも僕はどんどん歳を取ってしまうけど大丈夫かな?

(右)ダッフルコート¥203,,000・ニット参考商品・デニムパンツ¥79,000・シューズ¥90,000/ロエベ ジャパン カスタマーサービス(ロエベ) (左)ジャケット¥250,000・シャツ¥60,000・パンツ¥85,000・スニーカー¥88,000/ボッテガ・ヴェネタ ジャパン(ボッテガ・ヴェネタ)

 

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一問一答 ステファン編

Q1. Dream vacations (理想の休暇はどこで?)

―イタリアかポルトガル

Q2. Favorite body parts (好きな体の部分は?)

―瞳

Q3. With or without a beard (ひげはあるほうがいい?ないほうがいい?)

―ないほうがいいかな。時々あることもあるんだよ
(と言いながら、おばあちゃんを訪ねて行ったというこの夏のポルトガル旅行時のヒゲあり写真をスタッフに披露。「昔ながらのバーバーで整えてもらったんだよね」と笑っていましたが、髭があるセンセイはオーランド・ブルームに似ていました!)

Q4. V Neck or Crew Neck jumpers? (ニットはVネック派?クルーネック派?)

―Vネックと、タートルネック(「あと首になにか巻くのが好き」と一言)

Q5. Can't leave the home without: (●●無しには出かけられません)

―まずはキッチンを片付けて、洗濯物をしてからだね(この回答を覗き込んだデニスが「嘘だよ、ホントは僕が片付けしてるんだよ」とコッソリ教えてくれました)

Q6. Favorite "Yuri!!! On ICE" character (アニメ「ユーリ!!! on ICE」で好きなキャラクターは?)

―マッカチン

Q7. Your pre-game routine (競技本番前に必ずすることは?)

―ヨガマットの上で入念にウォームアップ

Q8. Favorite Japanese food (好きな日本食は?)

―すきやき

Q9. Favorite adjective (いちばん好きな形容詞は?)

―素晴らしい

Q10. On your music list: (今日のプレイリスト)

―「アイズ・シャットーノクターン No.13」オーラヴル・アルナルズ&アリス=紗良・オット
(*デニスとのペアプログラムに使用した曲)

Q11. Indispensable items of clothing (持ってないと不安になる服は?)

―楽ちんなパンツ

Q12. Favorite skater ever (一番好きなスケーターは誰?)

―イリヤ・クーリック

PROFILE
Stéphane Lambiel ステファン・ランビエール
1985年、スイス生まれ。2006年のトリノ五輪男子シングルで銀メダルを獲得。’10年3 月に競技から引退した後も、アイスショーなどで活躍する。10月に行われるJapan Open、Carnival On Iceではゲストとして出演する。

BACK STAGE MOVIE

photography:Bungo Tsuchiya styling:Noriko Sugimoto hair & make-up:Taro Yoshida edit:Michino Ogura motiongraphics:Uchijima Ryosuke(ZONA)

FEATURE
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