「ルカって、とても才能がある監督よ! 彼ともっと仕事ができるなら本気でイタリア語をやろうかと思うくらい(笑)。でも、ルカの英語の方がどんどん進歩しているけど」。
ルカ・グァダニーノ監督の存在と名前を最初に教えてくれたのは『ミラノ、愛に生きる』(’09)で彼と組んだ女優ティルダ・スウィントンだった。その後、この2人は『胸騒ぎのシチリア』(‘15)でもコラボ。そしてルカ監督は『君の名前で僕を呼んで』、新作『サスペリア』と今最も売れっ子のひとりになっている。
ティルダ・スウィントン Premiere Of Amazon Studios' 'Suspiria' photo:getty images
ルカ監督が尊敬する映画監督たち「ダリオ・アルジェント、ベルナルド・ベルトルッチ、ジョナサン・デミ、モーリス・ピアラ……etc.」の筆頭にあがったダリオ・アルジェントの傑作ホラー『サスペリア』(’77)をリメイクしたダコタ・ジョンソン主演の『サスペリア』は、全編から悪魔的な雰囲気が漂っているが、『胸騒ぎのシチリア』も『君の名前で僕を呼んで』も、どこか神話的香りがするのはなぜだろう?
ルカ:「僕は人間のリアルな生を描くのが好きで、今現在僕らが生きている話を映像で綴りたいと思っているんだ。つまり、人間の基本というか原点のようなものだね。でも、現実の人間生活はこれこれこういう傾向にあるとは決めつけられないし、どこか神話的要素もある。逆に言うと、ギリシャ神話の神々たちも実に人間臭いし。そういう描き方になってしまうのは、僕自身が型にはめて考えることに興味がないからだろうね」。
──今回の『サスペリア』では、ティルダ・スウィントンが、老いた男性役も含め三役をやっているのはどうして?
ルカ:「ティルダならできると思ったんだよ(笑)。彼女とはしょっちゅういろんなことを喋っているし、本当に気の合う仲間なんだ。まあ、今回は女優たちだけで役を構成したいという思いがあって、ティルダは二つ返事で受けてくれたんだ」。
ベニスでは、中央のルカ監督、ダコタ、ティルダを始め、赤を纏う豪華女優陣が多数。Red Carpet Arrivals - 75th Venice Film Festival photo:getty images
──物語の舞台が1977年のベルリンの舞踊団というのは、オリジナルの『サスペリア』の公開年にオマージュをささげたの?
ルカ:「もちろんそれはある。そして、政治的に揺れ動いていたあの時代のベルリンの雰囲気も欲しかった。あと、あの時代は世界的にフェミニズム運動も台頭してきたし。政治的な目覚めを抑えつけようとする暴力的な動きもあったりで、不穏な空気も流れていたのが本作の背景に向いていたんだよ」。
──そういえば、ドイツのファスビンダー監督のミューズにして夫人だったイングリット・カーフェンもチラッと出演しているけど。
ルカ:「大ファンなんだよ(笑)。もちろんファスビンダー監督のことも尊敬している。彼の『秋のドイツ』(’78)という作品からは、実は僕の『サスペリア』に多大な影響をもらっているんだ」。
ティモシー・シャラメに次ぐ美俳優は?
──『サスペリア』のヒロイン役のダコタ・ジョンソンをはじめ、クロエ・グレース・モレッツなどのハリウッド女優。そしてタイ出身の撮影監督サヨムプー・ムックディプロームと、ルカ監督の現場は国境を越えた才能の集合体だ。
ルカ:「僕自身、ボーダーを越えて活躍したいと思っているからね。撮影のサヨムプーは、僕の前作『君の名前で僕を呼んで』でも仕事をしているが、実は元々、僕のパートナー、フェルディナンド・シト・フィロマリノが監督した『アントニア』(’15)の撮影を手がけていたんだよ。僕はプロデューサーとして関わっていたんだけど。で、『君の名前~』の時、フェルディナンドに“サヨムプーに頼んでもいいかい?”と聞いて組むことにしたんだ。でも、僕はイタリアの浮気な夫のような男だから、また別の才能を見つけたらそっちのベッドに行ってしまうかもしれないけどね(笑)」。
──そのサヨムプーの美しいカメラワークもあって、『君の名前~』の主人公2人は、忘れられないくらいきれいだった。
ルカ:「アーミー・ハマーとは前から仕事したいと思っていたんだ。演技力には感心していたし、独特のニュアンスもあったからね。ティモシー・シャラメとは、彼が17歳の時、初めてランチをして、年齢には似合わないインテリジェンスにはびっくりさせられたよ。あの2人の組み合わせは理想的だったと思っている」。
──その『君の名前~』も『サスペリア』も原作では続編、続々編があるけれど、作る予定は?
ルカ:「それはないな(笑)。僕は今、『ブラッド・オン・ザ・トラックス』というボブ・ディランのアルバムをもとにした映画を作っている最中だから。ミュージカルなんかもいつかは作ってみたいな。ただ、一度オペラの『ファルスタッフ』を演出したことがあるんだけど、あれは奇妙な体験だった。たった2カ月ぐらいでいろんなことを決めてリハーサルもしなきゃならないんだからね。本当は生まれ故郷のシチリアを舞台にしたオペラ『カヴァレリア・ルスティカーナ』なども演出してみたいけどね」。
──アーミーやティモシーも素敵だったけど『胸騒ぎのシチリア』のマティアス・スーナールツの大人の男の魅力も良かった。ほかに今、注目している若手男優(できれば美しい!)は誰?
ルカ:「タイ・シェリダンにトム・ホランド。あと、『デトロイト』(’17)のウィル・ポールターかな」。
人間の“身体”こそが物語を紡ぐ
ロンドンではシルバーやブラックとシックなドレスで登場。左から、ミア・ゴス、ティルダ・スウィントン、ダコタ・ジョンソン 'Suspiria' UK Premiere - 62nd BFI London Film Festival photo:getty images
──『サスペリア』がベルリン舞踊団を物語の背景にしていて、ダコタ・ジョンソンたち出演者が妖しいダンスを披露しているだけでなく、『胸騒ぎのシチリア』ではレイフ・ファインズが不思議な踊りを見せている。ダンスに対して特別な思いがある?
ルカ:「身体!に惹かれているんだよ。人間は身体を通して何かを表現するし、他の人ともコミュニケートする。その身体をどう使うのか。とても興味があるんだ。映画においても、身体というのが本当に重要な存在だからね」。
──ちなみに、ティルダ・スウィントンが演じている舞踊団の主宰者マダム・ブランは、伝説の舞踊家マーサ・グラハムとピナ・バウシュの雰囲気をまとっているような……
ルカ:「うん。それとマリー・ヴィグマンも。ティルダが見事にアイコン的人物像を造形してくれたよ」。
その才能にびっくりした富田克也監督
──パートナーと訪れたことのある日本。2回目の来日で、「ますます日本という国、日本人に興味を持つようになった」とうれしいことを言ってくれる。
ルカ:「もちろん日本でも映画を撮ってみたいよ。ただその場合、もっと日本人について知らなければダメだと思っている。ちゃんと日本に住んでみて、いろんな人と知り合い、文化や習慣も理解して。もともと大島渚監督の映画の大ファンなんだ。最近では三池崇史監督や是枝裕和監督の映画も気になるし。あ、そうだ! 2011年にロカルノ映画祭で審査員をしたんだけど、富田克也監督の『サウダーヂ』という作品が素晴らしかった‼ あれは本当の傑作だと思ったよ。僕がそう言っていたと、ぜひ伝えてほしいな」。
