新しい働き方を体現する市川渚さん。自宅もカフェも、あなたが望めばどこでもオフィスに

photography:Sachiko Saito
interview & text:Eimi Hayashi

コロナショックで日常が一変した今、「働く意義」を見つめ直す機運が高まっている。仕事と暮らしの境界がなくなり、ワークスタイルが多様化する中、我々にとって「理想の働き方」とは何なのか。ファッションとテクノロジーの橋渡し役としてフリーランスで活躍し、独自のキャリアを築く市川渚さんに、自身の仕事やライフスタイルについて話を聞いた

自宅、カフェ、シェアオフィスを拠点に、
メリハリのあるワークライフバランス

今回のコロナ禍でWFH(ワークフロムホーム)が広まりを見せているが、もともと在宅勤務の多い市川さんは「家にいることがあまり苦にならない」と話す。平時なら、自宅、カフェ、シェアオフィスの三つを拠点とし、仕事内容に応じて意識的に働く場所を使い分けている。「企画書作成や動画編集など、PCで集中して作業したいときは家にこもります。執筆はiPadでできるので、気分転換も兼ねて自宅やオフィス近くのカフェを利用することも多いです。シェアオフィスを使うのは、制作チームとの打ち合わせや、誰かに何かを相談したいとき。自宅とクライアント先を行き来するだけだと、どうしても狭い世界になってしまうので、オフィスに行くと刺激をもらえます」

仕事場だけでなく、時間の使い方にもメリハリをつけるのが市川さん流。「週末はプチ旅に出ることが多く、月曜はだいたいスロースタート。午前中は旅先で撮った写真の整理をしたり、夜はシェアオフィスに集まって英会話レッスンをしています。仕事で人と会うのは火曜日以降。作業時間を確保するためにも、ミーティングは可能な限り同じ日にまとめています」

多忙なスケジュールの合間を縫ってプライベートも充実させている彼女の話しを聞くと、時間は作るものだと改めて実感させられる。「WFHの利点は、時間の使い方を自分で決められること。たとえば味噌用の豆を煮込んでいる間に、PC作業が片付けられたりする。仕事中に家事もこなせるのは在宅のメリットだと思います」

市川さんが在籍するクリエイティブ集団「THE GUILD(ギルド)」のシェアオフィス。日当たりのいい広々とした空間で、屋上テラスもある。

ブランドのプレスを経て、フリーランスへ。
独立しようと思ったことは一度もなかった。

本取材で市川さんと待ち合わせしたのは、南青山にある「THE GUILD(ギルド)」のシェアオフィス。まだ緊急事態宣言が出る前の肌寒い日だった。ギルドは20名弱の独立系クリエイターが在籍する組織集団で、彼女はその一員でもある。「メンバーのほとんどはデザイナーかエンジニアです。それぞれがギルドとしての仕事も受けながら、個人の仕事もする。会社のような縛りのない、自由な関係性です。私も色々とご縁があって、三年ほど前からここに所属しています」

ラグジュアリーブランドのプレスとして会社勤めをしていた市川さんが、フリーランスに転身したのは2013年。特に一大決心をしたわけではなかった。「気がつけばもう七年目(笑)。でもフリーランスにこだわっているわけではなく、今でもフルコミットできる会社が見つかれば入りたいと思ってますよ」

裏方からオモテに立つ仕事まで、
「好き」を掘り下げて仕事に繋げる。

「気づけば七年」と言うが、その間に実に多彩なキャリアを積み上げてきた。市川さんが現在携わっている仕事は、大きく分けて三つある。まず一番の比重を占めるのがクリエイティブコンサルタント業。ファッションブランドを主なクライアントとし、デジタルコンテンツの企画制作やキャンペーンのディレクションなどを広く手がける。

二つ目はここ数年で増えてきたという、自身がオモテに立つ仕事。SPUR.JPでもおなじみの連載をはじめ、ファッションやガジェット関連のコラムを多数執筆し、SNSでも発信。時にはセミナーやトークイベントへの出演もこなす。最近は趣味が高じて、写真撮影や動画制作の依頼までくるようになった。それだけではない。比重としては小さいものの、モデルとしても活動している。

関わっている領域があまりに幅広く、話を聞いているだけでも目が眩む。この人はちゃんと寝ているのだろうかと心配にさえなってくるが、当の本人は実に清々しくポジティブだ。「自分のことはよく“何でも屋”って言ってます。もちろん大変なことも多いけれど、好きなことを掘り下げた結果、仕事に繋がっているからすごく楽しい。それに、ファッション×テクノロジーという根本の軸は変わりません。“何でも屋”だけど全方位的に引き受けるわけではなく、専門範囲外のことはお断りしています。分からないのに分かったふりをするのは嫌なんです」

「自分に求められるもの」を理解し、
TPO
に合わせた装いでセルフプロデュース

モードな私服スタイルに定評のある市川さんだが、普段の仕事着も気になるところ。「仕事」とひとくくりに言っても、彼女の場合そのシチュエーションは実に様々だ。どのように日々の装いをアレンジしているのだろうか。

「クライアントに会うときは、ジャケットにパンツといったスタイルが多いです。ハリ感のあるシャツを着るなど、クリーンな装いを心がけています。リップもニュートラルな色を選ぶようにしていますが、ファッションの視点が求められるときは、あえて振り切ったスタイルで行くこともあります。トークイベントなどで人前に立つときも、テーマがファッションなら柄物のワンピースを選んだり、逆にテックやクリエイティブ絡みならブラックを中心にシンプルにまとめたり。内容に合わせた着こなしを意識しています」

一方、プロデュースワークで撮影現場に立ち会う際は、完全に黒子に徹するという。「現場では目立たず、動きやすい格好がマスト。色もモノトーンで統一します。あと、WFHするときも着心地重視。ユニクロのメンズのスウェットがお気に入りです」。相手に求められているものを踏まえて、TPOに応じたファッションを演出する。彼女の優れた自己プロデュース力は、ビジネス上の信頼にも繋がっているのだろう。

仕事バッグにはボッテガ・ヴェネタの「BV クラシック」を愛用。iPadにデジタルカメラと持ち物は必要最低限。打ち合わせもペーパーレスに。

いつかは自分の事業を始めたい。
誰かの役に立ち、心地よく生きる。

コンサルティングから実制作にいたるまでマルチに活躍する市川さんに、今後の目標を聞いた。「今はお仕事を受託することがほとんどですが、いつかは自分で事業を起こしてみたいです。好きなことを極めて得たスキルで、誰かの役に立ちたい。アウトプットはバラバラでも、根底にあるその思いは変わりません。それが私にとっての“働く意義”だし、今後もそうあり続けることで、結果的に自分自身も心地よく生きていければと思っています」。好きなことに対するブレない信念と、変わることを恐れない柔軟な姿勢。これらをあわせ持つバランス感覚こそ、今の時代に求められるものなのかもしれない。

エディターHAYASHIプロフィール画像
エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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