2020.09.18

自分らしさを求めた、暮らしの選択「わたしの拠点は東京以外」

生活様式が見直される中、地方へ住まいを移す人が増えている。“東京以外”という選択には、どんな思いや決意があるのだろう? 実際に移住を決断した4人の、いまの生活やスタイルを通じて、暮らす場所の可能性について考えてみよう。

モデル LISA
東京→大阪

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彼女のナチュラルなテイストはそのままに、ハイネックのブラウスと端正な黒のパンツを選んだ。そこに、大ぶりのシルバージュエリーを投入することで、ベーシックな着こなしにアクセントを添えて。 シャツ¥35,000(ラウタシー)・パンツ¥29,000(ルールロジェット)/ブランドニュース ピアス¥8,500/k3 OFFICE(G.V.G.V.)

りさ●京都府出身。Light Management所属。3歳まで米国ミネソタ州で育つ。
@lisa.matsuka


「家族の近くに住んで、自分と周りの人をもっと大切にしたい」

 3カ月前まで東京を拠点にモデルの仕事をしていた、京都府出身のLISAさん。現在は大阪府で生活を送る。

「新型コロナウイルス感染拡大の影響で、今までどおり東京で仕事を続けることが難しいと感じるようになりました。家族が待つ関西に戻り、大阪府を生活の拠点に置くことに。大阪は時間の流れが割とゆったりで人は温かく、気持ち的にもリラックスして毎日を過ごしています」

 そう語る彼女が、現在もっぱら興味があるのがウェルネス。メンタルヘルスや体のメンテナンスに余念がない。

「住む場所を変えたことで、自分の気持ちを整理することに時間をかけられるようになりました。慌ただしく生活していた中では気づかなかったのですが、移住して『未来を心配するよりも、今自分ができることをやろう。自分と周りの人を愛そう』と考えるように。そして精神的に健康でいるためには、何より食生活が大事だということも実感しました。体質改善のために、野菜中心で魚介類も食べるペスカトリアンの食生活を送っています」

 食の記録を綴るインスタグラム(@lisa324asil)には、野菜中心のレシピが並び、マクロビオティックにも挑戦している。食材はオーガニックなものを極力選び、地産地消を意識しながら最近は、地球環境に配慮したサステイナブルな習慣も取り入れるように。まずはプラスチックフリーを目指している。

 また、移住を機に、毎日のファッションにも少しずつ変化の兆しが現れた。

「これまでは、カジュアルできれいめなスタイルでしたが、時間に余裕ができたことでファッションやメイクアップへの興味が増しました。似合うものを見つけるべく、エッジがきいたアイテムを取り入れることにチャレンジしています」

ショップスタッフ Rina Akamatsu
東京→大阪

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好きなブランドの条件は音楽などのカルチャーや、作り手のバックボーンを感じさせるもの。そんな彼女にはカルチャー好きにも支持を得る、エコーズラッタのブラウスを。私物で自分らしいテイストをミックス。旬なムードを華麗に体現。 ブラウス¥52,000/grapevine by k3(エコーズラッタ) その他/モデル私物

赤松里菜●東京都出身。大学卒業後、セレクトショップ「VISITFOR」に販売員として就職。
@_akmtyy


「自分を表現できる場所のために、移住を決意しました」

「学生時代にさまざまな出身地の友人ができ、東京出身としては違う都市に住むことに興味をもっていました。『アナザースカイ』みたいに(笑)」

 大学ではフリーペーパーの編集をするサークルに所属し、マニアックな仲間に恵まれた。その影響もあり、卒業後は自分が好きなファッションの世界を追求したいと一念発起。キャリーバッグ一つで大阪に移住し、セレクトショップ「VISITFOR」のスタッフとして店頭に立っている。

「ネットで物が買える時代に、店頭で接客を受けて購入したいと思わせてくれたのがここなんです。将来は自分が培ったカルチャーや教養を表現できる場が欲しいので、そのために働きたいと思ったのが移住の理由ですね。働くうちに、誰かのために洋服を提案したいという気持ちも芽生えました。大阪の人はフレンドリーで、接客するのが楽しい」

 初めて実家を離れ、仕事と家事をこなす新鮮な毎日。そして、ショップスタッフという、いわば店舗の顔になることで、ファッションに変化があったと語る。

「仕事を通してブランドやデザイナーと関わる機会が増え、クリエイターのパーソナリティを知った上で、服を着たいと思うようになりました。特にNYやロンドンのブランドが好きで、応援する気持ちで服を購入しています。大阪に来てからは、いろいろなジャンルの装いに挑戦するようになりましたね」

 好きなものに携わる幸福をかみしめつつも、仕事における責任感を学ぶ姿勢は忘れたくないという。また、最近はファッションのもつ可能性について模索中。

@creatives4systemicchangeで、アフリカ系のトランスジェンダーをチャリティ形式で支援できることを知りました。こういった新しい試みに刺激を受けます」

ミュージシャン Uka
神奈川→京都

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ブラックミュージックに影響を受けながら、セクシーさよりも、あえて品のある装いをするのがこだわり。透け感のあるニットには、肌の露出をおさえたロングスカートを。 ニット¥23,000・スカート¥21,000/ジャンティーク ピアス¥20,000・ブレスレット¥20,000/goldie H.P.FRANCE(メドゥスィン・ドゥース) その他/モデル私物

ゆうか●神奈川県出身。シンガーとしてだけでなく、「発見屋さん」としてYouTubeでも発信。
@uuuuukakaka


「よかったのは、毎日自然が美しいと思う瞬間があること」

 2018年から1年間のロンドン留学を果たし、日本に帰国して8カ月。今年の5月に京都、亀岡へ移住した。

「いわゆる帰国鬱だと思うのですが、東京の満員電車や暮らしが合わないと感じていました。そんな中、留学中の友人の個展を観に亀岡のKIRI Caféを訪れることに。ロンドンの生活と似た雰囲気が気に入って、ちょうど部屋が空くと聞いたので、移住することを決めました」

 京都市に隣接する亀岡市は「かめおか霧の芸術祭」を開催するなど、カルチャーや若いアーティストの支援で知られている。その中心的なスポットが、彼女が訪れたKIRI Caféだった。今は、そこで働きながら農作業も行う。

「感激したのは有機野菜の味の濃さ。最近は栽培した野菜やハーブを使って、調理を楽しんでいます。友人がタイダイ染めにハマったことがきっかけで、藍も育て始めてみたり。会話は農作物の話題が多く、苗を交換したりすることも。そうしているうちにだんだん農業にだけではなく文化や人など、何かを“育てる”ことについてまで考えるようになりました」

 豊かな自然を誇る亀岡市は、もともとは農業が盛んな地域。青々と広がる昔ながらの田園風景が美しい。最近は「プラスチックごみゼロ宣言」を行い、自然景観を守る環境先進都市を目指している。

「毎日、必ず自然が美しいと思う瞬間があることに幸せを感じます。便利な環境にいたので移動に慣れるまで時間がかかりましたが……。農業や環境問題について話を聞き、自分の価値観が変化するのを楽しんでいます。でも田舎だからといって汚れや動きやすさを気にした服ではなく、華やかな服装で暮らしています。クールな人がいる場所として認知され、若い人に来てほしいですから」とやわらかな笑みがこぼれた。

モデル Hiromi Ando
大阪→長野

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愛着を感じるのは麻、藍染め、民族衣装。藍を思わせるブルーで統一し自然を愛する精神を表現した。 シャツ¥38,000・パンツ¥39,000/Feel Glad(パステル・ドクシタニ) 帽子¥96,000(ニックフーケ)・ネックレス(上から)¥47,000・¥109,000(ともにオール ブルース)/エドストローム オフィス 靴/モデル私物

安藤潤美●宮城県生まれ東京育ち。mille management所属のモデル。大阪での生活を経て長野県に移住。
@hiro2i


「カルチャーを共感し合える仲間に、刺激を受ける日々」

 広大な自然と豊かな水資源で知られる、長野県の安曇野市に夫婦で移住。新婚旅行で訪れた際に登山をし、北アルプスの絶景に魅せられ、いつか住みたいと思い続けていたのだという。

「映画『人生フルーツ』を観て、パーマカルチャー(人間が生活する上で恒久的持続可能な環境を作り出すためのデザイン体系のこと)に興味をもちました。自然や四季を身近に感じながら生活することが一番の喜びです」

 長野県は移住先として人気のエリア。移住支援金など市によって手厚い補助が受けられるケースが多い。

「役立ったのは、『おためし住宅』という制度。一週間だけ住みたい地域に家を借りられるんです。東京をはじめ都会からの移住者が多く、情報交換も盛んです」

 また、SNSで出会った仲間の存在は大きい、と安藤さん。同じ価値観をもち、共通の趣味を通じて、親睦を深めてできたコミュニティはかけがえのない存在だ。休日に、彼らとキャンプやピクニックに出かけリラックスする日々。

「家をゼロから造って生活したり、自分の畑で食物を収穫して自給自足をする人たちに刺激をもらっています。森の中で、素敵なカフェを営んでいるご家族もいますね。このコミュニティは、私にとって癒やしと共有の場なんです」

 仲間と味噌を手作りしたことで、食べ物に対する新しい価値観も得た。

「休日は夫婦で山菜採りに出かけ調理して食べます。移住してから自らが作れるものは作るように。自然の恵みや生産者への感謝の気持ちは増すばかり」

 買い物や物を所有する感覚についてはこう答えた。「洋服を含め、最低限で十分だと思えるようになりました。移住してからは、素材がよくミニマルなファッションに目がいくようになりましたね」

SOURCE:SPUR 2020年10月号「わたしの拠点は東京以外」photography: kaoli (LISA,Rina Akamatsu,Uka), Shintaro Nibe (Hiromi Ando) styling: Kumiko Sannomaru text: Aika Kawada edit: Ayana Takeuchi

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