新型コロナウイルスの出現とともに、私たちを取り巻く社会は一変。ウイルスとの共生が求められるなか、私たちの日常はどのようなものになってゆくのか。先の見えない世界を生きてゆくヒントを、さまざまな分野で活躍する識者の方たちが一冊の本を通じて語る
第2回は、映画監督、安藤桃子さんが登場。現在、拠点とする高知で出会ったという東城百合子さんの『家庭でできる自然療法』を取り上げます。
生とし生けるものの生命の再発見
新型コロナウィルスに向き合ってみて気づいたのは、自分の根っこに触れるということでした。今回、本を選ぶにあたり、ならばいっそ振り切ってしまおうと東城百合子先生の『家庭でできる自然療法』をご紹介します。この本は、ずっと日常に寄り添ってきてくれた一冊で、一家に一冊あっても良いのではと思うほどです。コロナ禍の中で、スーパースターが自宅からインスタグラムのライブ中継をしたり、一方でSNS上での誹謗中傷が原因で命を亡くした方もいました。両方の出来事から私が感じたのは、本当の自分というものに出会い、持って生まれた姿で生きていくことが、これから先にあるのかなと。そして、何より大切な「命」を感じられるのが、この本です。
健康に生きたいのは、誰もの願いですが、願いのようでなく、心のように成るのも自然の成り行き。自然のいのちを大切に、身近な日々の食物、薬草などをはじめ、海の幸山の幸で早めに無理なく、生命力を強めることこそ大事な事と私は体験を通して思うのです。
(東城百合子『家庭でできる自然療法』より)
初めて読んだのは7~8年前に高知に移住した頃でした。東京では本に紹介されているような植物になかなか出会えませんが、高知には野草を用いた民間療法が根付いていて、街中で転んで膝をすりむいた子供に、通りかかったおばあちゃんが「よもぎを擦り込んどきな」と渡す場面にも出会ったことがあります。コンビニに行って消毒液と絆創膏を買ってではないことに、すごく衝撃を受けました。高知には山間部が約83%残っています。そこら辺に生えている野草が食卓に並ぶことも日常で、そうすると子供もその薬効を知って育ちます。よく遊びにゆく家にこの本が置かれていて、どんな本かとたずねると、「子育てにこれがあると安心だよ!」と言われて読み始めました。
映画監督の資質として、なんでもやってみたい、自分の体で実験したいというのがあって、小さい頃から田んぼがあれば飛び込むし、虫がいたら口に入れてみました(笑)。怪我をすることもありましたが、それで本能が磨かれることもあるし、体験したことから生まれる表現は真似ではない自分のものになります。この本に書いてあることにも「エーッ!」と驚いたので、まずは自分で試してみました。そうしたら、びっくりするほど効く(笑)。もちろん個人差もあると思います。子育てで悩んだ時に、今の情報社会では調べれば調べるほど様々な説が出てきます。ありとあらゆる情報を360度すべてきちっと見て聞いて読んで、その中で自分が一番違和感なく素直に受け入れられることを選ぶのが大事だと思っています。高知ではこの本に書かれていることが最も実践しやすかった。『自然療法』の読み方はいろいろあると思いますが、医学的な情報として紹介したいわけではありません。私がすごく感動したのは、読んで「楽しい」ということで、この本を読むことで、世界の見え方が変わりました。身体と自然は直結していて、必要なところには必要なものがきちんと組み合わさり、この地球は作られているということが理解できるのです。(続きを読む)
SOURCE:「A Book in the Time of COVID-19 ーVol.2 Momoko Ando」By T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY JUN ISHIDA JULY 27, 2020
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