ジム・キャリー、マスクを脱ぐ

ダナ・ヴァションと共同執筆したジム・キャリーの小説『Memoirs and Misinformation』は、彼の人生とキャリアにおける出来事を取り入れた、ハリウッドにおける終末と再生の架空の物語だ


 ジム・キャリーは、まったく調子がよくない。

 小説 『Memoirs and Misinformation』の冒頭、主人公のキャリーは、自信喪失に陥って人生の意味を見失っており、ロサンゼルスの自宅に閉じこもってNetflix、YouTube、TMZを見ることで生きながらえている。コメディとシリアス、両方の作品における俳優としての成功は、今やバックミラーに映る遠い存在であり、彼には自分自身の死とやがてやって来る宇宙の終わりしか見えていない。

 ハリウッドの自己中心的な文化の狭間を探っていくキャリーの風刺的な冒険は、このようにして幕を開ける。自らの人生とキャリアの意味を探し求めながら、このキャリーは同時に、毛沢東の伝記映画と子どものおもちゃに基づいたスタジオ映画のどちらの役を採ればいいか悩んだり、はたまた壊滅的な山火事や女性だけのエコ・テロリスト組織、そしてUFOの侵略に立ち向かったり。またニコラス・ケイジやグウィネス・パルトロウ、アンソニー・ホプキンスらと時間を過ごしたりもする。

『Memoirs and Misinformation』のジム・キャリーは、『マスク』(1994)、『トゥルーマン・ショー』(1998)、『エターナル・サンシャイン』(2004)、『ソニック・ザ・ムービー』(2020)などの映画で常に変化し続けるスターであり、今回、小説家のダナ・ヴァション(『Mergers and Acquisitions』などで知られる)とこの本を書いたジム・キャリーと、名前だけでなく、いくつかの重要な経歴をともにしている。

画像: JIM CARREY(ジム・キャリー) 「『トゥルーマン・ショー』は、間違いではなかった」とジム・キャリーは言う。「私は、ある日突然上を見上げて、機械や照明が空から降ってくるのを見始めた男なんです」 PHOTOGRAPH BY LINDA FIELDS HILL, STYLED BY STACEY KALCHMAN

JIM CARREY(ジム・キャリー)
「『トゥルーマン・ショー』は、間違いではなかった」とジム・キャリーは言う。「私は、ある日突然上を見上げて、機械や照明が空から降ってくるのを見始めた男なんです」
PHOTOGRAPH BY LINDA FIELDS HILL, STYLED BY STACEY KALCHMAN

 7月7日にKnopf社から出版された『Memoirs and Misinformation』は、この意外なパートナーである二人の、数年にわたるコラボレーションによって書き上げられた作品だ。著者であり、セレブリティであるキャリーの人生の出来事と、彼が出入りする(ハリウッドという)究極なまでに特権的で疎外感が蔓延する世界に基づいた架空の物語であり、「今こそ語るべきことを伝える本になっている」と二人は言う。

 キャリーは、6月初めに行ったインタビューで「今は世界の終わりです。それにぴったりの本ができました」と説明した。「文明の終わりということではなく、自己中心的な世界の終わり。アイン・ランド(註:『肩をすくめるアトラス』などで知られるアメリカの小説家)的な“嫌な奴になってもいい、嫌な奴の楽園に住めばいいんだ”という考え方の終わりです。それが、私たちが今経験していることです」

 ヴァションにとって、この小説に取り組んだことはスターダムの本質について新たな視点を得ただけでなく、複雑な部分を抱え持つキャリーへの理解が深まるきっかけとなった。「偉大な芸術性の代償と、スターダムという禁断の領域への旅のようなものでした。彼はアワビ漁師のような人で、深みまで潜らなければ何も持って帰ってこない。水面で幸せにしているだけでは、素晴らしい芸術はつくれないのです」とヴァションは話す。

 そのキャリーとヴァションに、『Memoirs and Misinformation』の執筆過程から、事実とフィクションの境界線上で遊ぶことの楽しさ、そしてトム・クルーズがどのような反応をするのかまで、Zoomで話を聞いた。ここで掲載するのは、その会話からの抜粋を編集したものである。

―― 最初はどのようにして知り合ったんですか?

ジム・キャリー 最初に会ったのは、9年か10年ほど前。Twitterが初めて大きな話題になり、みんながまだいろいろと使い方の実験をしていた頃でした。

ダナ・ヴァション すごく憂鬱な冬だったのを覚えています。私はブルックリンのウィリアムズバーグにいたのですが、店が全部閉まって、街中の工事も全部止まっていました。そんな時、ある朝ツイッターを見たらジムが 「BOING.」とツイートしていた。

キャリー ただ「気」の別バージョンをつくろうとしていただけなんです。世界のすべてのポジティブなことを成すエネルギーのことですね。

ヴァション そして最初のやり取りでは、私が「BOINGしてしまえ!」とリプライを飛ばしたんです。私はある種ヒッチェンズ(註:イギリスのジャーナリストのクリストファー・ヒッチェンズ)的な懐疑論者なのに対して、彼はとても神秘主義的。でも、そのツイートを見てこれほどのアーティストと一緒に何か本当のものを作るのは最高だろうな、と。ただそんなことは絶対に実現しないだろうと思っていたら、1年後、この作品に取り組んでいました。

―― Twitterでのやりとりだけで実現したんですか?

ヴァション 私たちには共通のマネージャーがいて、その人が「二人で話したほうがいいんじゃないか」と言ってくれたんですが、実際会っても特に何もなかったんです。最初に会ったあとは「なんて素敵な人なんだ——。でもきっともう話す機会はないのだろうな」と思ったんですよ。でもその後も連絡のやりとりは続きました。

キャリー この人は、もう存在しないような誠実さを持っているんです。私たちはすぐに友人になり、時間が経つにつれて友情は深まっていきました。(続きを読む)

SOURCE:「Jim Carrey, UnmaskedBy T JAPAN New York Times Style Magazine:JAPAN BY DAVE ITZKOFF, TRANSLATED BY NAOKI MATSUYAMA SEPTEMBER 15, 2020

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