ファッションにも環境にもやさしいハイライフを送るために、信頼できる修理・クリーニング店を知っておこう
今あるものを未来でも着るために
1 基本的に佳名子さんがリフォームやシルエットの変更、博之さんがリペアやデニム修理などを担当。オーダーの内容やアイテム、素材によって得意なほうが手がけている
2 ミシンでデニムジャケットの穴を修復。さまざまな修理跡が重なっていくことでどんどん服が育っていき、自分だけのものになっていく過程も楽しむことができる
3 夫婦二人三脚で運営。オリジナルのカードケースや財布など、レザーアイテムの受注販売も行なっている
約15年前「洋服があふれている世の中で、この先どんなふうに好きな『服』と関わっていきたいか」を考えた早水佳名子さんは、今あるものを生かしていく仕事をしたいと思い、お直しの世界に飛び込んだ。祖師ヶ谷大蔵で修理店を営んだのち、2017年、宮の坂に「retouches」をオープン。現在、夫の博之さんとともに営んでいる。
なるべく希望に沿いたいという思いから、多岐にわたる注文に対応。ベーシックなサイズ直しや丈詰めはもちろん、メンズのコートをウィメンズのシルエットへと変えることもある。「以前、祖母から譲り受けたフレアスカートの生地を残したい、というお客さまの要望にこたえてバッグにリメイクしたことがあります。預かる洋服はその方にとって思い出の品であることも多いため、齟齬がないよう最初のカウンセリングで密なコミュニケーションが欠かせません」と佳名子さん。
お直しするとき一番に考えることは、「どうしたら長く着てもらえるか」。その人に似合っているかどうかはもちろん、耐久性のことを考えながら糸や素材を選択する。よりよい未来のために、常に「正解」を手探りしながら人と洋服に向き合い続けている。
SHOP DATA
retouches
一軒家を改装した木漏れ日あふれるアトリエ。道具は長く使えるもの、時間を経て味が出るものを選んでいった結果、プラスチック製品が減り温かみのある空間に。
東京都世田谷区豪徳寺2の20の3
03-6324-0966
営業時間: 9時〜18時
定休日: 月・火曜
※来店は完全予約制。料金はオーダー内容に応じて決定
預かるのは洗濯物ではなく"財産"
4 アイロンは小回りのきくドイツ製のものを使用。アイテムによってはバキュームで下から吹き上げながら、蒸気でシワを取ることも
5 汗染みなどは、漂白剤を塗りコテで熱を加えながら丁寧に取っていく。素材や薬品の高い知識を駆使しながら、部分的に水洗いするイメージ
6 クリーニングが終わったら、型崩れを起こさないよう、首元や袖に紙を丸めたあんこを仕込んで完成。素材に合わせて乾燥剤や防虫剤も添える
あまたの高級衣料品のクリーニングを引き受け、モード界からも絶大な信頼を得ている「RÉJOUIR」。先代がパリやミラノに通い、クリーニング技術だけでなく服の価値や見せ方を学んだ。「とはいえ特別な技や溶剤があるわけではありません。洗いからプレスまでをとにかく丁寧に行なっているだけ」と話してくれたのは代表の古田陽祐さん。
ドライクリーニングだけで落ちる汚れは少ないため、場合によってはブラウスやスカートも水洗いや染み抜きを行う。そのときどうしてもシワになったり、プリーツやラッフルが崩れてしまうが、それを復元できる熟練のプレス技術がここにはあるのだ。
最近はTシャツのディテールにレザーがあしらわれているなど、洗濯を考慮していないデザインも増えてきた。そういったアイテムも、リスクを説明した上でクリーニングし、どんな洋服も長く着られるようにメンテナンスを施す。ここまでする理由は「預かる服は洗濯物ではなく、お客さまの"財産"」という古田さんの言葉に表れている。
SHOP DATA
RÉJOUIR
モノトーンを基調とした麻布十番にある店舗は、天井が高くまるでサロンのよう。ここでクリーニングの仕方やリスク、金額などを事前に丁寧に説明してもらえる。
東京都港区南麻布1の5の18 FRビル
03-5730-7888
営業時間: 9時〜18時
定休日: 日・月曜
料金はアイテムや素材、状態に応じて決定
いいものを長く履く選択肢を
7 ソールを削り、ラバーの接着面を作る工程。修理をした後は、どういう履き方をすれば長く使えるかまで伝えている
8 専用の機械に靴をはめ、約1週間ほどかけてゆっくりとレザーを伸ばす。外反母趾で幅が合わない、間違えて小さいサイズを買ってしまった、というときにこの作業をすると足にフィットし履けるようになる
9 ヴィンテージショップで購入したデニムのつなぎが修理のときの定番ウェア。ラバーを張り替える際は、隙間ができないようにハンマーでしっかり叩くのが大切
「修理が趣味」と話す「PIGGYS」のオーナー、家久来望美さんは真のリペアフリーク。「お金のやりくりは自分でしなさい」という母の教えのもと、お小遣いの中でおしゃれすることを考えた結果、長く使うことが当たり前になったそう。お店を門前仲町に構えたのも、チェーン店で修業していた際の経験から、江東区という立地が持ち込まれる靴の種類が一番幅広く、いろいろな修理ができるという結論に至ったため。
信条はハイブランドからアフォーダブルなアイテムまで、値段に関係なくすべて真摯に対応すること。「どうしても落とせないシミがあったときは、海外から似ている素材を輸入しアッパーを丸ごと取り替えたことも」。バッグのリペアも受け付けており、必要であれば、ちぎれたストラップを縫って修復する。できること、できないこと、リスクもすべて話し、予算に合わせて修理内容を提案。値段が高いと諦めてしまう人も多いため、可能な限りリーズナブルに提供している。
「なかなか"直す"という発想にならない人も多いんです。でも、修理できることを知れば、いいものを買って長く履こうと思ってもらえるはず」と語り、丁寧なリペアを通してその大切さを発信している。
SHOP DATA
PIGGYS
什器はすべてこだわりのヴィンテージ。店頭では家久来さんが実際に使ってコスパのよかったリーズナブルなケア用品も販売している。
東京都江東区冬木13の1 1F
営業時間: 11時〜19時 不定休
※営業時間は変更になる可能性あり。Instagramのお知らせをご確認ください
ピンリフト交換¥850〜、ハーフラバー¥1,500〜など
instagram: @piggys_shoerepair
その人らしい、タイムレスなデザインに
10 趣味を詰め込んだというインダストリアルなムードのアトリエ。工具などはデザインも魅力的なアメリカ製のものを採用している
11 ペンダントトップの石座を研磨する作業。リング、バングル、ピアス、イヤーカフといったジュエリー類はもちろん、時には表札を作ることも
12 博章さんが制作、妻の文子さんが販売と接客を担当。お客さんによっては、1〜2時間かけてしっかり好みや要望をヒアリングする
「一点一点違うものを作りたい」という思いで、立川博章さん・文子さん夫婦が営む「装身具LCF」。もともとは販売のみだったが、お客さんの要望にこたえる形でリペアやリフォームも受け付けるように。なかでも多い注文は、親族から譲り受けたジュエリーのリフォーム。手がける際大切にしているのは「その人らしさ」だ。「今っぽいデザインにすると数年後には古くなってしまいます。だから持ち込んだ人に似合う、タイムレスなデザインを心がけているんです」と博章さん。
そんなこのお店らしさを象徴するのは、ソリッドかつユニークな石座。比較的自由に扱える線状のワックスで地金部分のデザインを形作り、石膏で型を取る。そこに金属を流し込むことで、複雑な石座も表現できるのだ。この方法ならどんなシェイプの石にもフィットさせられ、唯一無二のアイテムを作れる。一方で、素晴らしい技術が使われているものが持ち込まれたときには、現状維持を提案することも。常にベストな方法を考えながら、ジュエリーと向き合い続けている。
SHOP DATA
装身具LCF
重厚感のあるディスプレイには、博章さんが手がけた一点もののジュエリーが並ぶ。知人のアーティストによる天井のドライフラワーは定期的に飾り替える。
東京都大田区北千束1の67の7 本橋メゾン1F
03-6421-2903
営業時間: 12時〜19時
定休日: 水曜、第2・3木曜
料金はオーダー内容に応じて決定
SOURCE:SPUR 2021年9月号「リペアの天才はここにいる!」
photography: Okabe Tokyo text: Mai Ueno edit: Ayana Takeuchi