自由な発想のユニークな作品が増え、これまでの陶芸のイメージが大きく変化してきている。注目の作家や人気のワークショップなど、新潮流の盛り上がりを見せるこのムーブメントに乗り遅れるな!
新時代のアーティストを探して
とびきり独創的な作品を制作する、エポックメイキングな作家をピックアップ
宮下サトシ
刹那の瞬間を半永久的に閉じ込めて
鮮やかなカラーリングと、おもちゃを想起させるアイコニックなモチーフ。ポップでサイケデリックな作風で、カルチャーやファッション業界からも注目を集める若手陶芸作家。「最近はカートゥーンアニメーションやキャラクターの形象、石や岩などの自然物から着想を得ています」と宮下さん。今後力を入れて制作したいのは、パンチの瞬間を切り取った壺だ。"乾燥と焼成"という時間を経由することで、作り上げた造形を半永久的にとどめることができる陶芸作品。その特徴を利用して、人形などを一コマごとに動かして撮影するストップモーションアニメの一瞬を作品に投影することにも挑戦している。
MATKA
ファッションのように陶芸を楽しむ
あらゆる形を組み合わせた、グラフィカルかつコンテンポラリーな陶器を制作するMATKA(マトカ)。そもそもは、ぬいぐるみとアクセサリーのブランドとして2008年にスタート。2017年から、眺めているだけで楽しい気分になる、ビジュアルを重視した陶芸作品を発表し始めた。
日常にアートとときめきを運んでくれる作品の数々は、洋服をスタイリングする感覚で制作されている。ひとつを主役にするのはもちろん、組み合わせを考えながらいくつかを並べても面白い。最近では映像クリエイターのonnacodomoとコラボレーション作品を制作するなど、さまざまな試みにも積極的。まとうだけで心躍るファッションがあるように、MATKAの作品はただそこにあるだけで気持ちを浮上させてくれる魔法のような存在だ。
DAISAK
あらゆるものをリミックスした"NEWOLD"なやきもの
古代人をモチーフにしたオブジェ、ビーバーの植木鉢、ネズミの爪楊枝立て、ドラキュラの箸置き。一度見たら忘れられないユニークな作品の数々を、京都にあるアトリエで生み出し続けるDAISAKさん。インスピレーション源は古いものから新しいものまで"地球上に存在する、すべて"だ。
この世のあらゆる要素を取り込みながら、個性際立つ遊び心で唯一無二のアイテムへと昇華。「ビジュアルだけで見た人の感性や、趣味、センスに直接響く物を作りたい」という制作意図から、作品にはなるべく意味を持たせていない。また表現する時代性やジャンルも曖昧にしている。作品はアートピースから日常で使えるプロダクトまで多岐にわたるが、そのどれもが思わずくすっと笑ってしまうデザインで毎日を彩ってくれる。
増田 光
部屋のあちこちに生息する可愛い生き物たち
いまにも動きだしそうな動物モチーフの花器やカップなどの作品がアイコン。愛でずにはいられない豊かな表情と動きを生み出せる理由は、増田さん自身がぬいぐるみ遊びをするように制作しているから。「粘土が柔らかい状態で手足などをジタバタと動かしてみるのです。生き生きとしたポーズになったところで固定し焼き上げています」と増田さん。
時がたっても風化することなく、割れさえしなければ人よりもずっと長生きする陶芸。「だからこそ一生愛される物にしたい」という思いで生み出した作品は、食卓やリビングにそっと佇みながら癒やしを与えてくれる。
SHOKKI
"ま、いっか。"な気持ちをクリエーションに込めて
2013年にスタートした、セラミックレーベル。その特徴は、子ども時代の粘土遊びを想起させる"素人らしさ"だ。コンセプトは、ぎこちなさや不完全さにスポットライトを当て、ゆるく気楽に作ること。価値観にとらわれない自由な造形の作品は、数年先の近しい友人や家族に向けて制作している。だからこそしっかりと日々に寄り添いながら、使う人をどこか楽観的な気持ちにさせてくれる。日常の生活を彩ってくれるSHOKKIのプロダクトは、やきものとの新しい向き合い方を提示し、楽しい生活の門戸を開いてくれる存在だ。
banryoku
広がるのは愛らしくもシュールな世界
アパレル会社勤務を経て、テキスタイルを学ぶため2年間スウェーデンに留学。その後2カ月間アメリカでパペット制作の経験も積むなど、多彩な経歴の持ち主。ぬいぐるみやバッグなど、布を用いた作品を中心に制作していたものの、新しいチャレンジとして2018年頃陶芸の勉強を始めた。
「完成された美しさや可愛さではない、ちょっとした違和感のようなニュアンスを探りたいと手を動かしています」と話すbanryokuさん。その言葉どおり、どの作品にも宿っているのは少しの毒っぽさ。それこそが鮮烈な個性となり、見た人の心をつかんで離さない理由になっている。
話題の陶芸教室 P&A Pottery Classとは?
いま、おしゃれな人がこぞって通っているというこの教室。人を惹きつける理由はどこにあるのか探ってみた。
P&A Pottery Classが開講されているのは、6人のアーティストがシェアする「宝田スタジオ」。講師の坂爪康太郎さんはここで作家として制作活動をしながら、4年前に教室をスタート。「一般的な陶芸教室では、食器を作ることがほとんど。それだけではなくあえて鮮やかな顔料を揃えたりして、自由なクリエーションができる場所をつくったんです」。そのコンセプトにイラストレーターをはじめとするアーティストが共鳴し生徒が急増した。
陶芸が盛り上がりを見せるのは、生活様式の変化も理由のひとつ。「家にいることが増え、趣味に費やせる時間ができた人も多いと思います。あと、土に触れていると癒やされるんです。意識的ではなくともメディテーションを求める流れが世の中にあるのかもしれません」
坂爪さんが今後取り組みたいのは、"東京における陶芸"の探求だ。「日本のやきものは土の産地やどこで焼かれたかがすごく重要視されるんです。でも海外だと若い人が都心で自由に制作を楽しんでいる。その文化を東京にも根づかせて突き詰めていけばきっとアイデンティティになると思うんです。一過性のブームではなく、風景の一部にできたら最高ですね」
講師: 坂爪康太郎さん
さかづめ こうたろう●1988年、東京都生まれ。武蔵野美術大学工芸工業デザイン学科陶磁専攻卒業。陶芸作家として国内外で作品を展示しながら、2017年に陶芸教室をオープン。作ることや表現することを楽しめる場所を目指している。
DATA
東京都品川区大井4の20の7 宝田スタジオ
090-3575-1588
営業時間: 13時〜17時
定休日: 月・水・金曜
ワークショップ¥1,500〜、月額利用の教室は現在満席、空き次第募集予定。Instagram: @papc0
※10月8日から新宿のビームス ジャパンにてP&A Pottery Classに通うクリエイター5名の作品展示イベントを開催
こんな作品作ってます!
HONGAMAさん
イラストレーターが本業のHONGAMAさん(3)は、陶芸作家としても人気。陶芸を始めたのは、エキシビションに立体作品も展示できたらいいと考えたから。「以前は陶芸にお堅い印象を持っていたんです。でもここなら、自由にいろんなアイテムを作れると知って通い始めました」。現在はクロッキー帳に書きためている絵を立体作品にする制作に力を入れている。一番人気はゴーストのオブジェ(4)。「自分のイラストが3Dになると感慨深い。実際に触れられるのが陶器の魅力。正直売れるとちょっと寂しいです(笑)」Instagram: @hongama56
5 墨流しを再解釈して表現する「DWS JAPAN」のクルー、Midori Araiさん作。マーブルと白の土を重ねる練り込みのマグカップ。Instagram: @midori_dws
6 洋服をまとった上半身の花瓶。作者は本誌カルチャーコラムのシネマ欄でイラストを担当する中島ミドリさん。Instagram: @midorinakajima_
7 イラストレーターの中村桃子さんによる花瓶。4面にさまざまなモチーフが。Instagram: @nakamuramomoko_ill
SOURCE:SPUR 2021年11月号「いま、一番ヒップな世界! ニュージェネレーション陶芸」
photography: Toki, Okabe Tokyo (話題の陶芸教室 P&A Pottery Classとは?) styling: Kotomi Shibahara text: Mai Ueno