小さい鉢に宿る宇宙。盆栽のある新しい暮らし

根、幹、葉に、花や果実。植物の美しいディテールを知り、鉢とコーディネートする盆栽は、大自然の景色をミクロサイズで雄弁に表現するファンタジー。古くから愛され、今、ブームの兆しをみせている盆栽の魅力を解き明かしてみよう

 

盆栽のある部屋

盆栽ラバーのおしゃれさんを直撃。"パートナー"とおうちでスナップ

TOMOMIさん(ミュージシャン)

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1 季節の盆栽をダイニングテーブルに並べて愛でる至福の時間。基本的に盆栽はベランダで育てている。自然光が差し込む自宅のダイニングにはほかにも観葉植物が並ぶ

 

移りゆく豊かな四季と生命の力強さに惹かれて

ワールドツアー中の不在時は、観葉植物の世話を、植物好きな友人にお任せしていたTOMOMIさん。久しぶりに自宅に帰ると、部屋に盆栽が。“お疲れさま”の意を込めた友人のこのギフトのおかげで、日本に帰ってきた安堵感が心に広がった。以後、盆栽の魅力に目覚める。忙しくても四季を感じたり、お世話をする時間が愛おしいという。
「最近はお茶をたてて眺めるのが癒やしです。秋は落葉樹の葉が落ちると寂しいですが、よく目を凝らして見ると新芽が枝の隅に控えていたりする。そんな小さな変化に感動して植物の持つパワーを感じています」
クチナシ(3中央)は花が咲き終えたばかり。これから色づき、やがて紅葉するのが楽しみだという。

ともみ●ガールズバンドSCANDALでベース&ボーカルを担当している。日本国内はもちろん、欧州やアジアを回るワールドツアーも精力的に行う。最近できた趣味はゴルフとキャンプ。

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2 ブナの木の根っこにガラスの天板をのせたテーブルには、トクサの苔玉を
3 右からイワシャジン、クチナシ、トクサ。オープンラックを使ってベランダに盆栽を置いている。日光を十分に浴びさせて、土の表面が乾いたら水をたっぷり与える。しだれモミジの木も鉢植えで栽培中。来春は桜の盆栽を狙っている

廣田慶子さん(Philly ディレクター)

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4 見た目の迫力に圧倒されて、清香園のオンラインで購入。盆栽店や植木店に足を運ぶのも好きだが、気に入ったものはネットショップで買うこともあるという

 

夫婦でハマったかっこいい「ミニチュア」の世界

アニメ文化と日本画を掛け合わせた美術展を鑑賞して、日本の古美術に興味を持ったという廣田さん。調べていくうちに、盆栽に出合い、その佇まいに心を奪われた。
「ディレクションを手がけるチョコレートブランドやアクセサリーは、小さなものに、ぎゅっと世界観が凝縮している点に美学を感じてスタートしたんです。盆栽にも通じるところがあって。小さいからこそ、表現できる壮大なストーリーがあるんです。それが愛でられる理由」

盆栽に求めるのは、かっこよさの一択。家の中央に置くと、空間がきりっと引き締まり、ほかの観葉植物には出せない効果があるという。パートナーが営むヘアサロンyukiにもいくつか盆栽を所有していて、気分で自宅用とシャッフルすることも。夫婦で盆栽に魅了されている。

ひろた けいこ●2016年にPhilly chocolateを設立。ときめきが生まれる瞬間をコンセプトに、ギフトチョコレートを提案する。現在は、ジュエリーと雑貨のコレクションも展開。

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5 和洋折衷のヴィンテージマンションのキャビネットに鎮座する、五葉松の石付盆栽。懸崖にある木々の幹が風に吹かれてしなったかのような風景を楽しめる

菅原ありあさん(モデル)

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6 最初に購入した真柏の盆栽。旅先でひと目惚れをし、手に入れた。手持ちの盆栽は元気がなくなることもあるが、手入れを続けて乗り越えている

 

幼い頃から夢に見た自然とアートの融合

アメリカに住んでいた幼い頃から日本庭園に憧れ、父親と家の庭を和風にしたことも。日本では盆栽展に足を運ぶほど興味を持っていた。
「きちんと管理ができるか心配で、なかなか手が出なかったのですが、植木店のオーナーに後押しされて思いきって購入することに。夜は盆栽を室内に入れるのがルーティン。テラスから移動させてストレッチをしながら眺めると、瞑想しているみたいに、心が落ち着くんです。休日にお酒を飲みながらじっくり鑑賞するのも格別です」

光が差し込む天井の高いリビングは、高さのある盆栽も映える。
「自然の中で育ち、アートが大好きな私に、ぴったりの趣味。この部屋との相性も抜群でお気に入りです。盆栽は、ペイントと同じように全体のバランスや陰影に意識を払って、一番美しい姿にするんです。今後は苗から育てることにも挑戦したい」

すがわら ありあ北海道生まれ、アメリカ アリゾナ州育ち。4 歳から本格的にモデル活動をスタート。趣味は植物観賞

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7 「TRADMAN’S」プロデューサーで、盆栽作家の小島鉄平さんの展覧会を訪れた際に購入したチリメンカズラの盆栽。雲型の花台に盆栽を置き、部屋の角のチェストに。小さいが枝ぶりがよく気に入っている

ジゼル・ゴーさん(クリエイティブ ディレクター) フィリップ・テリアンさん(TFC代表取締役)

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8 旅先で手に入れた世界中の工芸品やミッドセンチュリーの家具が配された室内。多国籍でも調和がとれ、盆栽が広い空間のいいアクセントに

 

ライフスタイルの一部でクリエーションを刺激する存在

住まいは開放感のあるデザイナーズマンション。家で過ごす時間が増え、豊かな室内環境の重要性を日々、痛感しているというジゼルさん。
「植物が好きで数多く育てていますが、屋外の木は冬になると葉が落ちてしまうものがほとんど。松は常緑樹だから、通年楽しめるので迎え入れることにしました」

盆栽を含め、家の中のものは可動式のレイアウトにし、エネルギーの循環を行えるようにしている。そして、DAMDAMの包装紙やビジュアルにも盆栽が度々登場していると語るフィリップさん。
「大自然とコスメティクスのつながりを表現するのに、盆栽はシンボリックで適役。最近、三浦半島の三崎の古民家を改装し別荘にしたので、そこで快適に冬を越すために、今は大きなサイズの盆栽を探し中です」

ジゼル・ゴー●シンガポール版『ハーパーズバザー』の編集長を務め、2017年にナチュラルコスメブランドDAMDAMを設立。料理好きが高じて家庭菜園にも、情熱を注いでいる。
フィリップ・テリアン●在日フランス系企業を経て、独立。ヨーロッパのデザイナーや商品を日本に紹介し、ビジネス・コンサルティング業務を行う。2003年にTFCを設立。

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9 友人のすすめで盆栽協同組合が運営する上野のグリーンクラブbonsaishopで購入。定期開催するポップアップイベントではコスメブランドの世界観を表現する一役を担う。アフリカで買った木製のテーブルの上に置くことも

 

東京の盆栽に出合えるスポット

手もとに置くも、大作を鑑賞するのもよし。非日常へと誘う盆栽スポットを紹介

品品

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販売している剪定ばさみや鉢、受け皿、茶室にヒントを得たフレームまですべてオリジナル。店内は盆栽をインテリア感覚で楽しむヒントがたくさん

現代人の住まいにグリーンを届ける、コケ盆栽を揃える

自由が丘駅から徒歩6分、奥沢の閑静な住宅街にある盆栽専門店。小さなスペースでも自然の景色を楽しめる「景色盆栽」を提案。和室にも洋室にも似合う、多様なサイズ展開のモダンな盆栽を販売。オーナーの小林健二さんは、あの人気グループBTSのRMに盆栽を指導するなど韓国とのつながりが強い。キュートな青銅製のはりねずみなどオリジナルの鉢にも心躍る。週2〜3回レッスンも開催。

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DATA
東京都世田谷区奥沢2の35の13
03-3725-0303
営業時間:11時〜18時 
定休日:水曜・第1土曜
Instagram: @sinajina_info
www.sinajina.com

春花園 BONSAI美術館

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床の間に飾られた黒松の模様木の盆栽は樹齢200年。受け継がれてきたときの流れに対峙し、盆栽の鑑賞方法や哲学、歴史や奥深さを学べる

所狭しと盆栽の大作が並ぶ、カルチャースポット

盆栽家の小林國雄さんによる約1000鉢の盆栽を所蔵し、中には樹齢1000年にも及ぶ傑作も。高い技術と管理によって長らく受け継がれてきた作品が一堂に並ぶ姿は壮観。池がある屋外の庭園のほか、展示用の床の間や茶室もあり、伝統的なテクニックと美学をお茶を飲みながら眺めることができる。それゆえ、海外からの来館者も多い。購入した盆栽の栽培について、持ち込みでの相談も可能。

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DATA
東京都江戸川区新堀1の29の16
03-3670-8622
営業時間:10時〜17時
定休日:月曜
www.kunio-kobayashi.com

GREEN SCAPE

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季節の盆栽を販売。紅葉シーズンはモミジやハゼが人気。冬にかけて五葉松、黒松や赤松が充実する。サイズ展開が豊富で、手軽な価格帯の苔玉も人気

上質で安らぎある日常を厳選した盆栽と苔玉で

中目黒駅から徒歩2分の目黒川沿いにある盆栽ショップ。シンプルでモダンな鉢合わせが粋な、小型から中型の盆栽や苔玉が揃う。「日本の美しい風土と四季を大切に」というコンセプトのもと、オリジナルの盆栽鉢や花台など小物やインテリアアイテムのセレクトも充実。盆栽鉢のみの購入も可能。オンラインショップでの販売も行い、盆栽のワークショップは毎月開催し、苔玉は年3回開催している。

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DATA
東京都目黒区上目黒1の18の4 セルジエ102 
03-5721-1661
営業時間:11時〜19時
定休日:水曜
Instagram: @greenscape2005
greenscape.co.jp

石木花

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ポップな色合いの鉢のミニ盆栽は、集めて並べたくなる可愛さ。自然の美しさを手のひらサイズで表現した盆栽はすべて手作り。別売りで苔も販売

ビギナーに取り入れやすい愛嬌と手軽さが人気の秘密

種から盆栽の苗を栽培し、オンラインショップと各地で常設販売やポップアップを行う人気店。すべて手作りの器に小さくても樹齢2〜3年、長いと10年ほどの苗を植える。現代的なアプローチは、都会のライフスタイルにぴったり。オリジナルの盆栽用什器も展開。苗は種から育て、日本古来の原種を保存する活動も行う。渋谷ロフト4階インテリアフロアの観葉植物コーナーで常設販売中。

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DATA
東京都渋谷区宇田川町21の1 渋谷ロフト4F
03-3462-3807(代表)
営業時間:11時〜21時
Instagram: @sekibokka
www.sekibokka.jp

 

マドモアゼル・ユリアが行く! BONSAIレッスン

盆栽づくりを通して、深遠な美学と哲学を体験してみよう

マドモアゼル・ユリアさん
まどもあぜる ゆりあ●東京を拠点にパリなど世界のファッションウィークやイベントでDJとして活躍中。さらに着物のスタイリング、モデル、コラム執筆やアワードの審査員なども行う。Instagram: @mademoiselle_yulia


岸本千絵さん
きしもと ちえ●「琳葉盆栽」主宰。現代のインテリアにマッチする盆栽を制作。西麻布Kontacto East Studioなどの会場で盆栽教室を開催する。詳細はrinhabonsai.comまたはkontacto.jpで随時更新。Instagram: @rinha_bonsai

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1 まず、盆栽の苗と盆栽鉢の相性を見て選ぶ鉢合わせの作業を。次に松の古い葉と不要な芽を手とはさみを 使って取り除き、枝は剪定して形を整える

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2 松の枝に針金掛けを行い表現したい曲線を決めていく。その後盆栽鉢の底に針金と網を仕込む

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3 不要な土をこそげとり根の周りを掃除。盆栽鉢に入れて木の角度を決め針金で固定。鉢に土を隙間なくすき込み水に浸し、水から上げて苔を張る

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4 土を払い鉢を拭いたら完成!

 

今だからこそ知りたい奥深い盆栽の神髄に迫る

盆栽家の岸本千絵さんによる教えを受けたマドモアゼル・ユリアさん。レッスン後の二人を直撃。
「木の美しさを探りながら手を動かす作業が楽しかった。完成した根あがり松への愛着は格別です!」

盆栽展へ足を運び、制作を夢見ていたユリアさんだが「想像よりも、つくることは簡単だったけど、育てるほうは難しそう」と、つい本音が出る瞬間も。すると、岸本先生が必要な条件を教えてくれた。
「現代人の忙しいライフスタイルや住宅事情でも、水やりと、日照時間を満たすことができれば育てられますよ。枯れてしまうとショックですが、木も生き物であり、病気や寿命があるということを心得て、手にとってみて」

ユリアさんは激動の今こそ、盆栽が日常に潤いをもたらすと言う。
「手をかけたら生涯一緒にいられるし、次の世代に引き継げる。ロマンを感じます。盆栽を見ていると大木の下にいるような温かい気持ちになる。遠出ができずにいる今の時代に、自然を感じられていいですよね」

では、岸本さんが考える盆栽の醍醐味とは?
「盆栽は鉢に植え、樹を調和させるもの。鉢が小さくなるほど表現できる世界が大きくなっていくのも面白い。四季ごとに鑑賞木があるので春夏秋冬を深く味わえます。生活にも余裕が生まれ、美意識も磨かれるのではないでしょうか。洋室でも和室でも、都会の住居環境にフィットする盆栽はたくさんあるので、ルールに縛られず、自由に堪能して」

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根あがりの松と桃青窯の鉢という組み合わせで、念願のマイ盆栽が完成。さっそく自宅での置き方を定めることに。「鉢の下に、石風の敷物を選びました。テーブルが木製のヴィンテージだから、このほうが盆栽が映える気がして。ソファのグリーンと松の葉の色がマッチしてうれしいです」とユリアさん。すると、先生よりアドバイスが。「盆栽の正面を目線の先に整えたら、風の流れをとらえ、木の枝をその方向に合わせて。その先に余白の空間があることが、美しく飾るポイント」

SOURCE:SPUR 2021年12月号「小さい鉢に宿る宇宙 BONSAIのある新しい暮らし」
photography: Sodai Yokoyama , Okabe Tokyo(BONSAIレッスン) special thanks: Kontacto East Studio coordination & text: Aika Kawada edit: Ayana Takeuchi