『クィア・アイ in Japan!』出演のKan「 #日本で結婚したい 僕が、イギリスで同性婚するまで」

Netflixの人気番組『クィア・アイ in Japan!』出演で知られるKanさんが、番組内で家族に紹介したパートナーのTomさんとイギリスで同性婚をすることを発表。ハッピーなニュースの裏には、移住しなければ一緒に過ごせない葛藤や、同性婚も差別禁止も認められない日本への落胆も……。7月の渡英を前に思うことを伺いました。

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illustration:FUYUKI KANAI

3年間の遠距離恋愛。円満の秘訣は「無遅刻無欠勤」コミュニケーション

イギリスに留学していた2016年12月に現在のパートナーであるTomさんと交際を始めたKanさん。2018年に就職のために日本に帰国することになり、「何かゴールがないと遠距離恋愛は難しい」と話し合い、結婚の可能性を視野に入れていたという。2019年に『クィア・アイ in Japan!』内で、Kanさんが家族にTomさんを紹介する様子が放送されたのも記憶に新しい。

「パートナーシップで大切にしているのは、素直さとオープンであることかな。やっぱり、どんなカップルでも、価値観やバックグラウンドはそれぞれ違うから、お互いを理解するためにはコミュニケーションをとるしかない。僕たちの場合は、国籍も人種も違うから、どうしてもわかり合えない部分はある。だから、その都度素直に向き合うことが大切。自分が楽しいことならスラスラ話せるけど、辛いことや傷ついたことって話しづらいですよね。でも、そこは努力してなるべくオープンに」(Kanさん)

遠距離恋愛中は、毎週必ずFaceTimeで顔を見ながらオンライン通話。毎日何かしらのメッセージのやり取りをする習慣を3年間、1度も欠かさずに続けていたという。「Tomは約束の時間に一度も遅れたことがなくて、都合が悪い時はちゃんと連絡をくれる。そういう積み重ねがあったからこそ、離れていても安心できたんだと思います」(Kanさん)。

コロナ禍で会えない1年半。一緒に過ごすために決めた結婚

直近の1年半は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で会えない日々が続いた。「トムはイギリス人なので日本に入国できない、僕がイギリスに行ったとしても帰国後に2週間の隔離期間があって生活に支障が出てしまう。お互いの国を短期で訪ねて会うのが難しくなってしまったんです。前から結婚をしたい気持ちはあったけど、今回はとにかく会って一緒に過ごしたい気持ちの方が強かった。会うためにはビザが必要。結婚することでビザが手に入るのなら、愛し合っているのは事実だし結婚しようという順番です。7月末にはロンドンへ移住する予定。ようやくTomと会えることやロンドンでの新生活をとても楽しみにしています」(Kanさん)。

婚姻の平等も差別の禁止も認められない日本

一方の日本ではまだ婚姻の平等が実現していない。Tomさんと日本で結婚し、生活するという選択肢を検討できなかったことについては「悲しかった」と打ち明ける。「僕もTomも日本が大好きで、Tomは日本に住みたがっていたんです。今年の3月に札幌地裁が『国が同性間の婚姻を認めないことは憲法14条1項で定められた平等原則に違反して違憲である』という歴史的な判決を下しましたが、国会議員による性的マイノリティへの差別発言が繰り返されるなど、婚姻の平等を含む、性的マイノリティの権利保障の道のりは決して平坦ではありません。 今の状況については、ただただ疑問です。婚姻の平等が認められたらすぐにでも結婚したいというカップルはたくさんいて、彼らは声をあげているし、国政にも届いている。なのに、実現しないのはどうして? 誰かの選択肢を奪うことで、誰かの選択肢が増えるわけではないのに通らない。差別禁止もしてくれない。どうしてなんだろう……。悔しい気持ちと悲しい気持ちが湧いてきます。当事者と反対している政治家の間には大きな隔たりがありますよね。この苦しみや辛さを経験せず『理解する』だけでいい人たちには特権がある。なのに、『理解する』ことすら拒否するのですから」(Kanさん)。

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illustration:FUYUKI KANAI

法律で差別が禁止され、同性婚が認められているイギリス

イギリスでは、2010年に包括的差別禁止法とも言える平等法「Equality Act 2010」が成立。平等法は、既存の9つの差別禁止法を整理・統合した法律で、年齢、障害、性適合、婚姻及び市民的パートナーシップ(同性婚)、人種、宗教・信条、性別、性的指向を理由とする差別が禁止された。

婚姻の平等に関しては、2000年初めに法的に承認されたパートナーシップ関係『シビルユニオン』が認められ、2014年にはイングランド、2020年には北アイルランドで同性婚が可能になった。「こういった法整備が行われたことで、性的マイノリティがより受け入れられやすい土壌が整っているように感じます。日本の現状とは大きな違いがありますね」(Kanさん)。

しかし、欧米でアジア系に対するヘイトクライムが起きている情勢に一抹の不安も。「コロナ後はまだ一度も渡英してないのですが、以前ロンドンに留学していた頃、面と向かって『アジア人が嫌いだ』と言われたことがあります。僕はアジア人でもあり性的マイノリティでもあるので、暴力に晒されやすいのではないかと心配。でも、Tomがそばにいてくれたらきっと乗り越えられるはずと信じています」(Kanさん)。

婚約者ビザと配偶者ビザ

今月いっぱいで仕事を納め、7月末の移住に向けて準備に集中。税務署に行ったり、住民票を抜いたりの書類手続きや、荷物の整理で忙しくなりそうだという。「ロンドンではTomの家に住む予定なので、荷物を整理して生活に必要な最低限のものだけに絞って持って行きます。今回発行されたのは婚約者ビザという6ヶ月が期限のビザで、その期間は就労できないんです。結婚式を挙げたら配偶者ビザに切り替わって働けるようになるので、半年間はゆっくり過ごしながらこれからやりたいことを考えます。ちなみに、配偶者ビザを申請するには事前に結婚式の詳細をまとめた証明書を提出しないといけないので、日本にいる間にTomと相談して会場を決めたりする作業がありました」(Kanさん)。セレモニーは9月20日。その日までにコロナ禍が収束する見込みは薄く、Kanさんの家族や友人はほとんど参加できない可能性が高いため、Tomさんの関係者を中心に20人ぐらいが参加するこじんまりとした式になる予定だ。

「ビザの取得は本当に大変! イギリス政府に提出する戸籍謄本などの書類を翻訳会社に依頼して全て英語で提出するというプロセスがあります。パスポートは過去の分も含めて全ページコピーして提出。渡航の目的やトランジットも含めてリストアップする必要があります。また、過去の自分の存在と2人の関係を証明するもの……例えば旅行の写真とか過去にやりとりしてたメッセージ、パートナーの誕生証明、過去6ヶ月の給与明細なども全部提出。平日の仕事の合間を縫って書類を入手するのも一苦労で、住民票はここで、戸籍はここで、独身証明書はここでとバラバラなので、一日に一箇所と決めて集めに行ってました。そうやって必死に集めた書類でも、英語翻訳に間違いがあったら拒否されてしまいます」(Kanさん)。

ビザ取得のために奔走する中、Tomさんの遠隔サポートに助けられた。「いつまでに何を集めてどれを提出すればいいのかGoogleのスプレッドシートにまとめ、かかった費用を折半できるように、入力すると自動計算できるようにしてくれました。そういう一つ一つがいつも優しくて頼れるんです。これまでも、お互いのフライトでちょっとでも僕が多く支払ったらちゃんと割り勘に。そういう小さいことが、実は大きい。助けてもらっているな、これからもずっと一緒に過ごしたいなってなりますよね」(Kanさん)。

愛し合っている者同士が、自然に受け入れられる社会へ

以前留学していたカナダで、同性カップルが当たり前に街で手をつないでいたり、子どもを連れていたりする社会を目の当たりにし、それまで日本で受け入れられないことに悩んできたKanさんはカルチャーショックを受けたそう。「この社会には、男女二元論に当てはまらないノンバイナリーの人もいるし、2人きりのカップルという形ではない愛もある。同性カップルとか異性カップルみたいなくくりではなく、愛し合っている者同士を自然に当たり前に受け入れられるような社会が理想です」(Kanさん)。

今回、結婚報告をリリースした背景には、少しでも日本における婚姻の平等の実現を後押ししたいとの思いが。「自分が、日本で結婚をすることを全く検討できなかったのが悲しくて……。自分の経験を発信することによって、微力でも何かしらの後押しになればと願っています。ただ、僕自身がイギリスで結婚することを選んだ背景には、留学経験があって英語ができることや経済的なことなど、その選択肢にアクセスできる特権がある。そのことを忘れずに、これからもできることをやっていきたいですね」(Kanさん)。

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Kan
大学在学中にカナダへ留学。大学卒業後はイギリスへ渡り、大学院でジェンダー・セクシュア
リティについて学ぶ。帰国後は化粧品会社に入社し、マーケティング業務を担当。2019年に Netflixの番組『クィア・アイ in Japan!』エピソード2に主人公として出演。性的マイノリティ当事者として、自分らしさやセクシュアリティをテーマにSNSでの発信や企業・学校での講演を行う。 2020年には「REING」のジェンダーニュートラルアンダーウエアのモデル、ジュエリーブランド「Hirotaka」のモデルに抜擢されるなど、活動内容は多岐にわたる。