食だって多様性の時代! 新世界のアジアンフード

アジア旅へ出かけづらい今だからこそ、現地の風を感じるレストランに足を運びたい。技と情熱と想像力を結集させ、独自の解釈によって生まれた、ネオな料理店が集結! 六店六色の話題の店へようこそ

OSIKURAMANJU押競満寿

"おしくらまんじゅう"のように、おいしい!楽しい!がモッシュする

話題の朝食は、朝9時のオープンから14時まで。14時からは純喫茶タイムに。光がキラキラ差し込む厨房では、野菜を炒め、肉を煮込む心地よい音が響き、鮮やかな手つきで盛られた豆乳スープやお粥からは湯気が立ち上る。本場の屋台のようなキッチュな空間で、スタッフはテキパキ働く――。すべてに生命力が宿るここは、日本人が夢に描く台湾そのもの。プロデュースはLittle Nap COFFEE STANDの濱田大介さん。フードディレクションを担当するのは、台湾生まれ、日本育ちのritecoさん。彼女はこう語る。
「日本人の味蕾に寄り添う、台湾の家庭の味を目指しています。『豆乳スープと揚げパン』は豆臭さをなくし、ポタージュのように。『ルーロー飯セット』は大きめの豚肉を電鍋で煮込んで。日替わりの『台湾粥セット』は熊本ののはら農研塾のオーガニック栽培米と鳥むね肉でじっくり炊いています」。刺激や油分をできるだけ抑えた主菜、五味五色に富んだ副菜は、どれも健やかで、うまみが際立ち、体にじんわりしみ入るおいしさ。忙しい朝時間がまたたく間に潤い、生きる力が湧いてくる。

1 八角などを加えた特製ダレで豚肉をとろとろになるまで煮込んだ「ルーロー飯セット」(¥1,000)。スープと副菜3種つき

2 「きくらげと卵の黒酢あん」や「白菜と厚揚げの甘煮」など、冷めてもおいしい副菜は日替わりで登場
3 「Little Nap COFFEE STAND」で作られた「台湾カステラ」(¥600)と押競満寿オリジナルブレンドで焙煎された「ドリップコーヒー」(¥500)。14時から閉店までは、純喫茶スタイルに

4 まるでリトル台湾。気軽に足を運べるのに素材にも調理法にも徹底的にこだわる。そのギャップも魅力
5 「豆乳スープと揚げパン」(¥750)

SHOP DATA

東京都渋谷区元代々木25の5 1F
03-6804-7256
営業時間:【朝食】9時〜14時 【喫茶】14時〜17時
定休日:月曜
Instagram: @oshikuramanju.hachiman

※新型コロナウイルスの影響によりお店の営業時間は変更になる場合があります。

CHUKAKANAHANTEN中華可菜飯店

"町中華"でもなく、高級すぎない。丁寧に作る、ちょうどいい一皿

京王井の頭線永福町駅そばに、小さな中国料理店が生まれた。切り盛りするのは、美大生のときから"消えることで記憶に残る儚い芸術"である料理の世界に惹かれ、その道に進んだ五十嵐可菜さん。中国料理店での修業や、「中華可菜」の屋号でイベントやケータリングでの経験を生かし、目指したのは「丁寧に作る、毎日でも食べたくなる料理」。特注の重厚な円卓に、満月のような照明、しゃれた器やアート……。端麗な空間で味わえるのは、前菜の盛り合わせ、点心2種、一品料理、メイン、お粥、デザートつきの「おまかせコース」(¥5,500)。コース一択だが、そこかしこに独自の調理法や食べ方が潜んでいる。「たとえば、旬の素材を積極的に用い、落花生は山椒や八角を加えてゆでたりも。仕事でタイに滞在した経験から着想を得たお粥は、ジャスミン米を使い、鶏だしで炊く。あとはメインのタレをお粥にかけて "一石二鳥料理"にしてみたり」と五十嵐さん。調理から接客まで一人だからこそかなう唯一無二の味、しつらい、ムード。すみずみまでこだわりが行き届くからこそ、ゲストの心を動かす。

6 料理に集中し、フードロスを減らすために、メニューの切り替えは、約1.5カ月ごと。こちらはメイン、旬の野菜も加えた「秋鮭の辛煮込み」と、自家製の豆豉醤をのせたお粥。メインのタレをのせて食べても

7 特注した6人掛けの円卓のほか、カウンター3席のみ。貸し切りも可
8 前菜のひとつ、ゆで落花生と手切りの肉がゴロッと入った五目焼売

9 カウンター前の厨房。静かに、けれど熱を持って挑む五十嵐さんの姿が
10 空間デザインを学んでいた五十嵐さん。しゃれたしつらえにも注目して

SHOP DATA

東京都杉並区永福2の50の1
080-7297-8010
営業時間:18時〜21時 ※緊急事態宣言期間中は〜20時
定休日:日曜・月曜+不定休 ※完全予約制
Instagram: @chukakana_hanten

HIBINO CHUKASHOKUDO日々の中華食堂

立ち寄りやすさと芸術性が交差する。おいしくて、やさしい食堂

目まぐるしい日常に、ぬくもりとおいしいファンタジーをくれる空間が誕生した。厨房を任されるのは「マンダリン オリエンタル 東京」の星つきレストラン「センス」や「中華たかせ」などで研鑽を積んだ鈴木公也シェフ。高次元の技と経験を生かしつつも、目指したのはあえての"食堂"。「作ることがとにかく好きで、日々の研究が楽しい」と語る。得意料理のひとつ、広東料理の花形である焼き物に加え、点心から前菜、主菜、炊き込みご飯まで、バラエティ豊かに手がける。また、手巻き寿司のように、皮に包んで野菜やタレと味わうシグネチャー「香鶏のクリスピーチキン」など数人で囲めるメニューから、一人でも楽しめる夜定食まで幅広く展開。精度が高い品々と愛あふれる接客――きっと、ホームのような愛すべき存在になる。

11 仕込むのに丸2日を要する 「香鶏のクリスピーチキン」。丸鶏セット(¥5,800)のほか、少人数で手軽に楽しめる1/2チキンセット(¥3,800)も用意

12 「点心4種盛り」(¥800)。この日は海鮮、旬野菜、白身魚とトマト。オリジナリティあふれる味のラインナップ
13 「生産者との つながりを大切にしていきたい」と語る店長の髙橋啓也さん。「干し肉と香り野菜の炊き込みごはん」(¥1,800)は、自社経営する田畑で収穫した魚沼産のコシヒカリを使用。凝縮された肉のうまみや良質な油が絡まり、絶品

SHOP DATA

東京都渋谷区上原1の33の11 TOPCOURT4 1F
03-5790-9655
営業時間:11時〜15時(14時30分LO)、17時〜23時(22時30分LO)不定休
Instagram: @hibino_chuuka

MIMOTTOタイ料理 みもっと

みもっとさんの想像力あふれる! 旬素材で作るいとおしいタイ料理

食をこよなく愛し、多彩な食材を自由気ままに調理するオーナー、"みもっとさん"。そんな好奇心旺盛な彼女が切り盛りするのがこのタイ料理店だ。ちなみに、この名前は愛称で、正体は日本人女性だ。「夫のタイ駐在時代に、地元の料理教室やホテルの料理学校に通っていて。引き算して味を研ぎ澄ます和食に対し、タイ料理は辛みや酸味、甘みを足していく。かけ算式に広がるおいしさに魅了されました」。帰国後に開いたこの店舗では、たとえばナマズの代わりにサンマを使うなど、日本の旬の素材や自作の調味料を使って、本場の味を再現。メニューは先付けからスープ、サラダ、カレー、デザートなど計13〜14品の「月替わりおまかせコース」(¥13,200一択・お薄つき)。ユニークなひらめきを、論理と技が支える。訪れるたびワクワクと感嘆が止まらない!

14 10月のメニュー、タイの古典的なサラダ。ココナッツミルク入りの湯で茹でた野菜はツヤツヤ。燻製魚を加えたカレーソースとともに

15 みもっとさん愛用の、オリジナル割烹着。彼女の名前入り
16 「サンマ、にんにくとターメリックのフライ」。研究家体質の みもっとさんは味噌やにんにくの酢漬け、ナンプラー、梅干しなどの 調味料もできる限り手作りにこだわる。日本人の舌に合わせマイルドに

SHOP DATA

東京都目黒区目黒1の24の7
【予約】yoyaku.at/mymot
営業時間:17時30分〜22時
定休日:日〜火曜 ※完全予約制
Instagram: @mymot_thai

ALSOalsoオルソー 鶯嶁荘

小菜から丼まで。台湾のストリートフードに出合える

台湾水餃子で人気の「FUJI COMMUNICATION」が2号店を開店。住宅街に出現した新店舗は、まるで文化遺産のような魅惑的な建築物。台南の古民家から着想を得てリノベーションした。重いドアを開くと広がるのは、異国の匂い。台湾のテレビ番組が流れる1階と、光がたっぷり入る2階の二つの構成だ。一本の鶏もも肉をほぐしながら食す「鶏肉飯」や豚肉に衣をまぶして揚げた「排骨飯」、極細麺に甘辛の肉味噌を絡めた「炸醤麺」など、台湾人にはおなじみのストリートフードを楽しめる。必食は、肉々しさが魅力の「台湾豚肉ワンタン」(4個・¥550)。化学調味料に頼らず、干ししいたけと昆布のだしを加えて作った餡で包んだそれは、極めてジューシー。日本人の味覚にぴたりと寄り添う、骨太なおいしさだ。

17 平日限定ランチ。台南スタイルの「ワンタン&鶏肉飯セット」(¥950)。小菜や一品料理も豊富に揃う

18 窓の鉄柵は、群馬在住の職人が手がけた。内外装にも注目
19 「炸醤麺」(¥750)。1階にはクラフトビールのタップを設置した。「カンパイブルーイング」で醸造した、ワンタンの皮のオリジナルビールも。果実味のある自家製「パイナップルケーキ」(¥250)

SHOP DATA

東京都文京区白山5の32の13
03-5615-9969
営業時間:11時30分〜14時30分(14時LO)、17時〜21時(20時LO)
定休日:月曜
Instagram: @__also__

HOMIHACHIMAN宝味八萬

作りたて、蒸したて! 多種多彩な点心に夢中

奥深き中国の郷土料理を、あの手この手で発信し続ける「味坊」。小田急線代々木八幡駅南口改札の目の前に現れたのが、都内7店舗目、点心が主役の「宝味八萬」だ。活気と熱気が迫りくる客席目の前の厨房では、点心師がリズミカルに生地をこね、皮をのばし、肉や野菜、魚介などをふんだんに加えた自家製の餡を包み、蒸篭で蒸す。アツアツ&モチモチのそれは、口中に含んだ途端、凝縮したうまみやエキスとともに、個々の素材の奥に潜む酸味や苦みが弾ける。多彩な素材同士のハーモニーが、咀嚼の楽しさや、深みのある味わいを教えてくれる。また、甘辛ダレに漬け込み、巨大窯で肉の余分な油を落としながら焼く広東風チャーシューや、肉入り蒸しご飯やお粥も揃う。「味坊」ではおなじみ、コップに注いだ自然派ワインと味わって。

20 伝統に革新を練り込んだ、約15種揃う点心メニューの一部。上から時計回りに海老やニラ入りの「水晶粉果」(3個・¥580)、「海鮮焼売」(3個・¥680)、春巻きの具を湯葉で巻いて揚げ、さらに蒸した「付皮巻」(3本・¥680)

21 スイーツに力を入れているのも「宝味八萬」ならでは。エッグタルト「松花蛋撻」3個(¥580)、黒胡麻だんご「黒餡芝麻球」(3個・¥580)
22 独自のこだわりでセレクトしたスパイスをまぶし、巨大窯で焼成する「焼羊排」(¥1,300)は余韻まで圧巻。ラム肉のほか鶏肉や豚肉も登場

SHOP DATA

東京都渋谷区富ヶ谷1の53の4 1F
03-5761-6066
営業時間:11時30分〜15時、17時〜23時 無休
Instagram: @houmihachiman_dimsum

SOURCE:SPUR 2021年12月号「新世界のアジアンフード」
photography: Takashi Ehara text: Yukino Hirosawa

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