2021.11.16

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革命

さまざまな理由でクローゼットに眠る洋服も、色が変わるだけでぐっと新鮮な表情に生まれ変わる。大切な服をより長く楽しむために、信頼できる染色サービスと、自分で挑戦するときのHow Toを知っておこう。

写真左上のコーデュロイジャケット¥28,000・机の上のコーデュロイハット¥8,000・バンダナ¥6,800・椅子の上のストール¥18,000・奥のテーブルにかかったコーデュロイパンツ¥22,000/Watanabe’s 染め替えることで古着をアップサイクルし、店舗で販売。左手奥の水色シャツ¥5,500/D&DEPARTMENT ムラ状になった黒染めによって、奥行きのある表情に。正面奥のジャケット(参考商品)/KUROZOME REWEAR KYOTO その他/スタイリスト私物

静岡県磐田産のコーデュロイ生地は藍との相性がよく、美しく発色する。
写真左上のコーデュロイジャケット¥28,000・机の上のコーデュロイハット¥8,000・バンダナ¥6,800・椅子の上のストール¥18,000・奥のテーブルにかかったコーデュロイパンツ¥22,000/Watanabe’s 

染め替えることで古着をアップサイクルし、店舗で販売。
左手奥の水色シャツ¥5,500/D&DEPARTMENT 

ムラ状になった黒染めによって、奥行きのある表情に。
正面奥のジャケット(参考商品)/KUROZOME REWEAR KYOTO その他/スタイリスト私物

KUROZOME REWEAR KYOTO

京都で100年以上続く黒染めの老舗によるアップサイクルプロジェクトとは?工房を見学し、"染め替え"の魅力を聞いた。

黒をより暗く、深く見せる、黒紋付の染め技術で洋服が蘇る

日本の伝統的な正装、黒紋付だけを100年以上染め続けてきた「京都紋付」。1970年代の最盛期には黒紋付の業界で年間300万反も染めていたが、近年では年間5000反にもいかないほどに。そんな中、「このままでは黒染めの技術が途絶えてしまう」との想いから、4代目の荒川徹さんが2013年にスタートさせたのが、京黒紋付の技術で洋服を染め替える事業「KUROZOME REWEAR KYOTO」だ。ここ数年は、世の中のSDGsに対する取り組みと相まってますます注目される存在に。WWFジャパンとセカンドストリートともコラボし、「PANDA BLACKプロジェクト(※2016年に終了)」として、衣類を黒く染めて再生させる事業をスタート。この染め替えの受け付けはセカンドストリートの店舗で行われた。2020年には染め替え事業「Kプロジェクト」を開始。これまで重量別だった染め料金を、アイテム別の価格に変更し、新たなスキームとして再スタートを果たした。そのほか、ミハラヤスヒロやアンリアレイジなど、さまざまなブランドの製品の黒染め加工も手がけている。

黒染めで染まるのは綿、麻、シルク、羊毛、レーヨン、キュプラのみで、これらの素材が50%以上含まれている場合のみ受け付け可能になっている。「合成繊維だと黒くならないで、混率によってはグレーに染まるし、樹脂加工やシワ加工されていたら、ムラに染まったり。それがまたかっこいいんです」と、荒川さん。さらに、縫製糸やボタンホールにはポリエステルが使用されていることが多く、その部分は元の色のまま残ることも。天然素材100%以外は、染めてみないとわからない面白さもあるという。「着なくなった服を染めてもう一度着る、世界的にも珍しい取り組みです。ワールドワイドに"染め替え"を当たり前にしていきたいですね」

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_1

1 大正4年創業「京都紋付」の4代目、荒川徹さん。長年の知識と経験をもとに、アパレルとして活用するための黒染めの研究を行う。2001年に洋装業界では例を見ない深い色合いの黒染めの開発に成功。国内外のさまざまなアパレルブランドの黒染め加工を請け負っている。2020年からは、染め替えを本格的にデザインとして提案する事業をスタート。ブランドと手を組み、販売段階から、黒染めをすることを前提とした、2度楽しめる服の製造に向けて取り組んでいる


2 染料作り。黒紋付の染色には従来、アゾ染料が用いられていたが、京都紋付ではいち早く反応染料に切り替えを。これまでの黒紋付は色落ちすることがあったが、反応染料を使うことで解消。反応染料で深い黒を表現することにも成功し、洋服の分野への進出を決めたと荒川さん 

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_2

3 黒染めの工程が終了。生地に定着しなかった染料を洗い流したあと、乾燥し、独自の染色技法、深黒加工へ
4 深黒加工を施すことで、より深い黒に仕上がる

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_3

5 合成繊維の場合、茶色やグレーになることも
6 会社の1階が黒染め工房に。染め替え可能な製品かどうかのチェックから始まり、染料作りや黒染め、天日干し、深黒加工、2度目の天日干しまで、黒染めは延べ6日がかりで行われる

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_4

漆黒に染め替えした、淡いブルーのシャツ。素材が異なる糸の部分のみ青く残り、アクセントに

Information
●京都府京都市中京区壬生松原町51の1 TEL:075-315-2961(京都紋付)
店舗はないので、黒染めの申し込みはオンラインにて受け付け。Tシャツ¥2,750~、納期は約1.5カ月 https://www.k-rewear.jp/somekae/?ca=1607070765-277293

Watanabe’s

世界的に有名な、若き藍染めアーティスト集団「BUAISOU」。立ち上げメンバーのひとり、渡邉健太さんが代表を務めるオリジナルブランドを新たにスタート。

土壌づくりから始める真摯な仕事で藍を暮らしに寄り添う"残る"色に

青の美しさに魅了され、サラリーマンを辞め藍染めの世界に飛び込んだ渡邉健太さん。「BUAISOU」で活躍したのち、今一度「良質な藍作り」に向き合うべく独立。2018年に「Watanabe’s」を立ち上げた。選んだ地は、江戸時代に藍の栽培が盛んに行われた徳島県の上板町。工房の隣で養豚場を運営している「有限会社NOUDA」と連携して肥料を作り、土地の改良から始めた。「理想的な色に仕上げるためには、良質な藍の乾燥葉を発酵させた"すくも"が必要不可欠。これを作るには、春の種まきから多数の工程を経て約1年かかります。そのすくもを使って作る藍染液は伝統的な"天然灰汁発酵建て"という手法によるもの。染色方法によっては産業廃棄物が出て、環境に悪影響だと問題視される現実がある一方で、この藍染めは自然のものだけを使った発酵による染め方。技術やノウハウをパッケージにして海外にも広めていきたいですね」

渡邉さんが目指すのは「残るものづくり」。持ち込みの染め替えのほか、ファッションブランドとの協業にも積極的だ。「藍を作ることから始まり、共感できる人たちと丁寧に生産する。いいものを作れば、日常に藍染めが溶け込みおのずと自分の色が残っていくと信じています」

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_5

7 藍染液の中に洋服を漬け、空気を抜きながら均等に染み渡るよう軽くもみほぐしていく
8 染めれば染めるほど、弱くなっていく染料液。生き物のように変化するため、毎日確認して、必要であれば発酵を促し整える。染まり具合が変わってくるため、液の状態を見極めながら、漬ける時間や回数を決め理想の色へと近づけていく

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_6

9 洋服に使用する「しじら織」用の糸。糸の状態で染めると、布を染めるより表情豊かに。Allbirdsの靴や徳島の織布工場が織るデニムなど、共同での商品製作も行いながら藍染めの可能性を広げている
10 Watanabe’sの代表、渡邉健太さん。洋服を藍染液に浸したあとは、引き上げて絞り、広げて一度竹の物干しに。空気に触れることで発色するため、しっかり酸化しているかチェック。漬けて、取り出して、広げてを何度か繰り返し、熟練の技術で色の濃さを調整しながら染め上げていく

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_7

漂白剤で変色してしまったTシャツワンピース。藍色になりぐっと味わい深い佇まいに。プリントはなじむ場合としっかり残る場合がある

Information
持ち込みの藍染め料金は、洋服の重さ1gあたり¥30(ミニマム料金¥2,000)。郵送での対応も可能。問い合わせはすべて公式HPのContactへ。
https://www.watanabezu.com/

d&RE WEAR

D&DEPARTMENTによるファッションリサイクルプロジェクト

「ゴミ」と見なされたものを「デザイン」の力で蘇らせる

染め替えて洋服を再び着られるようにする取り組み「d&RE WEAR」がスタートしたのは2014年。きっかけは2013年に起きた「ラナプラザの悲劇」だとプロジェクト担当の重松久恵さんは語る。「安価で大量に作られるファストファッションの過酷な現場が表面化し、誰かの犠牲の上に成り立つ生産体制に疑問が生まれたんです。また繊維製品の廃棄量が多い日本にも課題は山積。そんな中で私たちにできることを模索しこの試みを始動させました。最初はリサイクル場からレスキューした衣服を染め直して販売することから始めたんです」

その後、持ち込みによる染め替えサービスも開始。毎年、春夏と秋冬の年2回受け付ける定期開催に加え、藍染めや泥染めなど日本各地の手法が体験できる特別染めも実施している。「お申し込み数やリピーター数は年々増えており、みなさんの意識の高まりをとても実感しています。"染める"という選択肢を提供することで、今ある洋服を"長く着続ける"楽しみにつながればと思っています」

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_8

11 パートナー工房は墨田区にある「川合染工場」。ポリエステルなどの化学繊維は染まらないため、糸だけステッチのように残ったり、混合素材は薄い染め上がりになったり、元の服次第で異なる仕上がりになるのも染め替えの魅力のひとつ

12・13 定期開催の染め替えサービスは、定番の黒と紺に加え、毎回異なるシーズンカラーの3色から選択できる。流行色の傾向を参考に、次の季節を楽しめるよう担当スタッフがそのつど吟味。カナリアイエローやチェリーピンクなど鮮やかな色が登場するのもうれしい

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_9

オフホワイトのクルーネックニットを、2021 SPRING SUMMERのシーズンカラー「マキアート」に。いっそうシックな表情に変化

Information
次回の定期開催染め替えサービスは来春に受け付け。今後「琉球藍」の特別染めも実施予定。詳細は公式HPにて確認を。
https://www.d-department.com/item/DRE_WEAR.html

スタイリスト 小川夢乃さんと 実際に染めてみた

ヴィンテージウェアやクラフトをこよなく愛する小川さん。前々からやってみたかった、自宅でできる"染め"にチャレンジ!

[教えてくださった方]
somenova

Information
1890年創業の染料「みやこ染」販売専門店が運営する染色体験スペース。ワークショップや場所貸し、染料の販売などを行なっている。
●東京都中央区日本橋小舟町 14の7 5F TEL:03-3662-5612

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_10

蛍光剤が落ち、純白がまだらに黄ばんでしまったニットロングカーディガン。素材はウール100%。ショップで見つけると、思わず手に取るほど大好きなグリーンに染め替えたい

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_11

[用意するもの]a ボックス:ポリ容器や鍋など。洋服250gあたり10ℓの湯が必要なため、容量を要確認
b ゴム手袋
c 酢:染め液1ℓに対し約13㎖
d 台所用液体中性洗剤
e 染料:今回はシルク、ウール、ナイロンなどに適したECO染料「酸性みやこ染」を使用。洋服250gに対し1瓶(20g)。染めたい色の濃度によって量は適宜調整
f スプーン

g 500㎖計量カップ
h 1ℓ計量カップ
i 菜箸
※素材によって相性のいい染料は変わります。洋服の表示ラベルをご確認ください
※使用する染料によって、必要になるアイテムや量は変わります
※色布を染める場合は、元の色が染め上がりに影響する可能性があります
※ホーローやプラスチックなどは着色する恐れがあります。適宜養生してください

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_12

ムラなく染めるため、汚れやノリなどを落とした状態の洋服をしっかり水に浸す

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_13

染料を入れ500㎖の熱湯で溶かす。溶け残りがないようにするのがきれいに染めるカギ

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_14

85°C以上のお湯に2の染料と、染まりをよくする酢を入れ、染め液を作る

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_15

洋服を染め液に浸す。20〜30分間菜箸でしっかり動かすとムラなく染まる

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_16

染まったら取り出し、台所用液体中性洗剤を入れた30°C以上のぬるま湯で洗う

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_17

泡と余分な染料を落とすために、何度かすすぎを繰り返す

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_18

脱水をして、陰干し。乾いたら完成!

服に新たな命を吹き込む選択肢。“染め”革の画像_19
中に着たニットキャミソール¥19,800・パンツ¥20,900/ロク 渋谷キャットストリート(ロク) その他/スタイリスト私物

「こんなに鮮やかに染まるなんて驚き!」と小川さん。緑を生かすためほかのアイテムは黒に。首元をすっきりと開け、潔くまとめて。

SOURCE:SPUR 2021年12月号「"染め"革命」
photography: Masahiro Sambe , Sadaho Naito (KUROZOME REWEAR KYOTO), Masataka Namazu (Watanabe’s), Yuka Uesawa (how to)  styling: Yumeno Ogawa coordination: Kanako Mori (Watanabe’s) text: Mai Ueno, Junko Amano (KUROZOME REWEAR KYOTO)