さまざまな理由でクローゼットに眠る洋服も、色が変わるだけでぐっと新鮮な表情に生まれ変わる。大切な服をより長く楽しむために、信頼できる染色サービスと、自分で挑戦するときのHow Toを知っておこう。
静岡県磐田産のコーデュロイ生地は藍との相性がよく、美しく発色する。
写真左上のコーデュロイジャケット¥28,000・机の上のコーデュロイハット¥8,000・バンダナ¥6,800・椅子の上のストール¥18,000・奥のテーブルにかかったコーデュロイパンツ¥22,000/Watanabe’s
染め替えることで古着をアップサイクルし、店舗で販売。
左手奥の水色シャツ¥5,500/D&DEPARTMENT
ムラ状になった黒染めによって、奥行きのある表情に。
正面奥のジャケット(参考商品)/KUROZOME REWEAR KYOTO その他/スタイリスト私物
KUROZOME REWEAR KYOTO
京都で100年以上続く黒染めの老舗によるアップサイクルプロジェクトとは?工房を見学し、"染め替え"の魅力を聞いた。
黒をより暗く、深く見せる、黒紋付の染め技術で洋服が蘇る
日本の伝統的な正装、黒紋付だけを100年以上染め続けてきた「京都紋付」。1970年代の最盛期には黒紋付の業界で年間300万反も染めていたが、近年では年間5000反にもいかないほどに。そんな中、「このままでは黒染めの技術が途絶えてしまう」との想いから、4代目の荒川徹さんが2013年にスタートさせたのが、京黒紋付の技術で洋服を染め替える事業「KUROZOME REWEAR KYOTO」だ。ここ数年は、世の中のSDGsに対する取り組みと相まってますます注目される存在に。WWFジャパンとセカンドストリートともコラボし、「PANDA BLACKプロジェクト(※2016年に終了)」として、衣類を黒く染めて再生させる事業をスタート。この染め替えの受け付けはセカンドストリートの店舗で行われた。2020年には染め替え事業「Kプロジェクト」を開始。これまで重量別だった染め料金を、アイテム別の価格に変更し、新たなスキームとして再スタートを果たした。そのほか、ミハラヤスヒロやアンリアレイジなど、さまざまなブランドの製品の黒染め加工も手がけている。
黒染めで染まるのは綿、麻、シルク、羊毛、レーヨン、キュプラのみで、これらの素材が50%以上含まれている場合のみ受け付け可能になっている。「合成繊維だと黒くならないで、混率によってはグレーに染まるし、樹脂加工やシワ加工されていたら、ムラに染まったり。それがまたかっこいいんです」と、荒川さん。さらに、縫製糸やボタンホールにはポリエステルが使用されていることが多く、その部分は元の色のまま残ることも。天然素材100%以外は、染めてみないとわからない面白さもあるという。「着なくなった服を染めてもう一度着る、世界的にも珍しい取り組みです。ワールドワイドに"染め替え"を当たり前にしていきたいですね」
Watanabe’s
世界的に有名な、若き藍染めアーティスト集団「BUAISOU」。立ち上げメンバーのひとり、渡邉健太さんが代表を務めるオリジナルブランドを新たにスタート。
土壌づくりから始める真摯な仕事で藍を暮らしに寄り添う"残る"色に
青の美しさに魅了され、サラリーマンを辞め藍染めの世界に飛び込んだ渡邉健太さん。「BUAISOU」で活躍したのち、今一度「良質な藍作り」に向き合うべく独立。2018年に「Watanabe’s」を立ち上げた。選んだ地は、江戸時代に藍の栽培が盛んに行われた徳島県の上板町。工房の隣で養豚場を運営している「有限会社NOUDA」と連携して肥料を作り、土地の改良から始めた。「理想的な色に仕上げるためには、良質な藍の乾燥葉を発酵させた"すくも"が必要不可欠。これを作るには、春の種まきから多数の工程を経て約1年かかります。そのすくもを使って作る藍染液は伝統的な"天然灰汁発酵建て"という手法によるもの。染色方法によっては産業廃棄物が出て、環境に悪影響だと問題視される現実がある一方で、この藍染めは自然のものだけを使った発酵による染め方。技術やノウハウをパッケージにして海外にも広めていきたいですね」
渡邉さんが目指すのは「残るものづくり」。持ち込みの染め替えのほか、ファッションブランドとの協業にも積極的だ。「藍を作ることから始まり、共感できる人たちと丁寧に生産する。いいものを作れば、日常に藍染めが溶け込みおのずと自分の色が残っていくと信じています」
d&RE WEAR
D&DEPARTMENTによるファッションリサイクルプロジェクト
「ゴミ」と見なされたものを「デザイン」の力で蘇らせる
染め替えて洋服を再び着られるようにする取り組み「d&RE WEAR」がスタートしたのは2014年。きっかけは2013年に起きた「ラナプラザの悲劇」だとプロジェクト担当の重松久恵さんは語る。「安価で大量に作られるファストファッションの過酷な現場が表面化し、誰かの犠牲の上に成り立つ生産体制に疑問が生まれたんです。また繊維製品の廃棄量が多い日本にも課題は山積。そんな中で私たちにできることを模索しこの試みを始動させました。最初はリサイクル場からレスキューした衣服を染め直して販売することから始めたんです」
その後、持ち込みによる染め替えサービスも開始。毎年、春夏と秋冬の年2回受け付ける定期開催に加え、藍染めや泥染めなど日本各地の手法が体験できる特別染めも実施している。「お申し込み数やリピーター数は年々増えており、みなさんの意識の高まりをとても実感しています。"染める"という選択肢を提供することで、今ある洋服を"長く着続ける"楽しみにつながればと思っています」
スタイリスト 小川夢乃さんと 実際に染めてみた
ヴィンテージウェアやクラフトをこよなく愛する小川さん。前々からやってみたかった、自宅でできる"染め"にチャレンジ!
[教えてくださった方]
somenova
Information
1890年創業の染料「みやこ染」販売専門店が運営する染色体験スペース。ワークショップや場所貸し、染料の販売などを行なっている。
●東京都中央区日本橋小舟町 14の7 5F TEL:03-3662-5612