2001年5月、J-POP界に舞い降りた歌姫・BoA。年月を経てもステージで輝き続け、“クイーン”として次世代のロールモデルの役割を担う彼女がSPURのカバーに初登場! 今までも、これからもシーンを牽引するポップスターとしての矜持や、コロナ禍を経た今の心境について。率直に語ったエクスクルーシブインタビューも必見!
Interview
誰かの希望となるべき立場にいる、と思うんです
「今日は、自然光を使ったすごくやさしい感じの写真でした。日本の雑誌のための撮影が久しぶりだったので、楽しかったですね」と、撮影を終えて着替えをすませ、リラックスした表情でほほえむBoAさん。「日本語もめちゃくちゃ久しぶりにしゃべっているのでちょっと硬いんですけど、頑張って話しています」と申し訳なさそうに言うが、今から20年余り前に猛特訓を受けて覚えた言葉は相変わらず流暢で、彼女と日本の間にある絆を再確認できる。そう、今や“クイーン・オブ・K-POP”の異名をとるBoAさんが、14歳の若さで本邦デビューを果たしたのは2001年のこと。日本で活動する韓国人アーティストは、まだ演歌や歌謡曲の歌手しかいなかった頃だ。
それ以来、韓国と日本の間を頻繁に行き来しながら、ボーカルとダンスの類いまれな才能を駆使して、次々にヒットを放ってきた。「LISTEN TO MY HEART」をはじめ、「VALENTI」「メリクリ」「DO THE MOTION」……と代表曲は枚挙にいとまがない。そして、日本語で歌うだけでなく作詞も日本語で手がけ、MONDO GROSSOやm-floといった日本人アーティストとのコラボレーションに積極的に取り組み、NHK紅白歌合戦の常連でもあった彼女は、すっかり当時のJ-POPの風景に溶け込んでいた。もちろん、表向きの華やかさの裏では、並々ならぬ苦労があったはず……。
「どうでしょう、私の中では、日本に行くまでJ-POPやK-POPなどジャンル自体が区別されていなかったんです。だからこそ、自然にJ-POPの中に入れたんじゃないかなと思っていて。“なじんだ”という表現のほうが合っています。私は、異国であるとかそういう見方はしていなかったし、自分がやりたい歌とパフォーマンスを、異なる言語で挑戦したというだけだったような気がするんですよね。つまり、自分がもともとやっていたことを、違う場所で楽しく行うことができて、その姿を見てみなさんが楽しんでくれたんだと思っています」
事もなげにそう振り返る彼女は、その後’09 年にアメリカでもデビューし、韓国人アーティストとしては史上初めてオリコンのシングル/アルバム両チャートで1位を獲得しただけではなく、全米アルバム・チャートにもランクイン。いち早く世界を舞台に活躍し、いわば道がなかった場所にひとりで道を切り拓いて、まだ誰にも見えていなかったポテンシャルに人々を気づかせた、重要な先駆者だ。
BoAさんの足跡をたどるようにして次の世代が海外に進出していった経緯を踏まえると、現在進行中のK-POPの世界制覇においても、少なからぬ貢献をしている。
「まあ長くやっていますからね、あちこちで(笑)。少しかもしれないけど、何か貢献できたことはあるんじゃないでしょうか。でも、ここまでK-POPをみなさんが好きになってくれたのは、やっぱりインターネットがどこでも簡単に使えるようになったことがすごく大事というか。そのおかげで広げられたのではないでしょうか。後輩たちの音楽活動を見ていて、すごいことが起きているんだなと体感しています。私自身もずっと作品をリリースしているんですが、韓国だけをターゲットにするんじゃなくて、YouTubeやSNSなどで配信する映像を、優先的に考えたりしています。それらを通じていろんな国の方に応援してもらえるというのは、すごくうれしいことですしね。一回オンラインにアップされると、どの国の誰が見るかわからない。大勢のみなさんが見てくれているので、当然世界に広がると思っています」
そういう意味では、まだまだ物事が“オフライン”だった頃に活動をスタートし、時代の大きな変化に柔軟に対応しながら歩んできた彼女。おととし韓国でのデビュー20周年、昨年日本での活動20周年を迎えてなお、シーンの最前線で新しい挑戦に取り組み、後輩たちからロールモデルとして敬愛されていることは、言うまでもない。
「いろんな後輩アーティストのインタビューの中に私の名前が出てきたりするので、そういうときには“お手本として見られているんだな”と実感しますね。以前はそういうふうに見られることをプレッシャーに感じていたんです。でもここにきて、そういう憧れの人として名前を挙げていただく存在になった私が、いくつになってもカッコいいステージを見せられるんだよっていう、誰かの希望となるべき立場にいるんじゃないかなと思うようになりました」
年齢を重ねることでBoAさんに訪れた心境の変化は、ほかにもある。
「私、すごく完璧主義者だったんですよね。目的に到達しようとするプレッシャーが逆によくなかったり、重すぎるときがあったんです。だけど最近はもうちょっと余裕を持っていて、人間らしくなってきたのかもしれません(笑)」
だとすると今までは、人間ではなくてマシーンのようだったということ?「周りから見ていて、機械みたいな感じがあったみたいですよ。でも、私はそれくらい厳しく闘って活動をしてきたから。10代のときは、多分若さゆえのパワーもあったと思うんですよね。そして20代のときも年齢なりのパワーがあったんでしょうけど、今は30代の余裕があるんじゃないかなと」
35歳になった今だからこそ表現できることを
このように、ともすると若さが偏重されがちなポップ・ミュージックの世界において、年齢を重ねることをポジティブに受け止めている彼女は、35歳になった今、競争したり流行を追うことから解放されて、アーティストとして理想的なポジションにいるようだ。
「私は正直言って、自分がすごくラッキーな人間だなと思っているんですよね。自分の道を人より早く決めて、一途にやってきた。そして、長くやればやるほどついてくるメリットみたいなものがどんどん重なって、今では流行に乗っているかよりも、“BoAが何を発信するか”というふうにみなさんが考えてくださっています。なのでこれからも、そのときどきに自分がしたいことに挑戦していけば、自分の人生の1ページを埋められるんじゃないかなと。今の私は、そういうレベルにいるような気がします」
そんなBoAさんが今関心を抱いているのは、思いきり踊ること。昨年韓国のMnet局で放映された、女性ダンサークルーが実力を競うサバイバル番組『STREET WOMAN FIGHTER』で審査員を務めたことをきっかけに、ダンスに対する新たな熱意が芽生えたという。
「すごく影響力のある番組になったんですが、女性ダンサーたちの姿を見ていて、私ももう一度、思いきり踊りたいなって感じたんですよね。なので、パフォーマンスをカッコよく見せられる曲に取りかかってみたいと思っています。みなさんから求められているダンスのレベルが高いし、それを満たすまで、自分がどのくらい必死にやらなければならないかわかっているから、“踊りはそんなに好きじゃない”なんて発言したこともあるんです。今でも、自分はそんなにすごいダンサーだとは思っていないんですよね。それに時代が変わっていって、ヤング・ジェネレーションが出てきて、彼らのエネルギーとかパワーには、勝てない何かがある。でもそれなら、私は経験から来る何かを、もっと表現したい」
ヤング・ジェネレーションといえば、このところ後輩アーティストたちと過ごす時間も増えている。たとえば今年1月には、彼女をメンバーに擁する新グループ、GOT the beat(ガット・ザ・ビート)のデビュー・シングル「Step Back」が発表された。BoAさんがデビュー以来所属している、SM ENTERTAINMENTがローンチしたプロジェクト“Girls On Top”の第1弾で、少女時代のテヨンとヒョヨン、Red Velvetのスルギとウェンディ、aespaのカリナとウィンターという6人の後輩を交え結成。
“Girls On Top”はもとを正せば、女性のエンパワーメントを歌うBoAさん自身の曲のタイトルとあって、世代を横断し、K-POPのガールズパワーを凝縮したグループが誕生するに至った。
「SM ENTERTAINMENTには、K-POPの第一世代から第四世代までのアーティスト(注:K-POPのアーティストは90年代の第一世代、00年代半ば以降の第二世代、10年代に入ってからデビューした第三世代、20年代に登場した第四世代の4つに大まかに分けられている)が集まっています。いろんなジェネレーションの方々が集まったらどういう形になるんだろう?っていう想いから始まったのが、“Girls On Top”のプロジェクト。GOT the beatは第1弾なので気合が入っていますし、素敵なメンバーが集まりました。今回はパフォーマンス中心の曲だったから、私を含めて、ヒョヨンやスルギらメインダンサーと呼ばれている方たち、ダンスもできて歌もすごく上手なメンバーばかりで、本当にスーパーグループというイメージで結成されたんです。私が聞いた限りでは、今後いろんなジャンルで多様なユニットの形をとって、“Girls On Top”が続いていくようですよ」
「私自身はどうしたいのか?」を改めて勉強した時期でした
世代を超えたチームから新しい刺激を得て
確かに「Step Back」のミュージックビデオを見ると、文字どおりトップに立つカリスマティックなガールズによる、パフォーマンスのクォリティの高さは圧倒的。殊に、ずっとソロで活動してきたBoAさんがグループの一員として踊り、歌う姿は新鮮極まりない。
「私はいつもひとりで、真ん中で歌って踊っていたわけですが、GOT the beatでは位置が変わるし、位置に合わせた振り付けのチェンジとか、ほかのメンバーに合わせることとか、そういうことを覚えるのが大変でした。“新人”でしたしね。それが新鮮でもあって、後輩たちからもらう若いバイブスもすごくよかったし、いろんな場面で新しい刺激がありました。だから自分自身も結構楽しんでいましたね(笑)」
このうちaespaとは昨年、同じくSM ENTERTAINMENTが進めている“リマスタープロジェクト”でもコラボレーション。こちらは、K-POPの名曲の数々を若手アーティストがアップデートする試みもあり、第一世代のS.E.S.が’98年に発表した曲「Dreams Come True」を、BoAさんのプロデュースでaespaがカバーした。YouTubeで公開されたメイキング映像には、プロデューサーとして全工程に深く関わる、彼女の仕事ぶりが記録されている。
「私がイメージしたことを表現してくれる、aespaを見ていると、すごく達成感を感じます。そういうところがプロデューサーのやりがいだと思うんですよね。ジェネレーションZの考え方とか、彼らが求めているものも、このプロジェクトを通して学べたと思います。また、後輩たちとコラボしていて私が思い出したのは、“20年前にこんな衣装を着たことがある”っていうことですね(笑)。Y2Kファッションってあるじゃないですか。“そういえば私、『VALENTI』を歌いながらこんな衣装を着てたわ”って思い出していたんです。たとえばミュウミュウなんかは今ローライズを取り入れていますが、“ローライズね……ブリトニー・スピアーズがよく着てたな”って(笑)。だから本当に、流行のサイクルが一巡したんだなと思いましたね」
コロナ禍が続く中でもこうしてさまざまな話題を提供してきたわけだが、以前の多忙さからいくらか解放され、多くの人がそうだったように、自分の生き方について考えたりと、この2年余りを有意義に過ごしたようだ。
「私にとっては、自分を振り返ることができた時間でもありました。外出できなくなってしまったときに、自分で何かを作って食べて生きられるんだなっていうふうに。そもそも、私が一番食べたいものってなんだっけ? 私が一番見たいものってなんだっけ? そんな感じに自分で自分に質問をしてみたら、意外に理解していなかったんですよね。“ああ、私はこういうふうに流れに乗って生きてきたんだな”って気づきました。だから、私自身が見たいこと、食べたいもの、やりたいことを徐々に勉強していった時期でしたね。これまでは、簡単なたとえで言うと“30分しかないんだけど、その時間内で食べられるものって何?”ということが優先だったんです。でも今は時間とは関係なく、自分を大切に物事を考えられるようになりました」
ストレスがあっても楽しいからこそ続けられる
つまり、いい意味で自分本位になれたBoAさん。次に日本に来るときにやりたいことも、はっきりしている。「まずはライブ。そしてとにかく油そばを食べにいきたいです(笑)」。それが実現するまでもう少し時間がかかりそうだけど、しばらく会えていない日本のファンのことも、もちろん忘れてはいない。昨年11月に発表した日本デビュー20周年記念シングル「My Dear」にはファンへの感謝の気持ちが込められていて、“夜が明けたなら/何度でも開けるdoor”と歌って、未来に視線を投げているのが印象的だった。そんな彼女に息の長い活動を続けるための秘訣を尋ねると、「楽しさ」と、シンプルな答えが返ってくる。
「これは多くの社会人に共感してもらえると思うんですけど、自分がやっていることが楽しくないと、続けられないじゃないですか。どんなモチベーションがあったとしても。だから自分がこの仕事をずっと続けられる秘訣は、楽しさ、かな。まあ正直言って、楽しくなかったときもあります(笑)。たまにストレスも感じますが、基本的には楽しいからできるんですよね」
まぎれもないレジェンド、だけどあくまで自然体を貫いてきたBoAさんらしい言葉に、次の20年の活躍を楽しみにせずにいられない。
Profile
BoA
1986年、韓国・ソウル生まれ。2001年にシングル「ID;Peace B」で日本デビューし、ファーストアルバム『LISTEN TO MY HEART』以降6枚連続でオリコン・アルバム・チャート1位を獲得する。’09年3月にはアルバム『BoA』で全米デビューも果たす。デビュー21周年目の5月30日に待望のニューアルバム『The Greatest』をリリース予定。https://bio.to/BoA20thAnniversary
※₩100=約10.36円です(4月21日現在)。※価格表記のない商品はすべて参考商品となります。
SOURCE:SPUR 2022年5月号「20周年を超え、その先へ BoAクイーンは咲き誇る」
model: BoA photography: Hyunwoo Min styling: Heejun Jang, LEEJIEUN hair: Kim Ggotbi make-up: SEO OK headpiece: SALTWATER coordination: Shinhae Song, Asaki Kan,Sachiko Tanno 〈TANO International〉 interview & text: Hiroko Shintani