2022.06.17

自分の意思と体を尊重しよう。メイクアップしても、しなくても

化粧を「する」「しない」は本来は自由なはずなのに、他者からメイクアップについて指摘されることは珍しくない。1830名の読者アンケートから化粧の実態を読み解き、識者に女性の化粧と社会との関わりをインタビュー。また、メイクアップの選択を自らの意思で判断した経験について、意見の異なる4名にそれぞれ話を聞いた

【1830名が回答】メイクアップの意識調査

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毎日の化粧、どうしてる? SPUR読者を対象に、メイクアップに関する意識調査をwebで実施! 短期間で、たくさんの熱い回答が寄せられた※グラフの数値の小数点は四捨五入し、表記しています。



Q1. あなたは毎日化粧をしますか?

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半数以上が日によると回答。続くQ2でも明らかなように、オンの日はメイクアップして、オフの日は肌を休めるという使い分け派が多数。リモートワーク化が進み、毎日メイクアップしないという人が増えているようだ。



Q2. 「する」と答えた人に。あなたはなぜ化粧をしていますか?

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ビューティに関心の高いSPUR読者へのアンケートとあり、自分の楽しみやきれいに見せたいという積極的な気持ちで取り入れている人が6割を超える結果に。化粧をオンオフや気持ちの切り替えに使っているという意見が多く見られた。



Q3. 「しない」と答えた人に。今までしたほうがいいと人に言われたことはありますか?

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メイクアップをしないことを選んでいる人の4割が、「したほうがいい」と他者から言われた経験があることが明らかに。化粧が身だしなみ化された社会でノーメイクを選んでいると、干渉されてしまうことも。



Q4. 「しない」と答えた人に。あなたはなぜ化粧をしないのですか?

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化粧に必要性を感じなかったり、面倒だと答えた人が半数以上。肌に合わない人やメンタルに不調を抱える人にとっては、社会的にメイクアップが身だしなみとされるのが苦痛だと感じることも。



Q5. 今まで自分の意思にかかわらず化粧しなければならなかったことはありますか?

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約半数が自分の意思にかかわらず化粧をしなければならなかったことがあると回答。就活や職場など、仕事関係の理由が大半を占めた。また、家族からのリクエストや冠婚葬祭などの回答も。



Q6. 今まで化粧に関して言われて傷ついた言葉はありますか?

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メイクアップの仕上がりについては、「濃い」「派手」だけでなく、「薄い」「すっぴんと同じ」にも傷ついた人が。化粧をする目的を決めつけたり、他人の顔をカジュアルに品評しないよう、配慮とデリカシーを持ちたい。

 

外見に口を出すことはアイデンティティへの干渉

東京理科大学教養教育研究院 准教授
西倉実季さん
社会学とジェンダー研究の見地から、ルッキズムについて考察。著書に『顔にあざのある女性たち− 「問題経験の語り」の社会学』(生活書院)。自らも化粧をした際に、「外見にかまけて」と言われた経験を持つ。

「化粧研究の世界では、メイクアップは自分を魅力的に見せる、欠点をカバーする、というふたつの目的を持つとされています。最近では、自分を鼓舞する理由やセルフプロデュースの側面が注目されていますが、閉塞した社会で自分の身体ぐらいしか自由に変えられないという内向きの関心の表れとも言えます」

長らく女性の身だしなみとして習慣化されてきたため、私たちはメイクアップしなくても、しすぎても、批判されるというジレンマにさらされがちだ。
「結局、何をしても批判されるなら、真に受けることはないのではないでしょうか。現代では、企業や商品のイメージを個人の身体や外見で表現するという新しい労働の形が生まれています。外見は、本人のアイデンティティと結びついた自己表現の場。そこに社会や企業の力が加わると、その人のアイデンティティを傷つけるのだという認識がもっと広まってほしいですね。もし、化粧に口を出されたら〝余計なお世話。私のアイデンティティですから〟と毅然と答えられる社会になってほしい」

 

積極性や意欲を引き出すメイクアップの力を信じて

アスリートビューティーアドバイザー ®
花田真寿美さん
Precious one代表。バドミントンアスリートからモデルに転身。化粧への偏見が残るスポーツ界で、アスリートを「美」の面からサポート。試合や表彰式、会見前のメイクアップ支援や、オンラインレッスンなどを行う。

「今の自分をちょっといいなと思えると、積極的にプレーできたり、会見でも堂々と発言できます」と、アスリートに自信や魅力を引き出すメイクアップ方法を伝える花田さん。
「スポーツ界の一部では、化粧をするくらいなら競技に集中しろという風潮がまだ色濃いですね。禁止されていたメイクアップが、引退後社会に出るとマナーとされ葛藤する選手も。また、幼少期から活躍していると、成長して化粧し始めた途端に世間から批判されることも。周囲が勝手に、素朴でいてほしいという願望を押しつけているだけですよね」

化粧しないチームメイトが多数派だと、〝モテたいのか〟とイジられたり、〝そんな時間があったら練習しろ〟とコーチから叱られることも。
「なかには、声を震わせながらきれいになりたいと打ち明けてくれた選手もいます。そうなりたいと願うのは自然なことですし、正直な自分の気持ちを許してあげようとアドバイスしています。アスリートに限らず、すべての人が化粧してもしなくても、周りの目を気にせず自由に選択できるようになるといいですね」

 

私たちの化粧する自由・しない自由

自分の意思でメイクアップをする・しないを選んでいる4人に、その理由をインタビュー

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ドレス¥55,000/ハウス オブ ロータス二子玉川店

タレント 山瀬まみさん

違和感に気づいたときは、新しい自分を知るチャンス

いつもキュートな印象の山瀬まみさん。16歳でデビューして以来、一貫して自身でヘア&メイクアップをしてきたというから驚き! プロに任せるのが一般的な芸能界で、あくまでセルフメイクアップにこだわる理由を聞いた。
「単純にお化粧をするのが好きだったのもありますが、何より自分で納得のいく顔にしたかったから。たとえプロの手によるヘア&メイクアップであっても、『ここがちょっと違うんだよな』と思いながら人前に立つのは嫌だった。自分の見た目に責任を持ちたかったんです」

アイドルとしてデビューした頃は、眉毛を細くしすぎて怒られたこともあったが、それでも自分のしたい化粧を貫いてきた。アイシャドウを水玉模様にしてみたり、左右でアイメイクの色を変えてみたりと楽しんできたが、最近は落ち着いた雰囲気にシフト中。
「ある日、ふと鏡を見て『あ、違うな』と感じたんです。『おばさん』という言葉にピンときていなかったけれど、大人になった自分を認めてあげようと素直に思えるようになったのかな」

今の自分を受け入れる覚悟ができて、楽になれたと言う山瀬さん。昔は「若く見えますね」と言われることがうれしかった時期もあった。
「でも、あるとき桂文枝さんに言われたんです、『その言葉、実は枕詞に"年のわりには"とついているんだよ』って。それで『喜んでいる場合じゃない!』とハッとした(笑)。若く見えるって、別に褒め言葉じゃない。見た目の違和感は、意外と他人は指摘してくれないもの。だから自分で違和感に気づいたときは、新しい自分を知るチャンスだと思いたいですね。私もまた60代くらいになったら、思い切りはじけたメイクアップを楽しみたくなるかもしれません。メイクアップに正解はない。だから試行錯誤しながら、そのときの気分に合わせて楽しみたいですね」

Profile
第10回ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリを受賞して歌手デビュー。以来、バラエティ番組やCMで大活躍。お茶の間で愛されるバラエティアイドルとして不動の地位を確立する。

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客室乗務員 アリサさん(仮名)

細かいメイクアップ規定はプロとしての誇り

メイクアップが必須の仕事といえば、まず思い浮かぶのが航空会社の客室乗務員。キャリア10年のアリサさん(仮名)に、その実情を聞いた。
「化粧にはとても細かい規則があります。"アピアランス"という身だしなみにまつわるマニュアルがあって、口紅やアイシャドウは使用可能な色の範囲が定められています。業務開始前にはチェックの時間が設けられ、注意されることも。私も、口紅の色をベージュから赤にするように言われたことがあります。禁止事項も多く、たとえばカラーコンタクトはNG。以前はヘアカラーも禁止でしたが、数年前に暗い色みであればOKになりました。そのときは同僚たちと大いに盛り上がりましたね(笑)」

勤務の日はいつも20分ほどかけて規定どおりのメイクアップをしているというアリサさん。驚くほど厳しいルールも、アリサさんは「むしろいいこと」だと認識している。
「細かい規則はすべて、会社が大切にするブランドイメージを守るためのもの。私たちがプロとして統一感のある美しさを提供することで、お客さまに安心感や信頼感を抱いてもらえるわけです。それに私はもともと、そういう一糸乱れぬ美しさを体現した客室乗務員の姿に憧れてこの業界に入ってきたわけだし、同僚たちもみんなそうです。だから違和感はないですね」

アリサさんの会社では、数年前に初めて男性が客室乗務員として採用された。そこで初めて浮き彫りになったジェンダーバイアスもある。
「女性はお化粧がマストな一方で、規定には『男性の客室乗務員のメイクアップは不可』とはっきり書いてあるんです。改めて考えてみると、ちょっと違和感がありますよね。会社を挙げてダイバーシティに取り組んでいるところでもあるので、社会の流れに合わせてこれから変わってくる部分なのかもしれませんね」

Profile
航空会社に客室乗務員として勤務して10年目の34歳。パンデミックの影響で、最近のフライトは月2、3回ほどに減った。現在は子育てと仕事を両立している。

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パラ競泳日本代表 辻内彩野さん

メイクアップもアスリートの多様性のひとつ

視覚障がいのある競泳選手の辻内彩野さん。7つの日本記録と3つのアジア記録を保持する、日本パラ水泳界のトップ選手だ。プールに入るため競技中はいっさいメイクアップをしないぶん、ネイルカラーを楽しんでいるそう。
「2019年の世界選手権のとき、レースが始まる直前に、ふと自分の足に塗ったペディキュアの、ラメの輝きが目に留まりました。その瞬間ふわっと気持ちが和らいだんです。レースでも好成績が出たので、それ以来ゲン担ぎのようにネイルをしている面もありますね」

だが、強化指定選手の規定では、実は化粧やネイルは原則的にNGとされているという。「私も、あまり派手な色のネイルは控えるよう周囲から言われたことが。でもネイルを塗ることで気分が上がり、いい成績につながることも。だから私がネイルをしているのは、『絶対にいいタイムを出すぞ』という自分へのプレッシャーであり、まるで学校の校則のような規定へのささやかな反抗心でもあります(笑)」

過去には、女性アスリートのメイクアップを揶揄する声が問題になったこともある。
「選手に対して、全力で頑張ってほしいと思う気持ちはわかります。でも、どんなトップ選手でも、スランプに陥るときは絶対にある。そんなときに、『化粧にかまけて練習してないからだ』と中傷するのは、あまりにも選手の努力を軽視する発言なのではと感じてしまいます。そこには『アスリートはこうあるべき』という押しつけがあるのでは。私は視覚障がい者なので、『障がい者はかわいそう』という思い込みを強く感じることがあります。でも私は自分の現状をポジティブに捉えているし、かわいそうだと決めつけられるのには違和感があります。メイクアップについても、型にはめるのではなく、いろいろな人がいて当たり前になるといいですね」

Profile
大学1年のときに進行性の黄斑ジストロフィーと診断され、パラ競泳へ。2019年パラ競泳世界選手権では女子100m平泳ぎ(SB13クラス)で銅メダルを獲得。東京2020パラリンピックでは3つの種目で入賞。

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モデル RIONAさん

自分らしさを追求した結果としての"ノーメイク"

普段はメイクアップをせずに過ごしているRIONAさん。学生時代はトレンドのメイクアップを楽しんでいたが、徐々に違和感を抱くようになったという。
「昔からメンズアイテムをラフに着るのが好きで、それが自分らしいスタイルだと思っています。このスタイルが確立されてきた頃、それまで当たり前にしていたメイクアップに疑問を抱くように。リップやマスカラなど、ひとつひとつ『今の私に本当に必要かな?』と確認して取り除いていき、最終的にノーメイクの状態がいちばん自分らしくいられると思うように」

日本とイランにルーツを持つRIONAさんは、日本社会で受け入れられやすいメイクアップのパターンにも違和感があった。
「はっきりした顔だちなので、日本で一般的な可愛らしいメイクアップが、必ずしも似合うわけじゃない。持って生まれた顔や肌のトーンは人によって違うのに、すべての人を型にはめ込むのは無理がありますよね。世間の基準に合わせるのではなく、自分らしさを引き出すために、あえてメイクアップをしないという選択肢も認められていいと思っています」

化粧をしないぶん、スキンケアに気を使うように。ジムでのトレーニングも始め、以前より自分に自信が持てるようになった。
「自信の持ち方は人によって違いますよね。思い切り化粧をすることで自信が持てる人もいるし、それはすごく素敵なことだと思う。でも私の場合は、メイクアップしないのがいちばん心地よくいられるんです」

ノーメイクアップを貫くなかでときにぶつかるのが、女性は化粧をするものという固定観念。
「もっと多様な女性像を認め合えたらいいですよね。化粧をしている女性も、していない女性も同時に心地よくいられる社会が理想的です」

Profile
東京都出身。イランと日本にルーツを持ち、10代の頃からモデルとして活動。レディスファッションブランドのディレクションを務めていたことも。最近は勉強を兼ねて神保町の古書店に勤務中。

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SOURCE:SPUR 2022年7月号「自分の意思と体を尊重しよう メイクアップしても、しなくても」
interview & text: Anna Osada (p.138, p.139), Chiharu Itagaki (p.140, p.141) photography: Manami Takahashi styling: Chiaki Kawamata (Mami Yamase) illustration: HONGAMA

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