ティモシー・シャラメに特別取材! 映画だって、ファッションを愛してる

2022年に控えているのは、ウェス・アンダーソン待望の新作をはじめファッション目線で堪能したい作品。ティモシー・シャラメのインタビューのほか、注目の作品をチェック!

 

この3作は見逃せない! 

ファッション愛にあふれた注目作品をピックアップファッション愛にあふれた注目作品をピックアップ

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©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊
(公開中)

衣装やセットの細部までファッショナブルな群像劇 by Kuriko Sato

ウェス・アンダーソン映画とファッションは切っても切り離せない関係にある。3年ぶりの新作、『フレンチ・ディスパッチ』は、20世紀のフランスでありながら、どこにも存在しない架空の街が舞台。古きよき味わいを醸しつつ、パステル調の遊び心あふれるセットとコスチュームはまさにウェスならではだ。物語は、フランスの都市に支社を置くアメリカの雑誌編集部の日常と、彼らが作り出すエッセイのストーリーが並行して描かれる。それだけに登場人物も多彩で、まるでファッション図鑑を見るようなバラエティに富んでいる。雑誌の編集局長役を務めるビル・マーレイと彼の部下たちは「マッドメン」のようなアメリカのコンサバ系やトラッド・スタイル。1968年にフランスで起きた学生のムーブメント、「五月危機」のリーダー、ダニエル・コーン=ベンディットをモデルにしたティモシー・シャラメ演じるキャラクターは、当時のエリート学生をおしゃれに蘇らせたかのような装い。また画家の藤田嗣治 にそっくりなシェフや、フランスのフィルム・ノワールに出てくる警部やギャングたちをモデルにした衣装も。これまでのウェス映画と比べても、多彩で凝った、ファッショナブルな世界に魅了されるに違いない。

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エキセントリックな美術ジャーナリストを演じるティルダ・スウィントン(右)は、ファッション・エディター、ダイアナ・ヴリーランドを彷彿とさせるような雰囲気。華やかなオレンジのドレスは画面の中でも際立ち、目を引く。囚人の天才画家モーゼス(ベニチオ・デル・トロ)のミューズとなる看守役のレア・セドゥ(上)は、厳粛な雰囲気のユニフォームが逆に、そこはかとないエロティシズムを漂わせている

 

特別取材!
Interview with Timothée Chalamet

“僕は中学生のときからずっとウェスのファンだ”

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ティモシー・シャラメ扮する学生運動のリーダーは、フランスの実在する活動家がモデル。ちょっと崩れたスーツの着こなしがスタイリッシュに決まっている

無精髭とスーツスタイルでエリート学生を好演

まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、カラフルでおしゃれなウェス・アンダーソン監督の世界に、再び浸れる機会がやってきた。2021年カンヌ国際映画祭で披露された新作『フレンチ・ディスパッチ』は、フランスのカルチャーや映画に対する彼の愛情があふれた作品だ。20世紀の架空の街を舞台に、現実と創作の物語の世界が、モノクロとカラーを自在に行き来しながら描かれる。

その中でも特に印象的なエピソードが、ティモシー・シャラメ扮するカリスマ的な学生が、反抗的なムーブメントを立ち上げる章だろう。ジャン=リュック・ゴダールなども影響を受けた1968年のパリの五月危機を下敷きにしたもので、レトロな舞台美術と色彩、衣装に目を奪われる。くしゃくしゃのヘアスタイルと無精髭にスーツというミスマッチ・スタイルで、スタイリッシュなエリート学生を表現したシャラメが、本作の世界観についてSPUR読者のために語ってくれた。

「ウェス(・アンダーソン)はフランス映画、特にヌーヴェル・ヴァーグから大きな影響を受けている。だから彼の世界観全体を理解するために、ウェスの好きな作品を観て学んだ。たとえばトリュフォー監督の『大人は判ってくれない』(’59 )とか。それと僕の父はフランス人で、1968年当時15歳ぐらいだったから、当時について聞くことができた。あの時代の空気、学生たちのスタイルや流行などをね。

素晴らしかったのは、衣装デザイナーとして4回もアカデミー賞を受賞しているミレーナ・カノネロと仕事ができたこと。彼女はスタンリー・キューブリックの『バリー・リンドン』(’75 )やソフィア・コッポラの『マリー・アントワネット』(’06 )などを手がけ、ウェスとは『グランド・ブダペスト・ホテル』(’14 )で仕事をしている偉大な才能の持ち主だ。この映画では、場面ごとにカラーからモノクロになったりするから、衣装の色彩には特に気を遣っていて。そんな彼女の手中にあることは安心感があった。アルチュール・ランボーに似ているって!? 僕自身はイメージしなかったけれど、もしかしたらミレーナの頭のなかでは着想があったかもしれないね(笑)」

フランス映画の影響といえば、シャラメの相手役を務めたフランスの新星、リナ・クードリのヘルメットに革ジャンのバイク・スタイルは、ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠、ジャック・リヴェット監督の『北の橋』(’81 )に出てくる俳優、パスカル・オジェのキャラクターをイメージしているとか。細部にウェスのこだわりが表れている。シャラメはそんなウェス映画に対する愛着を、情熱的に語る。

「1カット1カットが芸術的で、すべてのディテールに彼のセンスが表れている。僕は『天才マックスの世界』(’98 )を中学生のときに観て以来、ずっとウェスのファンだ。『グランド・ブダペスト・ホテル』のレイフ・ファインズには、俳優としてとても感銘を受けた。だからウェスの映画に出演できて、そのタペストリーの一部になれることは、とても光栄だった。それに彼の撮影現場はすごく楽しい。みんなで合宿して、ごはんもいつも一緒に食べて、まるで家族みたいだ」

とはいえ、こだわりに貫かれているということは、それだけ要求も徹底しているということ。彼の完璧主義は、俳優たちを新たな領域に押し上げることもある。

「たしかにテイクを45回撮ったこともある。撮っているときは、『え〜、まだやるの?』と思ったけれど(笑)、あとで理解した。ウェスは芝居に何か彼にだけ理解できるハイセンスなものを求めているんだ」

どこか懐かしいようでいて、これまで観たこともないウェス・ワールドを目にする日が待ちきれない。

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学生たちが集うカフェ「ル・サン・ブラーグ(冗談抜き)」での1シーン(右奥)。ジュークボックスなどのデザインもおしゃれ。恋と理想に若い情熱を傾ける姿がみずみずしく、魅力的。雑誌「フレンチ・ディスパッチ」のイラストのスタイル(右)は、ウェスが大好きだったという、かつてのニューヨーカー誌をモデルにしたもの

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ハウス・オブ・グッチ(公開中)

対照的なスタイルが、ふたりの差異をより際立たせる by Akemi Nakamura

レディー・ガガとアダム・ドライバーが夫婦役を熱演。ガガ演じるパトリツィア・レッジャーニが、夫のグッチ創業者一族マウリツィオ・グッチの殺害を計画するまでを描く事実に基づいた『ハウス・オブ・グッチ』。そのスキャンダラスな物語や豪華なキャスト、設定から今作が見応えある一本になったのは当然だ。ガガは温度調節までして保管した自らのアーカイブスの服や水玉のイヴ・サンローランのドレスを選んでいる。加えて「同じ衣装は2度と着ない」と主張し、グッチのアーカイブスからアイテムを借りたり、グッチ・モノグラムの生地をもとに一から作るなどして65回も衣装替え。アクセサリーも同じものは2度と使わなかった。さらにパトリツィアが好んだレザーを活かした衣装(2)やゴールドのアクセサリー、毛皮(1)を強調し"ド派手"にスタイリング。

対照的なのが、グッチ一族のマウリツィオの装い。同様に44回の出演シーンで同じ衣装は繰り返されていないが、学生時代のフェアアイルセーター、ブレザー、マッキントッシュに始まりサヴィル・ロウによる仕立てのスーツなど圧倒的に高級だが、一貫してコンサバティブ(3)。それがふたりの階級や性格の差を象徴しドラマチックな物語をより立体的に肉づけしている。

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グッチ創業者一族のマウリツィオ・グッチがパトリツィア・レッジャーニに1970年代に出会い、’95年に殺害されるまでを描いた、リドリー・スコット監督『ハウス・オブ・グッチ』。一家の長年にわたる権力争いの舞台裏も見どころのひとつだ。エルメネジルド ゼニアなどの仕立てによるハイエンドなスーツは、アル・パチーノ演じる叔父のアルドやジェレミー・アイアンズ演じる父のロドルフォも着用している

一族の中で最もセンスが冴えないジャレッド・レト演じるアルドの息子パオロ(4)。すべて手縫いというアットリーニの最高級スーツなどを着て、父同様ストライプ好きの設定ながら、常にやりすぎのスタイリング。その悪趣味さがよりドラマを面白くしている

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スペンサー(2022年公開予定)

ファッションがダイアナ妃の心を映し出す by Akemi Nakamura

「私は外見的にダイアナ妃と違うから衣装がそのギャップを埋めてくれた」と語るのは『スペンサー』でダイアナ妃を演じたクリステン・スチュワートだ。ファッション・アイコンでもあったダイアナ妃が主人公の今作で、衣装は彼女の心を映す大事な役割を担っている。冒頭では路頭に迷う彼女が、緑と赤の格子柄ジャケットに金ボタン(7)、シャネルのバッグとサングラスで登場。ダイアナ妃がまったく同じ服を着ていたわけではないが1988年〜’92年の彼女のスタイルが再現されている。映画でもキーとなる赤いシャネルのコート(5)も、’88年に彼女が着ていた最もアイコニックな服のひとつで、今作のためにシャネルが仕立てたもの。「映画の中でシャネルの服を着ているときは、ダイアナが力を必要としているとき」とクリステンも語っていたが、もうひとつのキーはクリスマスのディナーで着るシャネルのドレス(6)だ。これもシャネルが’88年春夏オートクチュールコレクションのレプリカを約1000時間かけて再現。このドレスで彼女が倒れ込むシーンには、胸が張り裂けそうになる。クリステンの一番のお気に入りはダイアナ妃と同じMondiのボンバージャケット。ドレスを脱いだ姿が彼女の心情を表している。

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クリステン・スチュワート演じるダイアナ妃がチャールズ皇太子との離婚を決意する、’91年12月のクリスマス休暇の3日間を描いた『スペンサー』(パブロ・ラライン監督)。ドレスが豪華であればあるほどそれが彼女を閉じ込めるように映り、悲しい。アイコニックなウェディングドレスもパイレーツハットのスーツも若かりし頃の彼女とともにモンタージュで登場。その全貌を見ると、余計に胸が締めつけられる

SOURCE:SPUR 2022年3月号「ティモシー・シャラメに特別取材! 映画だって、ファッションを愛してる」
photography: AFLO, amanaimages text: Kuriko Sato (フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊), Akemi Nakamura (ハウス・オブ・グッチ、スペンサー)