映画『ボーンズ アンド オール』を観るべき理由。ティモシー・シャラメ&テイラー・ラッセル「僕らは孤独を生きている」

2月17日(金)に公開予定のルカ・グァダニーノ監督による映画『ボーンズ アンド オール』。孤独を抱えるふたりを演じたティモシー・シャラメとテイラー・ラッセルに、SPURが独占インタビュー! 鮮烈なラブストーリーについて、思いを語る

interview & text: Kuriko Sato

映画『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメ(右)&テイラー・ラッセル(左)
映画『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメ(右)&テイラー・ラッセル(左) © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

“ルカの映画にはいつも魔術的なリアリズムがある”
—— ティモシー・シャラメ

ティモシー・シャラメを取材するのは、これが何度目だったろう。彼に会うときはいつも興奮と不安が入り混じった気持ちになる。前回の好印象が裏切られませんように、という気持ちによるものだ。それほど彼はいつも気さくで、誠実で、真摯にインタビュアーに接してくれる。

果たして、2022年のベネチア国際映画祭で会ったときもその印象は変わらなかった。むしろ、年齢としてはひとつ年上ながらキャリア的にはまだ浅い共演者、テイラー・ラッセルを気遣う態度に、さらに好感度が増したほどだ。

 

映画『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメ(左)&テイラー・ラッセル(右)
© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

ティモシー・シャラメ自身がプロデューサーに

『君の名前で僕を呼んで』(’17 )以来、5年ぶりにルカ・グァダニーノ監督とタッグを組むと聞いて、多くの人は続編を期待したかもしれない。少なくとも、アメリカの中西部を舞台にカニバリズムを題材にしたロードムービーを作るとは、誰も想像できなかっただろう。だが新作『ボーンズ アンド オール』は、このふたりならではのアーティスティックな特徴を持つ、鮮烈な作品だ。

最終的にプロデュースも買って出るほどに入れ込んだシャラメは、初めて脚本を呼んだときの印象を、こう振り返る

「たしかに意表を突かれたよ(笑)。でも脚本を読んでわかったのは、これはとても誠実で純粋なラブストーリーだということ。だからカニバリズムや暴力的な要素においても、それが目的であるかのような極端なものになるだろうとは思わなかった。たとえばルカの前作の『サスペリア』(’18 )は過激なタイプの映画だったけれど、ああいう過激さとはまた違う作品になるだろうとね。それに監督がルカなら、絶対にとんでもないものにはならないという確信が持てた。むしろ僕が興味を引かれたのは、この特殊な環境におけるラブストーリーを彼がどんなふうに表現するかということだったね。お互いアウトサイダーの、苦悩を抱える者同士の恋愛を。ルカの映画にはいつも魔術的なリアリズムがあるけれど、それがこの物語ではどう作用するか、想像するだけで興奮したよ。そしてその期待はまったく裏切られなかったんだ」

映画『ボーンズ アンド オール』主演のティモシー・シャラメ(左)とルカ・グァダニーノ監督(右)
映画『ボーンズ アンド オール』主演のティモシー・シャラメ(左)とルカ・グァダニーノ監督(右) © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

グァダニーノも、シャラメとの再会についてこう評する。

「以前からずっと彼とまた仕事がしたいと考えていたから、今回は絶好の機会だった。それに、本能的にこの役は彼にぴったりだと思ったんだ。彼は美しく、ミステリアスで情熱的。常に大胆であることを恐れない」

もっとも、“プロデューサー”という言葉が連想させる役割について、シャラメはこう補足する。

「別にプロデューサーという肩書を、是が非でも手に入れたかったわけじゃない。ただ僕らが望むような形にするために、この企画を守りたかったんだ。アーティスティックな自由を得ることは必要不可欠で、そのために貢献できればというだけで」

映画『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメ(右)&テイラー・ラッセル(左)
© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

“アートの役割とは社会を反映したり、そこに光を照らすこと”
—— ティモシー・シャラメ

遺伝や災いについて考えさせられた

生まれたときから恐ろしい衝動を抱え育った18歳のマレン。彼女は自分を捨てた父親から母のことを聞き、自身の秘密を解くために母を探す旅に出る。その旅の途中で、ひとりで放浪する孤独な青年リーに出会う。彼もまた、マレンと同じ運命を背負い、ふたりは瞬時に惹かれ合う。

カミーユ・デアンジェリスの同名の小説を原作にした本作では、シャラメの言う通り、カニバリズムはテーマというよりメタファーに過ぎない。人間を喰うことでしか生き延びられない変種の主人公たちは、社会から疎外された者の象徴であり、そんなふたりが偶然出会うことで、愛が生まれる。それは他者を必要とせざるを得ない、運命共同体とも言えるものだ。

マレン役のラッセルは、この物語の持つ奥深さに魅せられたという。

「遺伝や災いということについて、深く考えさせられた。生まれたときからそういうものを背負っている人は、生きている間ずっと抱き続けるものだから。この映画のなかで災いを打ち砕こうとしているマレンを演じるのは、とてもエキサイティングだった。持って生まれた災いから逃れるのは可能か、どうやってそれに立ち向かうか、ひとりでできることなのか。あるいは同じことを求める誰かと一緒に行動することによって、可能になるのか。そういうことに思いを巡らせながら演じた。一般的に依存症というものは厄介なことだけど、自分たちが抱える困難と闘おうとしているこの主人公たちの姿は、観る人の心を打つんじゃないかと思う」

映画『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメ(右)&テイラー・ラッセル(左)
© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

ラッセルの言葉を頷きながら聞いていたシャラメは、こうつけ加える。

「すごく個人的なことになるけれど、この映画のテーマは僕にふたつのことを考えさせた。ひとつは人間として、僕らは親から何を受け継ぐのかということ。幸い僕は素晴らしい両親を持って、恵まれたものを受け取ることができたけれど、それでも彼らが背負う過去の重責を受け継いでいるという気がする。

ふたつ目は、僕が『ビューティフル・ボーイ』(’18 )に出た経験から。ドラッグ依存の若者を演じるにあたってリサーチをして、依存症の人々が集まるコミュニティに行ったんだ。そこでわかったのは、努力すればするほど、中毒性というものから逃れるのがいかに難しいか。特に若いうちに依存症になって、それが普通の状態になってしまった場合には、なかなか抜け出せない。だからリーとマレンのように、一緒に生きることができる人に出会えることは素晴らしいと思う。でも同時に、また以前のような状態に戻ってしまったらという恐怖も、いつもどこかにあるんだ。それゆえに絶望的な気分になる可能性もある。そんなことを考えさせられたよ」

映画『ボーンズ アンド オール』のティモシー・シャラメ&テイラー・ラッセル
© 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

グァダニーノによれば、脚本の第一稿ではリーのキャラクターはどちらかといえば雄々しく、マレンと対照的だったという。それを中性的で、脆さを秘めたタイプにしたのは、シャラメのアイデアだった。

「一見自立して自由に生きているように見えながら、途方に暮れている魂を抱え、マレンと同じぐらい脆さを持っているほうが、興味深くなると思った。そのほうが複雑で演じ甲斐もあったからね」

ラッセルはシャラメの役作りを目の当たりにして、大きなインスピレーションを受けたと語る。

「ティモシーの役への情熱と集中力には驚くばかり。それに彼とルカの絆も、現場で強く感じることができて、そういう信頼関係のなかに自分が加われることは、とても恵まれていると感じた」

第79回ベネチア国際映画祭に登場した ルカ・グァダニーノ監督、テイラー・ラッセル、ティモシー・シャラメ(右から)
第79回ベネチア国際映画祭に登場した ルカ・グァダニーノ監督、テイラー・ラッセル、ティモシー・シャラメ(右から) © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

この映画が描くのは“孤独”という普遍的なテーマ

“社会の辺境を生きるアウトサイダー”は、シャラメとラッセルにとっては、あまり縁のない人物像であるように思えなくもない。27歳のシャラメはなんといっても、この世代でもっとも才能があり、絶大な人気を誇る俳優のひとりだ。そして、レッドカーペットでは常にファンを喜ばせるスター・オーラを発揮する。イタリアではファンの過剰な熱狂を心配して、警察がレッドカーペットを中止させるという事態まで起きているほどだ。

一方18歳でデビューし、アメリカでヒットした『WAVES/ウェイブス』(’19 )やテレビシリーズ「ロスト・イン・スペース」等で注目を浴びたラッセルも、本作でベネチア国際映画祭の新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を授与され、いま旬な俳優として注目を集めている。だがふたりとも、その知名度とは裏腹に、孤独に関しては持論がある。

第79回ベネチア国際映画祭で新人俳優賞に輝いたテイラー・ラッセル
第79回ベネチア国際映画祭で新人俳優賞に輝いたテイラー・ラッセル © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

「どんな職業であれ、多くの人にとって、自分のことをアウトサイダーと感じるときがあると思う。私はまだ、世の中の大人ほどたくさんの経験をしているわけではないけれど、特にティーンエイジャーの思春期には、孤独を感じる人は多いはず。だからこの映画のテーマが、たくさんの人に響くと期待している」とラッセル。

シャラメも「僕もまったく同感で、孤独というのは普遍的なテーマだと思う。この映画を観たら、観客はそれぞれの感じ方でインスパイアされるんじゃないかな」と続ける。

全身レッドの大胆なスタイルで第79回ベネチア国際映画祭に参加したティモシー・シャラメ
全身レッドの大胆なスタイルで第79回ベネチア国際映画祭に参加したティモシー・シャラメ © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

さらに本作で描かれるアメリカの中西部の姿に関して、彼はポリティカルな側面から解釈をつけ加えることも忘れない。

「ルカはヨーロピアンだから、外から見たアメリカの雰囲気というのがすくい取られていると思う。ニューヨークで育った僕は、アメリカの中西部に関して詳しいわけではないけれど、いまのアメリカは全体的に、人々をみんな同じカテゴリーに押し込もうとするような風潮がある。それは恐ろしいことだ。この映画には、そんなメタファーも含まれている。

僕にとってアートの役割というのは、社会を反映したり、そこに光を照らしたりするもの。ルカの映画はまさにそういう存在だと思う」

“多くの人は自分をアウトサイダーだと感じる瞬間がある”
—— テイラー・ラッセル

第79回ベネチア国際映画祭のフォトコールに登場したテイラー・ラッセル(右)、ティモシー・シャラメ(左)
第79回ベネチア国際映画祭のフォトコールに登場したテイラー・ラッセル(右)、ティモシー・シャラメ(左) © 2022 Metro-Goldwyn-Mayer Pictures Inc. All rights reserved.

Timothe'e Chalamet
1995年生まれ。2008年に短編映画で俳優デビュー。映画『インターステラー』(’14)、『君の名前で僕を呼んで』(’17)、『DUNE/デューン 砂の惑星』(’21)など数多くの作品に出演。

Taylor  Russell
1994年生まれ。幼少期からバレエを習い、2012年からTVドラマや映画にて俳優のキャリアをスタート。トレイ・エドワード・シュルツ監督作『WAVES/ウェイブス』(’19)への出演も話題に。

『ボーンズ アンド オール』

生まれつき、人を食べる衝動を持った18歳のマレン(テイラー・ラッセル)は初めて同じ秘密を抱えるリー(ティモシー・シャラメ)と出会う。葛藤を抱えるふたりは次第に惹かれ合う。ベネチア国際映画祭で監督賞・新人俳優賞を受賞。(2月17日公開)

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