2020年にアルバム『Kid Krow』を発表し、最新作『Superache』では日本デビューも果たした稀代のアーティスト、コナン・グレイ。SPURに初登場となるストーリーでは、自身のクリエーションでも象徴的な"花"をテーマに。飾らない言葉から、世界で支持を集める理由がわかる。貴重なインタビューとともに、現代のポップスターに迫りたい。
1998年、アメリカ・サンディエゴ生まれ。テキサス州ジョージタウンで育ち、高校時代にオリジナル曲を発表し始める。2020年3月にデビューアルバム『Kid Krow』をリリース。世界中で人気を博す。
自分が作る音楽は、僕という人間より遥かに大きな存在なのだと学んだんです
「ファッションの出発点って、たとえば〝このTシャツいいね。何に合わせたらいいんだろう?〟という好奇心ですよね。僕の場合もそうして服への愛が生まれた。その延長線上にこうして、花をまとってSPURの表紙を飾る日が訪れたというわけです(笑)。本当にスペシャルな体験ができました!」
去る2月に初の日本ツアーで来日し、SPURのために貴重な時間を割いてくれたコナン・グレイ。どうやら撮影を満喫してくれたようだが、ジェンダーニュートラル時代のスタイルアイコンとして注目を浴びる、この日系アメリカ人のシンガーソングライターいわく、ドレスアップすることは何らかのキャラクターに変身する手段。ステージでも、ヴィンテージをリメイクしたグラマラスな衣装をまとう。
「ファッションを介してひとつの世界を作り上げて、音楽と一体化できるように感じるんです。ただ、今の僕がルールに縛られずに自由にファッションを楽しめるのは、長い歴史を通じて多くの男性が苦労を重ね、場合によってはわが身を危険にさらして闘ってくれたからこそ。彼らに感謝しています」
そう話す彼、花との共演も今回が初めてではない。昨年発表した最新アルバム『Superache』のジャケットではバラの花に囲まれて写っていたが、一番好きな花は、10代を過ごしたテキサスの州花・ブルーボネットだ。
「僕にとって〝ホーム〟と言えばテキサスであり、テキサスと言えばブルーボネットを思い浮かべるんですよね。高速道路の脇の野原なんかに群生して、美しい花を咲かせていますよ」
他方でコナンは、幼い頃に3年間を過ごした母の実家がある、もうひとつのホーム、広島県三次市の観光大使に任命されたばかり。「お好み焼きがおいしくて、それだけでも行く価値はあります!」と宣伝するのを忘れない。
「アーティストとして来日するようになって、日本との関係を再構築しているんです。大人として訪れる日本の印象はまったく違いましたし、僕はたまに自分で自分が理解できないことがあるんですが、日本にいると〝ああ、だからこうなんだ〟と腑に落ちたりもする。半分日本人だからアメリカでは浮いているんだって(笑)。今は特に自分の世代、つまりZ世代の日本人に興味があります。彼らもいろんな問題に直面しているようで、どの国にも改善すべき点がある。そのためには若者の視点を大人に理解してもらう必要があるし、若者も、年上の世代の視点を理解しなければ。社会を進化させる上で、共感が果たす役割は大きいと思うんです」
アジア系の住民が少ないテキサスの田舎町で疎外感を抱いて育ち、「理解されたい」という想いを曲に投影してきたコナンにとって、〝共感〟は、音楽活動におけるキーワードでもある。
「去年から世界各地をツアーしてきて、自分が作る音楽は、僕という人間より遥かに大きな存在なのだと学んで、すごく謙虚な気持ちになった。人々がライブに来てくれるのは僕自身のためではなく、僕の曲の中に、自分が共感できる何かを見出したからなんです。だからみんなが〝自分は独りぼっちじゃない〟と感じながら家路についてくれたら、ほかに望むことはありません」
ちなみに最近書いている曲では、ずばり〝人間の実存〟がテーマだ。
「忙しくて友達と遊んだりデートをする時間がなかったからか、〝人生とは?〟みたいな曲が多くて。周りの人たちに心配されそうですが(笑)、そんなことに想いを馳せる時期があってもいいのかもしれませんね」