【ジェーン・バーキンの素顔】30数年来の親交がある映画ジャーナリスト佐藤友紀が、おしゃれアイコンだけじゃない、ジェーンの思い出を語る。

ジェーン・バーキンとシャーロット・ゲンズブールの写真
©️AFLO 1972年のニースにて、次女のシャルロットを抱くジェーン・バーキン

ジェーン・バーキンが、7月16日に76歳でこの世を去ってから1ヶ月以上経った。でも毎日何らかの形で彼女を思い出している。映画祭で、パリのホテルや自宅で、そして日本でも。幾度も取材させてもらったのに、情けないことに、初めてのインタビューがいつ、どこでだったか思い出せない。ただ、時代が昭和から平成に変わる時、『COSMOPOLITAN』誌のインタビューと表紙撮影で、かなり長い時間を共に過ごした。というのは、一緒に日本に連れて来ていた三女ルー(・ドワイヨン)(当時6歳)のベビーシッターを任されてしまったから。と言っても、当方フランス語はからっきしダメ。後に知ったのだが、英国出身のジェーンは実母を始め家族がロンドンにいて、しょっ中、実家に帰っていたので、ルーも英語はペラペラのバイリンガル。

ベビーシッターを任され、伝説の映画ごっこを

ジェーン・バーキンとセルジュ・ゲンズブールの写真
©︎AFLO 1975年、映画『ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ』の撮影現場にて、セルジュ・ゲンズブールと。

ただし、その時はそんなことに気づく余裕もなく、ひねり出したのが『ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ』ごっこ。ジェーンがセルジュ・ゲンズブールとデュエットして大ヒットになった曲で、かなりセクシーなこれをルーと2人で、大声で歌ったのだ。さわりの部分だけだが。

そのときの来日時、日本文化に関心があるジェーンとルーは、みぞれの降る中昭和天皇の大喪の礼を見に行っていた。この行動力のありようは、舞台女優だった母親譲りで、その母も連れて来ていた別の機会のコンサートでは、「母が昔、写真誌『LIFE』で見た温泉につかる野生の猿をぜひ見たい、と言うからセルジュのプロモーターだった人に頼んで、どこの温泉か調べてもらって行ったのよ」とか。

人生を共にしたパートナーたちとの関係

ジェーン・バーキン、ケイト・バリー、シャルロット・ゲンズブールの写真
©︎Getty Images 1992年、長女のケイト・バリー(右)と次女シャルロット・ゲンズブールに囲まれて。白Tシャツとブルーデニムはジェーンの代名詞的スタイル。

最初のパートナーで、長女ケイト(・バリー)の父親、作曲家ジョン・バリーは「年齢も離れていたし、付き合う人たちもスウィンギング・ロンドンの旗頭みたいな顔ぶればかりだったから、コンプレックスの塊になってしまったけど」、2番目のパートナーで次女シャルロット(・ゲンズブール)の父のセルジュ、そしてルーの父親のジャック・ドワイヨンとは「別れてもいい関係よ」と言って、事実、仕事は続けていたし各々の連れ子の世話も焼いていたという。

シャルロット・ゲンズブール、ジェーン・バーキン、ルー・ドワイヨンの写真
©︎Getty Images 2017年春夏パリ・ファッション・ウィークのサンローランのフロントロウにて。三女ルー・ドワイヨン(右)と次女シャルロットと。

自死という形で失なった長女のケイトだが、カメラマンとして自立した時は誰よりも喜んでいたジェーン。パリのサンジェルマンにあった家には、英国海軍の将校だった父親の軍服や、「内向的だったのよ」というシャルロットが作った、全部の窓が外ではなく内側の中庭に向いている不思議な建物の模型、そしてケイトが描いた絵画など大切なものであふれていた。最初に行った時は「どこかのおじさんのいびき!?」と間違った愛犬のフレンチブルドッグは、ルーが10代で独り立ちする時に連れて行ってしまい、二度目に訪れた時は「凶暴なこのコだけ置いて行ったの」という薄茶色の猫マーマレードがギロリとこっちを睨んできた。「いやだわ、いつか私が独りで死んでいるのが見つかった時、傍にこのコだけがいたら(笑)」というジェーンの冗談も泣き笑いだ。

おしゃれアイコンを超えた存在に

ジェーン・バーキンとバーキンバッグの写真
©︎AFLO 

もちろん、エルメスの“バーキン”に象徴されるファッション・アイコンとしてのジェーンも素敵だが、その黒い大きなバーキンにブルーの丸い“国境なき医師団”のワッペンをベタッと貼って、広報塔の役割を喜んで引き受ける。

ジェーン・バーキンとバーキンバッグ
©︎Getty Images

東日本大震災直後に、多くのフランス人が帰国したのとは逆に、来日してチャリティ・コンサートを開いてくれたり、日本とは相思相愛であったジェーン。あまり知られていないが、演劇界の異才パトリス・シェローの舞台『偽りの侍女』を「最も誇りにしている」と言ったり、シャルロットが激しい性描写もいとわず出演したラース・フォン・トリアー監督の『ニンフォマニアック』(’13)などを「私も出たかったわ!」と最大限のほめ言葉をおくったり。

ルー・ドワイヨンとシャルロット・ゲンズブールの写真
©︎AFLO 2023年7月24日、ジェーン・バーキンの葬儀でのシャルロットとルー。。

シャルロットとルー、2人が男物のパンツスーツでジェーンの棺を担ぐ人々の先頭に立った姿を窓から見て、「さすがわが娘たち!」とジェーンは喜んだはず。女優、モデル、歌手、アクティビスト……という肩書のトップに、「3人の娘の母親」と呼ばれたい人のはずだから。

佐藤友紀/ジャーナリスト
映画や舞台、ダンスに造詣が深く、独自の視点で鋭く切り込むインタビューに定評が。ジョニー・デップから指名されることも多々。

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