ケリングとアルル国際写真フェスティバルにより2024年「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを授与された石内都 ©Yusuke Kinaka
7月1日(月)から9月29日(日)までアルル国際写真フェスティバルが開催中だ。今年6回目を迎えるケリングとフェスティバル主催による「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを写真家の石内都が受賞。彼女の個展「Belongings(ビロンギングス)」のほか、1950年代以降の日本の女性写真家の歴史を紹介する「I'M SO HAPPY YOU ARE HERE(アイム ソー ハッピー ユー アー ヒア)」展、KYOTOGRAPHIEによる6名の日本人女性写真家による「TRANSCENDENCE(超越)」展、2011年3月11日東日本大震災の影響を日本人の写真家たちが見つめた「REFLECTION – 11/03/11」など、今年は“日本の年”とも言える盛況を見せている。
1970年の初開催以来、国際写真フェスティバルの草分けにして、世界でも有数の規模を誇るこのイベントのハイライトを、歴史とアートに彩られた街の魅力とともにご紹介しよう。
南仏文化の中心地であるアルルは、夏のデスティネーションにもおすすめ ©Yusuke Kinaka
石内都がケリング「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードを受賞
©Marie Rouge
アルル国際写真フェスティバルの開催2日目を迎えた7月2日(火)、フェスティバルのオープニングセレモニーの中で、ケリング「ウーマン・イン・モーション」フォトグラフィー・アワードの授賞式が、アルルのランドマークとして有名な古代劇場で開催され、今年の受賞者である石内都が表彰された。
©Marie Rouge
「特別な才能を持ち、類稀なキャリアを築き上げ、社会に貢献を果たしたスペシャルなアーティスト」とフェスティバルから紹介された石内は、「広島の友人のお母様の遺品」という着物姿で登壇。「アルルには初めて来ました。初めてのフェスティバルで、こんなに大きな賞をいただくことができ、びっくりしています。今年は日本の女性写真家たちがたくさん参加しています。この賞は私だけではなく、日本女性写真家の一人の代表として、今私はここにいると思っています」と挨拶すると、満員の会場から大きな拍手が湧き起こった。
©Marie Rouge
会場の大スクリーンに作品を映し出しながら、それぞれの作品への思いを振り返っていく。母親の遺品を写真に撮ることで亡き母とコミュニケーションを取ろうと思ったこと、それが「Mother’s」の作品群となり、2005年、ヴェネチア・ビエンナーレの日本館で発表された作品を観たフリーダ・カーロ財団のキュレーターから声がかかった。メキシコのカーロの生家で彼女の遺品を撮影したことやヴェネチア・ビエンナーレへの参加をきっかけに、広島の原爆で被爆した方々の遺品を被写体とした、石内のライフワークとなる「ひろしま」シリーズが生まれたという経緯を観衆に向けて語った。
©Marie Rouge
アルルでは、「Mother’s」「ひろしま」「フリーダ 愛と痛み」シリーズから選んだ26点を展示した個展「ビロンギングス」も開催。こちらも、ピーク時は入場を待つ行列ができるほど注目を浴びた。
©Yusuke Kinaka
日本の女性写真家たちにフォーカスした「アイム ソー ハッピー ユー アー ヒア」展
今年の日本に関するハイライトといえば、1950年代以降の日本の女性写真家とその歴史を紹介した「I'm So Happy You Are Here: Japanese Women Photographers from the 1950s to Now(アイム ソー ハッピー ユー アー ヒア)」展だ。
日常生活を切り取りつつ、その中にある生と死のもろさを表現する写真を撮ることで知られる写真家の川内倫子 ©Marie Rouge
長年、写真業界が男性によって動かされてきた日本では、女性写真家たちは正当な評価を得ることができなかった。本展はそんな彼女たちの功績をあらためて見直すとともに、アルルという地で世界に向けて発信をおこなう貴重な機会。ケリングが「ウーマン・イン・モーション」ラボの取り組みを通じて、フェスティバルとAperture財団とともに実現させた。
ニューヨークを拠点に活動している杉浦邦恵 ©Marie Rouge
石内都をはじめ楢橋朝子、杉浦邦恵、今道子、川内倫子、片山真理、蜷川実花、HIROMIX、長島有里枝、多和田有希など、1950年代から今日まで活躍してきた26名に及ぶ女性写真家たちの作品を展示。
写真家、現代美術家の多和田有希 ©Marie Rouge
写真家の小松浩子 ©Marie Rouge
本展のキュレーターのひとりである竹内万里子は、「単に歴史を追っていくだけでなく、今日に至る日本の女性写真家の多様性、力強さをどう見せていくかと考えたとき、戦後から今日までの流れにフォーカスすることで、よりよく見せられるのではないかと思いました」と語る。
この展覧会は、同タイトルの書籍(英語版・仏語版)の刊行にあわせて企画され、アルルを皮切りに世界各地を巡回する。
レスリー・A・マーティンとポーリーヌ・ヴェルマーレの編集による日本人女性写真家の歴史に関する初の出版物『I'm So Happy You Are Here, Japanese Women Photographers from the 1950s to Now』(共著者:竹内万里子、キャリー・クッシュマン、ケリー・ミドリ・マコーミック)。英語版は Aperture 社、仏語版は Textuel 社より刊行
KYOTOGRAPHIEがプロデュースする「TRANSCENDENCE(超越)」展
細倉真弓 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
2020年のKYOTOGRAPHIEで開催された展示「10/10 現代日本女性写真家たちの祝祭」からインスパイアされて、KYOTOGRAPHIEがSIGMAと共同プロデュースのもと6人の日本の女性作家を紹介したのが「TRANSCENDENCE(超越)」展だ。この展覧会もケリングが支援をしている。
殿村秀佳 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
岩根愛 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
デジタル・コラージュを用い、人間の身体を解体、再構築して見る者の既成概念を揺るがす細倉真弓。東北地方の伝承をベースに艶やかな色彩と光で過去と現代の時間の層や、自然の神秘をダイナミックに表現する岩根愛。自らの身体や異形の野菜、超音波写真などを用いて不妊というテーマを見つめた鈴木麻弓。
𠮷田多麻希 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
私的な物語を清廉な魂の解放としての表現に繋げた殿村任香。現像時のハプニングにアイディアを得ながら、害獣を被写体に詩的にエコロジーを問いかける𠮷田多麻希。私小説を描くようにジェンダーやアイデンティティの問題を見つめる岡部桃。手法もテーマも異なる彼女たちの作品が、現代の女性写真家たちのダイバースなエネルギーの共鳴をもたらす。
鈴木麻弓 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
鈴木麻弓展示風景 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
また、小西啓睦によるセノグラフィーは、南仏的石壁の空間に和紙や屏風式の立てを用いながら日本的なアクセントを添え、ビジターを魅了した。
岡部桃展示風景 ©︎Kosuke Arakawa / KYOTOGRAPHIE
ゴッホが療養した病院の中庭であり『アルルの療養所の庭』の舞台 ©Yusuke Kinaka
フェスティバルの開催地、南仏プロヴァンスを代表する観光地のひとつであるアルルは小さい街ながら見どころがぎゅっと詰まっている。
現在でも闘牛がおこなわれる円形闘技場 ©Yusuke Kinaka
ローマ時代に首府が置かれていたことを彷彿とさせる古代劇場や、いまなお闘牛が行われる円形闘技場やコンスタンティヌスの公衆浴場跡をはじめとする歴史を感じられるスポットが各所に存在。毎年6月末には民族衣装を纏ったパレードが開催され、7月になれば国際写真フェスティバルで活気に溢れた街を味わうこともできる。
©Yusuke Kinaka
©Yusuke Kinaka
アート好きならもちろん、フィンセント・ファン・ゴッホの街としても記憶されているはず。彼が描いた『アルルの跳ね橋』が復元された橋、『夜のカフェテラス』のカフェ(カフェ自体は現在休業中)、や『アルルの療養院の庭』の回廊(現在は複合スペース)などをリヴィジットできる。
マルチメディアで創作するアーティストをサポートする文化複合施設、リュマ・アルル ©Yusuke Kinaka
安藤忠雄が設計・改修を手がけた美術館「リ・ウファン・アルル」や、広大な元鉄道倉庫地に2021年にオープンした美術館「リュマ・アルル」もぜひ訪れたい。後者はフランク・ゲーリーによる壮観なタワーが新たなランドマークとなった。
©Yusuke Kinaka
週に2度開催されるマルシェでは、南仏名物のオリーブやニンニク、香辛料といった食材から、プロヴァンス柄のテーブルクロスやカラフルなカゴ、食器やアンティーク・オブジェまで、さまざまなものが並び、目を楽しませてくれる。
©Yusuke Kinaka
©Yusuke Kinaka
©Yusuke Kinaka
アルル国際写真フェスティバルは9月29日(日)まで開催中。アートに彩られた街で写真の奥深さを体験してみては。