紡がれてきた時間に寄り添い、静かな熱が生まれる瞬間をすくいとる、写真家・横浪修にインタビュー。#浅間国際フォトフェスティバル2024PHOTOMIYOTA #LOEWEFOUNDATION

「浅間国際フォトフェスティバル2024 PHOTO MIYOTA」が長野県北佐久郡御代田町で開催中だ。協賛しているのはラグジュアリーブランドのロエベが擁するLOEWE FOUNDATION。1988年にロエベ創業家の4代目にあたるエンリケ・ロエベ氏が民間の文化財団として設立し、現在はその娘のシーラ・ロエベが指揮をとっている。LOEWE FOUNDATIONは工芸、デザイン、写真、詩、ダンスの分野においてサポートし、世界中の文化遺産の保護活動を続けている。

「浅間国際フォトフェスティバル2024 PHOTO MIYOTA」が長野県北佐久郡御代田町で開催中だ。協賛しているのはラグジュアリーブランドのロエベが擁するLOEWE FOUNDATION。1988年にロエベ創業家の4代目にあたるエンリケ・ロエベ氏が民間の文化財団として設立し、現在はその娘のシーラ・ロエベが指揮をとっている。LOEWE FOUNDATIONは工芸、デザイン、写真、詩、ダンスの分野においてサポートし、世界中の文化遺産の保護活動を続けている。

400年以上続く京釜師の16代目大西清右衛門家の時間を写真で伝える

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photo:Osamu Yokonami

クラフツマンシップとの関わりも深いLOEWE FOUNDATIONが2023年から支援しているのが室町時代から400年以上続く京釜師の16代目大西清右衛門家だ。現在は16代目が当主となり、茶の湯釜を製作する職人の技術を息子の代へと伝えている。その一家の様子は「浅間国際フォトフェスティバル2024 PHOTO MIYOTA」で垣間見ることができる。

大西清右衛門家の日常を写し取ったのは写真家の横浪修さん。SPURをはじめとするモード誌や広告などで活躍する一方、《100 Children》、《1000Children》(ともに2007-2014)や《Assembly》(2009-2023)などパーソナルなプロジェクトも同時に手がけている。長い歴史や背景をもつ釜師の一家をどのような視点で切り取ったのだろうか。

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photo:Osamu Yokonami

横浪さんが大西清右衛門一家のもとを訪れたのは2024年のゴールデンウィーク中のこと。「今回の展覧会をコーディネイトしてくれたスタッフと一緒に打ち合わせに行きました。あまり気負わずに行ったのですが、家に一歩足を踏み入れた瞬間に急にピンと張り詰めた空気が流れてきました。茶の湯釜を手がける職人ということで、お茶の道具や作法の流れを教えていただくために、お茶室へ。夕方5時頃だったので、アンバーがかった光が障子越しにはいってきて、割と暗い部屋でした。その中で研ぎ澄まされた作法を見せていただいて、これは大変なことになったぞ、と緊張したのを覚えています」。

普段の撮影とは違う静かな心持ちで

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photo:Osamu Yokonami

大西清右衛門一家は当主の清右衛門さん、息子の清太郎さん、妻の詠美さんの3人暮らし。今回の展示は詠美さんから見た一家の日常がテーマになっている。「大西清右衛門一家をドキュメンタリーのようにどう切り取るかというテーマをいただいて、短い時間のなかで、自分がそれを何を感じ取って、何を撮るかが大事と考えました。仕事で撮影するものと、僕のプライベートで撮るものは自分でコントロールできるところもあるけれど、今回のプロジェクトは一家に溶け込んで、どこを切り取るかによってくる。だから、普段とは違ってなるべく静かにしておこうと思いました、草むらに隠れて弾を打つハンターのような心持ちです(笑)。打ち合わせで詠美さんにお会いした際も、物腰は柔らかいのですが、どこか緊張感が漂っていて、こちらも気構えてしまうところがありました。ただ、撮影をしていくうちに感じたのは、代々続く職人一家であっても親子関係は僕らと一緒なんだなと。撮影時間は2日間という短い時間でしたが、父と子の間には普通のやりとりがあったのでそう感じました」。

 

“完璧にできない良さ” 人間味を求めて、フィルムで撮影

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photo:Osamu Yokonami

作業には危険も伴い、工房では緊張感のある雰囲気だったと横浪さん。最終的に選ばれた写真を見ると、工房の激しい火や職人の世界の厳かな一面とともに、一家のリラックスした瞬間も捉えられている。

「茶の湯釜は今でも手作業で作られているのですが、正確に作ってはいても0.0何ミリぐらいのズレや個々人の作る癖みたいなのがどうしても出てくるというエピソードを伺って、その完璧ではないところに良さがあるのではないかと思ったんです。いつもはデジタルカメラで撮ることが多いのですが、今回はフィルムカメラで撮ってプリントしてみようと思いました。工房は暗い時間が長くて、デジタルのほうが感度をあげやすいのですが、三脚をもっていき、スローシャッターで撮影しました。ぶれていても、きちんと全部が写ってなくてもいいかなと。デジタル写真はレタッチで完璧にすればするほど綺麗に見えていくのですが、どうしてもつまらない写真になる。完璧にできないところに人間味が出るというか、そこに共感して、普段とは違うプロセスも楽しみました」

ただその場にいて、その瞬間を待つ

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photo:Osamu Yokonami

撮りたい絵を目指してディレクションしたり、時間の流れを追ったりするだけのドキュメンタリーにはしたくない。そのために横浪さんは、ただその場にいて、じっと手応えのある瞬間を待ったという。「京都には四季にまつわる家のことがあるのですが、ちょうど撮影の時期は夏の飾りつけをしたり、花を活けたりしている姿を見ることができました。食後に一家で絵を描く習慣もあって、その場面もよかったですね。清太郎さんが工房で自分の履いていた靴やまわりにあるものをささっと描いていた姿も印象的でした」

清右衛門一家と過ごした2日間で横浪さんが自分たちと最も違うと感じたのはその時間の流れについてだった。「茶の湯釜やお寺の鐘など、新しく作ったり修理したりする時間が3〜5年のスパンで取り組んでいるので、時間の流れがゆったりしているんですね。もちろん工房としての歴史も長いですしね。どうしても僕たちはスピードが求められることも多いので、戸惑いました」。

心がざわざわするものをすくいとる

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photo:Osamu Yokonami

横浪さんが2日間で撮ったフィルムは35mmが35本、ブローニーが21本。そこからセレクトされた写真は清右衛門一家からほぼ了承を得たのだそう。「家族で焚き火に出かけているところで詠美さんが丸太を抱えているところや、お父さんと清太郎さんが笑みを浮かべて談笑しているところなど、一見するとプライベートな微笑ましいカットも残っています。最初は警戒されているかなと感じたのですが、選んでいただいたのでほっとしました。伝統のある工芸一家のドキュメンタリーだと構えてしまうと、ストイックに撮りがちなんですが、ちょっと自分なりの面白い視点があったほうがいいなと思って。自分も撮りながら感動したり、何かを見つけられたと思ったりする瞬間がないとだめなので。心がざわざわするものが撮りたかったんです」。

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LOEWE FOUNDATION

「浅間国際フォトフェスティバル2024 PHOTO MIYOTA」
会期:〜9月16日(月・祝)
休:水曜日 (8月14日を除く)※屋外展示は休みでも自由に観覧可能 
時間:10:00~17:00(屋内展示の最終入場:16:30)
会場:長野県北佐久郡御代田町大字馬瀬口1794-1 「MMoP」内
入場料:¥1,000(一部有料、中学生以下無料)※ロエベ展示は無料
https://asamaphotofes.jp/

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LOEWE FOUNDATION
横浪修(Osamu Yokonami)プロフィール画像
写真家横浪修(Osamu Yokonami)

1967年京都府舞鶴市生まれ。1989年文化出版局写真部入社。独立後は「Assembly」シリーズをはじめ「100 Children」や「1000 Children」「PRIMAL」など数々の作品集を出版。自身の作品制作を行いながら、ファッション写真・広告写真・CDジャケット写真、ムービー、ドローン撮影などを手がけている。
http://www.yokonamiosamu.jp/