2024.08.15

圧巻の40点以上! 画家のヒグチユウコさんとデザイナーの大島依提亜さんによる新刊『#映画とポスターのお話 』について、#ヒグチユウコ さんに話を伺った

画家のヒグチユウコさんとデザイナーの大島依提亜さんによる『映画とポスターのお話』はふたりが手がけるオルタナティブポスターの図版と映画に関する対談が楽しめる1冊だ。アリ・アスター『ミッドサマー』、ジム・ジャームッシュ『ダウン・バイ・ロー』、宮﨑駿『風の谷のナウシカ』など、ふたりのキャリアに深く関わる作品が40点以上取り上げられている。これまで数々のプロジェクトを共に手がけてきたクリエイターたちが夢中になったオルタナティブポスターの世界とはどんなものだろうか? ヒグチユウコさんに話を伺った。

画家のヒグチユウコさんとデザイナーの大島依提亜さんによる『映画とポスターのお話』はふたりが手がけるオルタナティブポスターの図版と映画に関する対談が楽しめる1冊だ。アリ・アスター『ミッドサマー』、ジム・ジャームッシュ『ダウン・バイ・ロー』、宮﨑駿『風の谷のナウシカ』など、ふたりのキャリアに深く関わる作品が40点以上取り上げられている。これまで数々のプロジェクトを共に手がけてきたクリエイターたちが夢中になったオルタナティブポスターの世界とはどんなものだろうか? ヒグチユウコさんに話を伺った。

『映画とポスターのお話』誕生のきっかけ

ヒグチユウコ
「映画とポスターのお話」白泉社 ¥3,740

──このたびは「映画とポスターのお話」の出版、おめでとうございます。美しいビジュアルと濃い内容で、ヒグチさんのファンとしても、映画好きとしても嬉しい一冊となりました。映画が好きなヒグチさんがオルタナティブポスターに関わることになったのはどんなきっかけでしたか?

ヒグチ もともと大島依提亜さんは映画のお仕事をよくされていたんです。当時ヒットしていた『かもめ食堂』などのミニシアター系の作品のデザインを手がけていたので、私もそのお仕事を拝見していました。正確に何年にお会いしたかは忘れてしまったのですが、私も映画が大好きだったので、いつかご一緒したいなと思っていたんです。2016年の『ヒッチコック/トリュフォー』で声をかけてもらって、オルタナティブポスターを一緒に作ったのがこの本につながるきっかけになったと思います。

──オルタナティブポスターとはどんなものなのでしょうか?

ヒグチ(敬称略 以下同) この本でも触れているのですが、映画の宣伝のための公式ポスターとは異なった角度で作られたデザインのポスターです。おもにその映画のファンやクリエイターが、もっと魅力を知ってもらいたいと発信する活動だと思います。海外ではよく見られるのですが、宣伝ポスターとは違って、伝えないといけない情報よりも作品に対する熱量がこもったものが多いと思います。私も映画をみて、「ここを描きたい!」という気持ちから、この活動をご一緒することになったんです。

──雑誌「MOE」の連載から書籍化されたと聞きましたが、どの映画を取り上げるかはどうやって決めていったのでしょうか?

ヒグチ 最初は私が思いつくままに描きたい映画のリストを編集の方に渡して、各映画会社に権利の許可をとってもらうところから始めました。依提亜さんとは、ただのファンメイドのものではなくて、公式ビジュアルに引けを取らないクオリティのものを作りたいとよく話しています。そのためには、きちんと権利元をクリアにしていくことも大切です。書籍の中には、映画会社から依頼があって作ったものも加えてあります。候補になる作品リストの中から、依提亜さんと「これをやろうか?」「もっとこんな作品もトライしてみる?」などのやりとりを重ねました。「MOE」の連載は当初は月1回のペースだったのですが、私が絵を描いて、依提亜さんがデザインするという過程を毎月やるのは負担が重すぎて。まるで大学時代の課題提出のようだねと笑い合った記憶があります。お互い忙しいのですが、大好きな映画にまつわる仕事で、かつ締切があるとできてしまうところも面白いですよね。

作品選びやどこを切り取るかなど、作画のこと

ヒグチユウコ

──大島さんからリクエストがあった作品もあるのでしょうか?

ヒグチ 『ダーククリスタル』は依提亜さんからの提案でした。『セサミストリート』などで有名なマペット使いのジム・ヘンソン監督の作品です。自分が選ぶだけでなく、意外性のあるお題があったのも面白かったですね。依提亜さんから『トランスフォーマー』のリクエストもあったのですが、映画としては楽しんで観たものの、原作ファンが思っているものと私が描くものではイメージが異なるかもしれないと思ったんです。依提亜さんはメカとかロボットを描いてもらいたいとおもったようなのですが、今後挑戦するならアメリカのアニメ『アイアン・ジャイアント』や『機動戦士ガンダム』はやってみたいですね。

──普段のヒグチさんの描かれる作品とは違う意外性のあるものを描いてもらいたいという意図があったんですね。

ヒグチ そうですね。ロボットもそうですが、建築や街並みも描いてみてほしいと言われました。書籍に掲載されている『スモーク』は街角のシーンを選びました。『サスペリア』も建築が印象的な映画だったので、そこを取り上げています。

──ダリオ・アルジェント版の『サスペリア』はヒグチさんも影響を受けた作品だとおっしゃっていましたね。

ヒグチ そうなんです。あまりに好きな作品なので、心の中で温めすぎて、どう描こうかと迷いました。どこを切り取れば作品の素晴らしさが伝わるかなと。劇中に美少女が出てきますが、そこだけを取り上げるのも違う気がするし、公式ポスターでは踊っているシルエットが描かれていて、その格好良さを越えられるだろうかと悩みました。オルタナティブポスターの難しいところは既にオフィシャルなデザインがあるところなんですよね。公式ビジュアルの洗練されたところともリンクするのは建築物なのではないかと思ったんです。映画を初めてみたときの、こんな空間に住んでみたいという憧れもこめています。

表紙『ミッドサマー』の絵が生まれたとき

ヒグチユウコ

──ヒグチさんから提案したけれどボツになった作品や、何らかの理由で掲載を諦めた作品などはありますか。

ヒグチ 公式ビジュアルが秀逸すぎて、手を出せなかったものもありますね。取り掛かっている途中で、投げ出したくなったのは『風の谷のナウシカ』ですね。映画も原作マンガも大好きですし、その長年の思いがあるからこそ全然描けないと思う瞬間があって。脳内で想像しているものと違って、平面で表現するのが難しいと思いました。やると決めたので、途中で描き替えたり、上から足してみたり、描き直したり……。その試行錯誤も大事な過程だと思っています。何を描くかは依提亜さんと相談するわけではなくて、描いている途中で意見が欲しくなったら聞くような流れなんです。私が描いて、依提亜さんに素材として渡すと、それに対して反対されることはほぼないので。でも、よっぽど悩んでいるときは、的確にアドバイスしてくださります。この本の表紙にもなった『ミッドサマー』は、いまでも手帳にラフを描いたことを覚えています。依提亜さんとカフェで話しながら、「主人公が逆さまになっていて、植物が伸びてきて〜」と思いついたアイディアを話したんです。

──大島さんがデザインされた後に、ブラッシュアップされたと感じた作品はありましたか?

ヒグチ 『サスペリア』は本当にポスターのデザインがあがってきたときは興奮しました。そして、私が描きたかったハビエル・バルデムの顔を大きく配置した『ノーカントリー』は格好良かったですね。絵としても描きごたえがあったし、ポスターになったときは気持ちがあがりました。

ヒグチさんの人生に影響を与えた映画は?

ヒグチユウコ

──ヒグチさんは映画鑑賞も大好きとのことですが、普段はどのような視点で観る映画を選んでいらっしゃいますか?

ヒグチ ジャンルでは選ばないですね。強いていうと、アニメと恋愛ものはあまり好みじゃないことのほうが多いです(もともとアニメは大好きなのですが、最近離れてしまっていました)。ありきたりな“ベタ”な展開が苦手なんです。絶対にだめというものはないんですけどね。映画を観るときの新鮮な気持ちは大切にしたいので、なるべくネタバレせずに、情報をいれずに行きたい派です。ホラーはもちろん好きなので、監督などスタッフの名前を確認したり、海外版のティザーを観てから行くこともあります。共通していえるのは、観ているこちらに答えを委ねてくれるような、想像させてくれる余地がある作品が好きなんです。そういう寛容さを持った作品て、長く愛されると思います。

──ヒグチさんの人生に影響を与えた作品をずばり1本教えてください。また、どんな点で影響を受けていますか?

ヒグチ 書籍にも載っていますが『サスペリア』や『悪魔の首飾り』はいつ考えても大切な作品です。自分を変えてくれたと考えると、デレク・ジャーマン監督の『カラヴァッジオ』もそうですね。芸術家としては、もちろん知っていましたが、この映画を観たことで、カラヴァッジオ作品に見られる迫力を理解した気がします。作品の中の血飛沫や熱量のある画力など、本当に目の前に起こったことのように感じたんです。映画の中の色合いやダイナミックな構図、重厚感など、あんなに引き込まれることってないんじゃないかな。それぐらい衝撃的な出会いでした。俳優のティルダ・スウィントンのデビュー作でもありますし、デレク・ジャーマン監督の審美眼に驚かされます。私の普段の作品から、かわいいものが好きだと思われることも多いのですが、もちろんそれも好きだけど、それだけではないところもあるんです。まだまだ描きたい映画作品がたくさんあるので、『映画とポスターのお話』は続けていきたいんですよね。

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