“カワイイ”はほかの言語には翻訳できない言葉
ココ・キャピタンが長年憧れていた東京に初めてやって来たのは、今から8年前のことだ。それ以来、仕事と休暇を含めて5〜6回訪れているという彼女にとって、東京は「私が大好きなマジカルな街」。たとえばお気に入りのホテルだったり(「大都市の真ん中で旅館の気分を味わえる星のや東京ですね」)、お気に入りの飲食店だったり(「必ず大衆的な居酒屋に足を運ぶんですが、最近では渋谷の焼き鳥店たつやがよかった」)、お気に入りのショップだったり(「渋谷の書店Flying Booksで何時間も過ごしてしまいます」)、話しているとさまざまなスポットの名前がよどみなく挙がる。
「私が東京に来るたびに楽しみにしているのは、この街で長年暮らす音楽プロデューサーの田中知之さんや、グラフィック・アーティストのVERDY、モデルの森星さんといった友人が、考えてもみなかったクレイジーな場所に連れて行ってくれること。東京の魅力のひとつは間違いなく、意外性をはらんでいるという点にあると思います。それに、アーティストとしてもたくさんのインスピレーションを得ることができる。日本人には全体的にシャイなところがありますが、写真を撮られることには、皆さん、あまり抵抗がないですよね。私は誰かの写真を撮る前に必ず"撮ってもいいですか?"と許可を取っていて、東京ではいつも"大丈夫ですよ"と返事が返ってくる。その体験にインスパイアされます。欧米では怪しい人間だと思われてしまいますから(笑)。それに私は書籍からたくさんのアイデアを得ているので、いろんな本が容易に入手できるのも東京の素晴らしいところです」
もちろん今回の撮影のテーマである"カワイイ"も、ココにとっては聞き慣れた言葉であり、その意味については、自分なりに解釈していると彼女は語る。
「英語では通常"cute"と訳されていますが、私にとっては"cute"以上の意味を持つ言葉ですし、ほかの言語には翻訳できないような気がします。私が考える"カワイイ"は、思わずじっと見ていたくなるものだったり、気分を浮き立たせてくれるものを表す言葉。まさに私が東京に対して抱いている気持ちに通じますし、東京では何もかもが"カワイイ"と言えます。たとえば、ディテールへのこだわりや完成度の高さは非常に日本人的な美意識だと思うんですが、東京のカフェでコーヒーをオーダーすると、気持ちよくその一杯を飲めるようにとあらゆる面に気配りがなされ、たっぷりの愛情と優しさをもって供されますよね。私にとってはそれもまた"カワイイ"ことですし、気持ちが高揚し、自分もそういうことを大切にしたいなと思わせてくれるんです」
撮影はさる7月後半に行われ、ココは10日間にわたって東京に滞在。その間、常にカメラを持ち歩いて"カワイイ"と感じたモノや人や場所を写真に収めた。
「仕事の打ち合わせに行くときもカメラを持って出かけて、私の目に映る東京をずっと写真に記録していたような感じですね。すごくナチュラルな気持ちで取り組みましたし、何よりもオーセンティックであることを重視しました。写真を観る人たちに、まさに東京にいる気分を伝えたかったので」。そういう自身のアプローチを彼女は、「ワビサビ」と形容する。「なぜって私は、パーフェクトな瞬間や驚異的な瞬間を探していたわけではありません。ごく日常的な物事にも、いくらでも美しさを見つけることができますし、私は東京でのそういうリアルな体験を写真で捉えたかった。このリアリティにこそ美が宿っています。大切なのは写真としてベストな作品かどうかではなく、私が東京に抱く想い、東京の友人たちに感じる愛情を表現することでした」
この秋は第39回イエール国際モード&写真フェスティバルで写真家部門の審査員長を務めるほか、独自のファッションとホームウェアのブランド"CAPITANA"のローンチを控え、2冊の書籍を出版するという大忙しのココ。10月には東京のスパイラルホールで個展も予定されている。「私は人を驚かせるのが好きなので、あまり詳しくは話せないのですが」と前置きしつつ、彼女はSPURにだけその内容について教えてくれた。
「この展覧会は私のセーリングを愛する気持ちに根差していて、展示されるのはすべて、新たに制作した作品です。セーリングは、2022年にPARCO MUSEUM TOKYOで行なった展覧会『Naïvy』でも一部の写真作品で扱ったテーマなんですが、今回は写真ではなく手書きのテキストが中心。同じテーマを新鮮な手法で表現していると言えますし、ぜひ楽しみにしていてください」
Coco Capitán