【ココ・キャピタン】「カワイイ」は、翻訳できるのか?

未来につなげたいときめきは、身近にあふれている

キュートとも、チャーミングとも違う、唯一無二の価値を持つ"カワイイ"。東京にあふれたこの言葉を表す景色、人、出来事を気鋭のアーティストが撮り下ろす。

未来につなげたいときめきは、身近にあふれている

キュートとも、チャーミングとも違う、唯一無二の価値を持つ"カワイイ"。東京にあふれたこの言葉を表す景色、人、出来事を気鋭のアーティストが撮り下ろす。

ココ・キャピタンプロフィール画像
アーティストココ・キャピタン

1992年、スペイン・セビリア生まれ。2016年にロンドンのロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業。フォトグラファーとファインアートの世界にまたがり、写真、絵画、インスタレーション、散文など幅広いジャンルの作品を手がける。現在はロンドンを拠点に世界中で活動中。

9:00 a.m.

Coco Capitán
Coco Capitán

渋谷の高層ビルから眺めた景色。「高いビルを見つけたらそこに上って、街を見下ろすのが好きです」

Coco Capitán

「柔らかくて心地がいい東京メトロの座席。横になって昼寝がしたくなります」。欧米では珍しい、布張りの座席が彼女の心を掴んだ。

Coco Capitán

野生のデイジーが好きだと語るココ。「この写真のデイジーは野生ではありませんが、見ていてとても気持ちがよかったです。お気に入りのホテルである星のや東京から、皇居の庭園へ向かう途中で見つけました」

Coco Capitán

東京のレストランで働く人たちが着ている制服に惹かれている。「制服やその着こなしに至るまで、細部へのこだわりにいつも感動します」

Coco Capitán

「東京には素敵なおうちがたくさんあって、それを眺めるのも楽しい」

Coco Capitán

ココの友人であるFlying Booksのオーナーである山路和広さんが着ていたTシャツの刺しゅう。「カズの書店は本当に居心地がよくて、アートブックを見ながら何時間も過ごします」

Coco Capitán

日本ではおなじみのロゴも撮影。「大好き! いちばん"カワイイ"ロゴだと思います。東京の街中で出合うと幸せな気分になる」

11:00 p.m.

森星 Coco Capitán

友人であるモデルの森星さん。「友人が営むカラオケバーは駄菓子屋さんの奥にあって、そこで撮影」

Coco Capitán

1992年生まれのココにはあまりなじみがない公衆電話。「電話ボックスも好き。電話をかけるために異なる世界に入らなければならなかったことにノスタルジーを感じます。東京にはまだ多くの公衆電話が残っているのも魅力的です」 

Coco Capitán

秋葉原は東京の中でも好きな街のひとつ。「私は子どもの頃、コンピュータゲームをすることを許されなかったので、大人になった今、東京のゲームセンターに行って、子どもの頃にできなかった時間を取り戻すのが楽しいのです」

2:00 p.m.

【ココ・キャピタン】「カワイイ」は、翻訳の画像_12

今回の企画の写真はすべて2024年7月後半の滞在で撮り下ろされているが、この1枚だけはそれより以前に撮影したもの。今は改装中の山の上ホテルのロビーの様子。「夕食後に読書を楽しむために理想的な空間。東京でのお気に入りの場所のひとつでした」

【ココ・キャピタン】「カワイイ」は、翻訳の画像_13

友人の愛犬ハッピー。「私が友人の家から出発するときは必ず挨拶に来てくれるのが愛しい」 

【ココ・キャピタン】「カワイイ」は、翻訳の画像_14

東京から日帰り旅行に出かけるときはコンビニエンスストアへ。「私のフェイバリットな"ツナマヨ"のおにぎり」

【ココ・キャピタン】「カワイイ」は、翻訳の画像_15

文房具やお菓子、生活雑貨は、すべて彼女が東京で購入したもの。「ホテルの部屋のテーブルに並べた私の"カワイイ"ショッピングの品々」

“カワイイ”はほかの言語には翻訳できない言葉

Coco Capitán

ココ・キャピタンが長年憧れていた東京に初めてやって来たのは、今から8年前のことだ。それ以来、仕事と休暇を含めて5〜6回訪れているという彼女にとって、東京は「私が大好きなマジカルな街」。たとえばお気に入りのホテルだったり(「大都市の真ん中で旅館の気分を味わえる星のや東京ですね」)、お気に入りの飲食店だったり(「必ず大衆的な居酒屋に足を運ぶんですが、最近では渋谷の焼き鳥店たつやがよかった」)、お気に入りのショップだったり(「渋谷の書店Flying Booksで何時間も過ごしてしまいます」)、話しているとさまざまなスポットの名前がよどみなく挙がる。

「私が東京に来るたびに楽しみにしているのは、この街で長年暮らす音楽プロデューサーの田中知之さんや、グラフィック・アーティストのVERDY、モデルの森星さんといった友人が、考えてもみなかったクレイジーな場所に連れて行ってくれること。東京の魅力のひとつは間違いなく、意外性をはらんでいるという点にあると思います。それに、アーティストとしてもたくさんのインスピレーションを得ることができる。日本人には全体的にシャイなところがありますが、写真を撮られることには、皆さん、あまり抵抗がないですよね。私は誰かの写真を撮る前に必ず"撮ってもいいですか?"と許可を取っていて、東京ではいつも"大丈夫ですよ"と返事が返ってくる。その体験にインスパイアされます。欧米では怪しい人間だと思われてしまいますから(笑)。それに私は書籍からたくさんのアイデアを得ているので、いろんな本が容易に入手できるのも東京の素晴らしいところです」

もちろん今回の撮影のテーマである"カワイイ"も、ココにとっては聞き慣れた言葉であり、その意味については、自分なりに解釈していると彼女は語る。

「英語では通常"cute"と訳されていますが、私にとっては"cute"以上の意味を持つ言葉ですし、ほかの言語には翻訳できないような気がします。私が考える"カワイイ"は、思わずじっと見ていたくなるものだったり、気分を浮き立たせてくれるものを表す言葉。まさに私が東京に対して抱いている気持ちに通じますし、東京では何もかもが"カワイイ"と言えます。たとえば、ディテールへのこだわりや完成度の高さは非常に日本人的な美意識だと思うんですが、東京のカフェでコーヒーをオーダーすると、気持ちよくその一杯を飲めるようにとあらゆる面に気配りがなされ、たっぷりの愛情と優しさをもって供されますよね。私にとってはそれもまた"カワイイ"ことですし、気持ちが高揚し、自分もそういうことを大切にしたいなと思わせてくれるんです」

撮影はさる7月後半に行われ、ココは10日間にわたって東京に滞在。その間、常にカメラを持ち歩いて"カワイイ"と感じたモノや人や場所を写真に収めた。

「仕事の打ち合わせに行くときもカメラを持って出かけて、私の目に映る東京をずっと写真に記録していたような感じですね。すごくナチュラルな気持ちで取り組みましたし、何よりもオーセンティックであることを重視しました。写真を観る人たちに、まさに東京にいる気分を伝えたかったので」。そういう自身のアプローチを彼女は、「ワビサビ」と形容する。「なぜって私は、パーフェクトな瞬間や驚異的な瞬間を探していたわけではありません。ごく日常的な物事にも、いくらでも美しさを見つけることができますし、私は東京でのそういうリアルな体験を写真で捉えたかった。このリアリティにこそ美が宿っています。大切なのは写真としてベストな作品かどうかではなく、私が東京に抱く想い、東京の友人たちに感じる愛情を表現することでした」

この秋は第39回イエール国際モード&写真フェスティバルで写真家部門の審査員長を務めるほか、独自のファッションとホームウェアのブランド"CAPITANA"のローンチを控え、2冊の書籍を出版するという大忙しのココ。10月には東京のスパイラルホールで個展も予定されている。「私は人を驚かせるのが好きなので、あまり詳しくは話せないのですが」と前置きしつつ、彼女はSPURにだけその内容について教えてくれた。

「この展覧会は私のセーリングを愛する気持ちに根差していて、展示されるのはすべて、新たに制作した作品です。セーリングは、2022年にPARCO MUSEUM TOKYOで行なった展覧会『Naïvy』でも一部の写真作品で扱ったテーマなんですが、今回は写真ではなく手書きのテキストが中心。同じテーマを新鮮な手法で表現していると言えますし、ぜひ楽しみにしていてください」

Coco Capitán

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