心が震える読書体験を。SPURエディターが、おすすめの本を紹介!
出版業界に身を置き、本を愛する編集者たち。そんな読書家のエディターたちは、普段どんな本を読んでいる? SPURでもお馴染みのコラムニスト・山崎まどかさんの著書から、ショートエッセイ集、愛らしい写真集まで、6名のSPURエディターがおすすめの本を紹介!
西 成彦|(右) 『ラフカディオ・ハーンの耳、語る女たち――声のざわめき』(左)『ラフカディオ・ハーンの耳』
(右) 『ラフカディオ・ハーンの耳、語る女たち――声のざわめき』 西成彦著 ¥2,700/洛北出版 (左)『ラフカディオ・ハーンの耳』 西成彦著 ¥2,500/岩波書店(絶版)
2025年9月からスタートするNHK連続テレビ小説『ばけばけ』で取り上げられる、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)。そんな八雲のオタクであると公言するエディターKUBOTAが、朝ドラスタートまでに再読すると誓う本を紹介!
実は私、数十年来の八雲オタ。その最初期に読んでハマったのが左の初版『ラフカディオ・ハーンの耳』。ギリシア人の母とアイルランド軍人の父のもとに生まれ、10代で片目を失明。ニューオリンズ、マルティニーク、そして松江へと漂泊したこの作家は、妻セツの語る「雪おんな」「耳なし芳一」を聞いて「怪談 KWAIDAN」にまとめます。彼にとって、耳から入る音、物語とは。ゴンブローヴィッチの翻訳も手がけてきた西成彦による論考の増補新版が、嘘でしょ31年ぶりに刊行!(エディターKUBOTA)
『ラフカディオ・ハーンの耳、語る女たち――声のざわめき』、『ラフカディオ・ハーンの耳』について紹介している記事はこちら!
山崎まどか|『真似できない女たち–21人の最低で最高の人生』
「真似のできない女たち–21人の最低で最高の人生」 山崎まどか著 ちくま文庫
エディターNAMIKIが「ネット配信ドラマに勝るとも劣らないスリリングな一冊」と絶賛するのは、コラムニスト・山崎まどかさんの『真似できない女たち–21人の最低で最高の人生』。
この本には変な人、常識のナナメ上を行く人、身近にいたら面倒見切れないよっていう実在の人物がいっぱい出てきます。自らの心の声に素直すぎるがゆえに、酔狂な人生を送る女性たち。ゴミ屋敷に住むセレブリティ、嘘つきなデザイナー、男たちに蹂躙されながらも健気に生きるダンサー、などなど。若いころは美しく魂を輝かせていたとしても、大層惨めに最期を迎えたりもします。ドラマチックな展開と山崎まどかさんの語り口に、ビンジウォッチングさながら一気にページをめくってしまう。読後はスカッと爽快で、元気が出ます。(エディターNAMIKI)
『真似できない女たち–21人の最低で最高の人生』について紹介している記事はこちら!
沢木耕太郎|『旅のつばくろ』
『旅のつばくろ』(新潮社) /沢木耕太郎 ¥1,100
沢木耕太郎のエッセイ『旅のつばくろ』を愛読しているのは、エディターHAYASHI。コロナ禍でどこにも出かけられなかったとき、「せめて旅気分だけでも」と思い購入したそう。
JR東日本の新幹線車内誌『トランヴェール』での連載をまとめた一冊です。国内旅という身近な“非日常”が、ステイホームにうんざりしていた当時の私にはちょうどいい刺激になりました。
41編からなるショートエッセイ集。車内誌の連載だけあって、移動手段はもっぱら鉄道です。「つばくろ」なのに、ぜんぜん飛ばない。そこもまた愛おしい。
目的地に行く前に寄り道したり、ふらっと飲み屋に入ったり、タクシーの運転手さんと何気なく会話したり。気ままな旅路では、さして特別なことが起きるわけではありません。でもそんな“ありふれた”旅も、沢木さんの記憶とともに紡がれることで、じつに尊い物語になるんです。
16歳のときの一人旅で、怖気づいてたどり着けたなかった龍飛岬、輪島で見た美しい夜の棚田、永六輔さんと待ち合わせした秋田の平野政吉美術館。訪ねた先での思いがけない出会いや発見、沁み入るエピソードが、沢木さんの軽妙かつ温かな筆致で綴られます。(エディターHAYASHI)
『旅のつばくろ』について紹介している記事はこちら!
モコゾウ|『Jumping 跳んでるモコゾウ写真集』
「不屈の跳躍に胸が熱くなる」とエディターKAGOHARAがイチオシするのが、SNSでも話題の犬、モコゾウの写真集。
CMや雑誌のモデルをしたり(過去SPURにも登場してくれたこともあるんだとか!)、アパレルブランドとコラボしたり、写真展を開催したり……と、常に人々を惹きつける犬、モコゾウ。インスタでも4.4万人のフォロワー数を誇る(記事公開時)ビッグドッグインフルエンサーです!
モコゾウは2016年12月27日生まれ、母はシーズー、父はポメラニアンのミックス犬の男の子。大きくてふわふわのボリューム、ユーモラスな表情からはいつも目が離せず、インスタで日々追いかけていました。インスタをひたすら見ているうちに夕方になっていたことも……。
こちらは、そんなモコゾウが食卓に並んだごはんを見ようと必死に跳ぶ瞬間を抑えた写真集です。動画のスクリーンショットはなく、すべて躍動感あふれる瞬間を切り取った奇跡の1枚が並んでいます。
見開きページのレイアウトも絶妙。梅酒と梅のおやつが並んでいたり、異なる種類のケーキが並んでいたり……定点観測だからこそわかる、いつでも全力投球のモコゾウの姿がとってもキュートです! 撮影者はモコゾウの育てのお母さん。日々撮り溜めているからこそ切り取れる絶妙な表情が最高なんです。
ブックデザインを手掛けたのは、「A24」をはじめとする映画のグラフィックのほか、展覧会や書籍のデザインなどで幅広く活躍されているアートディレクターの大島依提亜さん。ひたすらジャンプするモコゾウが並んでいるだけなのに、なんともおしゃれな装丁の秘密がここに!(エディターKAGOHARA)
『Jumping 跳んでるモコゾウ写真集』について紹介している記事はこちら!
柚木沙弥郎、丸山祐子|『柚木沙弥郎 おじいちゃんと私』
『柚木沙弥郎 おじいちゃんと私』(柚木沙弥郎 丸山祐子著、BlueSheep刊)¥3,520
2024年1月31日に101歳でこの世を去った、染色家でアーティストの柚木沙弥郎さん。その多彩なクリエイティビティと精力的に活躍される様子に感銘をうけていたというエディターSUGAWARAが愛読しているのが、柚木さんのお孫さんである丸山祐子さんがつづった本、『柚木沙弥郎 おじいちゃんと私』。
染色家として70年以上創作活動を続けてこられた柚木さんですが、型染で布に模様を大胆にあしらった染色作品のほか、版画や絵画、絵本、立体物など、広い心で多ジャンルへ挑戦を続ける姿勢には、尊敬の念が堪えません。
そのバックステージを覗くようなこの本。柚木さんの誕生0歳から100歳まで(2022年10月17日)、1年につき1枚の写真とともに見開きでその歩みが記されており、大正・平成・令和と時代の変遷に思いを馳せながら楽しむアルバムのよう。1922年東京・田端に生まれ、家のはす向かいに住まれていた室生犀星とその娘さんとの交流の話や、父親がフランスから取り寄せた美術文芸雑誌『ヴェルヴ』に夢中になったことなど、家族ならでは貴重なエピソードが丁寧に描かれていてとても興味深いです。
美術史を学ぶため東京大学に入学するものの、戦争のため勉学を中断、戦後就職した大原美術館で柳宗悦が提唱する「民藝」と出会い、そこから芹沢銈介に師事、染色家の道へ進んでいった道のりが、祐子さんの視点から記されています。
国内の公立美術館のほか、フランス国立ギメ東洋美術館でも2014年に大規模な展覧会が開かれ世界中で支持を集める柚木さん。生涯現役で、創作を続けてきたことが本当にすごいです。『今いるところに安住せずに精神的に独立していなければアートを作れないのだ』、『ワクワクすることで創造できるんです』などその秘訣が所々に、ちりばめれています。本の最後には、柚木さんからのやさしい生きるメッセージが手紙のようにつづられているので、ぜひ読んでみてほしいです。(エディターSUGAWARA)
『柚木沙弥郎 おじいちゃんと私』について紹介している記事はこちら!
西加奈子|『くもをさがす』
『くもをさがす』西加奈子/河出書房新社
エディターTARUIがおすすめするのは、西加奈子さんの『くもをさがす』。カナダで乳がんを宣告された西さんが、宣告から治療を終えるまでを綴ったノンフィクション作品。
本の中でもがんは怖いと書かれていますが、不安や戸惑い、涙や辛さも感じ取れるのに、必要以上の恐怖がなく淡々と語られていくことが、この本のすごいところ。文化の違うカナダでの治療を受けるまでの道のりや治療過程、サバイブした後のこと、そして支えてくれた友人や家族との関係も書かれています。
これは編集者だからかもしれませんが、腰が抜けそうに驚いたのが、カナダ人看護師さんたちの関西弁。それが違和感ないのです。海外の方のインタビューのテンションをどのように日本語訳にのせるのかが毎回かつ長年の悩みで、今も悩んでいます。具体的に言うと、カタカナで「アリガトウゴザイマス」と表記するとカタコト外国語を話してくれたテンションが伝わるかもしれませんが、それはちょっと違うと思っていたんです。
しかし、この本の中の看護師さんたちのネイティブ関西弁は、生き生きと我々読み手をそのシーンの中に巻き込んでいきます。「会話は受け手が感じたままに表現できるんだ(筆力があれば)」と思うと同時に「関西弁のパワーって、すごい!」とも改めて思いました。
そして、著者の日記や他の書籍などから引かれた一文が、ちょうどお茶を一口飲むのによいタイミングで時折入り、思考や心情を深めるかのように置かれています。また、本の最後の引用ブックリスト前に添えられた引用本への熱いラブレターのような言葉も素敵なので、手にとって読んでみてください。担当編集から送られた本の数々を「ヨーコ・コレクション」と呼んでいたと書かれた一行も、積み重ねたふたりの深く温かい関係性が読み取れて、ぐっと胸にきます。(エディターTARUI)
『くもをさがす』について紹介している記事はこちら!