次世代に残す、京都の「今」の物語。JR『クロニクル京都 2024』【KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭 2025】展示レポート②

京都市内各地で開催中の国際的な写真祭「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」。2回目のレポートでは、京都の人びとの姿をとらえたフランス人アーティスト、JRさんの展示を紹介する。

「これまでとは違った視点で街を見ることができる」巨大写真壁画が京都駅ビルに

京都駅ビルの壁面に展示された、JR クロニクル京都 2024
「JR クロニクル京都 2024」©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2025

京都の玄関口、JR京都駅。その北側通路に面した駅ビルの壁面に、幅22.55メートル、高さ5メートルの巨大写真壁画『クロニクル京都 2024』(以下、クロニクル京都)が展示されている。写っているのは、京都の今を生きる人びとの姿。505人の肖像が、京都の建物や風景写真とともにコラージュされている。作品を手がけたのは、世界各地で壮大なパブリックアートを制作し続けている、フランス人アーティストのJRさんだ。

京都駅ビルの壁面に展示された、JR クロニクル京都 2024
「JR クロニクル京都 2024」©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2025

写真壁画の中では、ドラァグクイーンの隣に小学生が立っていたり、防火服を着た消防隊員の前で三味線奏者が演奏をしていたり、ヤクルト販売員の隣に人形劇団員がいたり。普段交わる機会のない、異なるコミュニティの人たちが、1枚の写真壁画の中で隣り合い、思いがけず巡り会う。

「クロニクルの写真壁画の中で出会えるのは、今まで意識したことがなかったけれど、じつは目の前にいた人たち。私たちは写真壁画を通じて、これまでとは違った視点で街を見ることができます。それこそが、このプロジェクトの醍醐味です」JRさんはそう話してくれた。

住民のありのままの姿を撮り、声を録る

2024年秋、JRさんと彼のチームは京都市内8ヵ所にグリーンバックの仮設スタジオを構え、505人のポートレートを約1週間にわたり撮影した。それぞれがどのように写りたいか希望を尋ね、参加者のありのままの姿を撮っていった。

次世代に残す、京都の「今」の物語。JR『の画像_4
会場にある二次元コードからアクセスできる特設サイト。写真壁画に写っている人をタップすると、その人の語りが再生される

撮影後には、参加者の声も録音した。一人ひとりが思い思いに残した言葉は、特設サイト内にすべて収録されている。壁画の前にある二次元コードを読み取り、サイトへアクセスすると、写っている人全員の語りを聞けると同時に、書き起こされたストーリーを読むことができる。

新聞社ならではの仕掛けを凝らした、京都新聞ビルの展示『Printing the Chronicles of Kyoto』

アーティストのJRさん
クロニクルシリーズの過去の作品の前に立つJRさん

英語で「年代記」を意味する「クロニクル」プロジェクトは、市民参加型の写真壁画作品として2017年にスタートした。フランスのモンフェルメイユとクリシーを皮切りに、サンフランシスコ、ニューヨーク、キューバ、マイアミで実施されてきた。今回のクロニクル京都はアジア初であり、シリーズ最新作でもある。

もうひとつの会場の京都新聞ビルでは、クロニクルシリーズの過去の作品を観ることができる。ほかにも、京都新聞の印刷技術を駆使したクロニクル京都や、壁画の制作プロセスがわかるショートフィルムなどが展示されている。

JRさんのクロニクル京都
新聞紙と同じサイズの校正紙にプリントし、モザイク状に貼り合わせた、もうひとつのクロニクル京都 ©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2025
京都新聞ビルの会場に展示されたJRさんの作品

京都新聞ビルの会場では、新聞社ならではの仕掛けが随所に凝らされているのも見どころだ。クロニクル京都で撮影した505人のポートレートを切り抜き、整然と並べたインスタレーションは、新聞の印刷工場にオマージュを捧げたもの。輪転機にセットされた巨大なロール紙に新聞が繰り出されていく工場現場の様子を、臨場感たっぷりに表現している。

次世代に残す、京都の「今」の物語。JR『の画像_8

刮目すべきは、切り抜かれたポートレートが撮影期間中の紙面を背景にプリントされていること。街の「瞬間」を記録するというクロニクルシリーズの特性を、日刊新聞を活用して巧みに伝えている。

「クロニクルシリーズは、そのとき、その場所に、たまたまいた人たちを写し出すものです。もしもクロニクル京都の撮影を1週間後にやっていたとしたら、壁画はまったく違ったものになっていたでしょう。私は、その変化こそが街の美しさだと思っています。街は常に動き続け、変わり続けている。その瞬間を記録しています」

京都を生きる人びとの語りに耳を傾ける。印刷工場跡の没入型インスタレーション

京都新聞ビル印刷工場跡の展示風景 JR クロニクル京都 2024
©︎ Kenryou Gu-KYOTOGRAPHIE 2025

最後にゲストを引き込むのは、印刷工場跡の広大な空間を活かした圧巻のインスタレーション。クロニクル京都の505人の中から選ばれた10人が、立体的かつ巨大な像となってずらりと並び、一人ひとりの肉声による語りが空間全体に響きわたる。かつて市井の人びとの生き様や考え方を載せた新聞を印刷してきた場所が、京都の今を生きる人びとの記憶や日常、夢が語られる場として、息を吹き返している。

クロニクル京都新聞
京都新聞ビルで配布されているクロニクル京都新聞には、印刷工場跡に並ぶ10人の語りが綴られている

クロニクルシリーズを通してJRさんが目指すのは、街に宿る物語を次世代に語り継いでいくことだ。「壁画の一部となった方々のストーリーに、ぜひ耳を傾けてみてください。彼らの語りがこの先、彼らの子どもや孫、さらに次の世代の人たちに語り継がれていくことを願っています」

街も人も、絶えず変化していく。JRさんがストリートからすくいあげた京都の「今」を、その瞬間にしか出会えない街の姿を、ぜひ現地で目撃してほしい。京都駅ビルの巨大写真壁画は、10月13日まで展示されている。

JR『クロニクル京都 2024』

会期:2025年10月13日まで
会場:京都駅ビル北川通路壁面

JR『Printing the Chronicles of Kyoto』

会期:2025年5月11日まで
会場:京都新聞ビル地下1階(印刷工場跡)・1階(京都府京都市中京区烏丸通夷川上ル少将井町239)
時間:平日10:00〜18:00(土日祝は19時まで)
休館日:4月28日、5月7日
※入場には、「各種KYOTOGRAPHIEパスポート」か「限定無料チケット」のいずれかが必要

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