パリのブティック「コレット」のディレクターとして名を馳せ、現在はクリエイティブ・ディレクターとして数々のプロジェクトを手がけるファッション業界のレジェンド、サラ・アンデルマンさんが神保町をぶらり散歩。生粋のブックラバーのお買い物に密着した

【神保町】アートブック散歩。本好きのクリのタイトルイメージ

【神保町】アートブック散歩。本好きのクリエイティブ・ディレクターと回る

パリのブティック「コレット」のディレクターとして名を馳せ、現在はクリエイティブ・ディレクターとして数々のプロジェクトを手がけるファッション業界のレジェンド、サラ・アンデルマンさんが神保町をぶらり散歩。生粋のブックラバーのお買い物に密着した

北澤書店

北澤書店 サラ・アンデルマン

お土産用にピンバッジを選ぶサラ

123年の歴史を誇る洋書の"ミュージアム"

まるで古い博物館を訪れたかのようなタイムスリップ感覚を味わえる、1902年に創業した老舗書店。壁一面を覆い、天井まで届く高さの本棚に古い洋書がぎっしり並ぶ様は圧巻だ。

「パリのセーヌ河畔にあるシェイクスピア・アンド・カンパニー書店を思い起こさせる雰囲気。古い書物とアロマの香りがまじり合い、懐かしい気持ちになりました」とサラ・アンデルマンさん。

ここでは文学、思想分野を中心に学術書を多く扱っており、ファッションやアートに関する専門書のコーナーも。「一番古いものだと1500年代の書籍を置いています」と4代目店主の北澤里佳さん。「情報があふれる時代だからこそ、実際に手に取って読むことの価値が、改めて見直されている。クラシック回帰の潮流を感じます」。

日々世界中から本が集まり、店内の棚に並ぶまでに一冊ずつ入念なリサーチが施される。「調べているうちに愛着が湧いてしまい、自分で買ってしまうこともあります」と北澤さん。ファッション業界で働いていたキャリアを生かし、服や雑貨のポップアップショップを百貨店で開催したり、小宮山書店などの老舗書店と横のつながりを生かして小さなグループ展示を行うなど、次世代に古書の魅力を伝える活動にも積極的だ。

北澤書店

店内で学生たちが本を眺めている様子がおさめられた戦前の写真

北澤書店 内装

2代目の店主が若い頃訪れたNYの書店に着想を得て構想を練ったという荘厳な内装

北澤書店 専門書

車やジグソーパズルなどのデザインを詳細に解説した専門書を取り扱う

北澤書店 Journal des Demoiselles

サラさんの目に留まったのは1845年に発刊された、パリ社交界の新聞をまとめた『Journal des Demoiselles』Onzième Année編(¥9,900)

北澤書店 The Pearlies: A Social Record

パールボタンを洋服に縫いつけて慈善事業を行うロンドンの伝統的な集団"Pearlies"について記録された本。「あらゆるコレクションの着想源になっています」(サラさん)。『The Pearlies: A Social Record』Pearl Binder著(¥2,300)

INFORMATION

北澤書店

東京都千代田区神田神保町2の5 北沢ビル2F
☎03−3263−0011
営業時間:12時〜17時 ㊡日曜、祝日

スーパーラボ ストア トーキョー

スーパーラボ ストア トーキョー

Ed Templetonの『City Confessions #3 Paris』(¥5,280)で、たまたま自身が写ったページを見つけた

アートの扉を開けてくれるインディペンデント出版社

海外から名だたる写真家、アーティストと写真集を制作するインディペンデント出版社、スーパーラボ。2009年に設立し、店舗は2019年に開店した。扱っているのは同社から出版された写真集と作家のオリジナルプリントの数々だ。オーナーのホウキヤスノリさんは、月に1冊ペースで出版されるフォトブックの企画立案、作家とのやりとり、デザイン、紙の選定、出版後のサイン会の開催などを一人で切り盛りする。出版頻度はなんと年に10回以上。

「1979年から80年代初頭にかけて留学していた米国で、多様なカルチャーに触れ、そのときの経験が今のベースになっているのかもしれません」とホウキさん。スケーター文化やヒップホップが芽吹く現場に居合わせたからこそ、ストリートの現場を捉えるアーティストの信頼を得ているのだ。

実はサラさんはコレット時代から時折写真家の展示企画でホウキさんと協業しており、今回念願かなっての対面となった。「もし私が書店を開くならこんなお店がいい! という理想が詰まった素敵な空間。アーティストに大きな自由を与えてくれる出版社としてパリでもよく知られた存在なんですよ」(サラさん)

スーパーラボ ストア トーキョー オーナーのホウキヤスノリさん

写真家Joel Meyerowitzがスーパーラボのために書いた言葉を引用したネオンサインの前で、サラさんとオーナーのホウキヤスノリさん(左)

スーパーラボ ストア トーキョー

自社が手がけた写真集のみを扱う。アーティストのサイン会やイベント、写真の販売を月1回程度開催。それぞれの作品にキャプションカードが掲げられている

スーパーラボ ストア トーキョー GLIMPSE

サラさんが選んだ一冊。前述Joel Meyerowitzが1960年代にドライブしながら車窓から撮った写真集。『GLIMPSE』(¥6,264)

スーパーラボ ストア トーキョー City Confessions

世界を旅するEd Templetonの都市シリーズ『City Confessions』が並ぶ。ほかにココ・キャピタンやロッタ・ヴォルコヴァの写真集も

INFORMATION

スーパーラボ ストア トーキョー

東京都千代田区神田猿楽町1の4の11
☎03−6882−4874
営業時間:12時〜18時 ㊡月・火曜

ボヘミアンズギルド

ボヘミアンズギルド

カテゴリーごとに整理された棚。サラさんの好きな写真家、ホンマタカシの写真集も揃えている

世界へ開かれた美術書の名店

サラさんが最後に訪れたのは、1924年に池袋に誕生した夏目書房の支店として、2004年に神保町にオープンしたこちら。美術、工芸に強く、世界中からレアな一冊を求めてマニアが足を運ぶ。「カテゴリーごとにきちんと区分けがされており、目当ての本が見つけやすいですね」。

庭に関する本を探していたところ森蘊著の『日本の庭園』(¥3,000)にたどり着き、「美しい……」と見惚れていた。目利きの3代目オーナー夏目滋さんは古書業者だけが出入りできる市場、オークションに足繁く通い、稀少な本を仕入れている。2階には絵画や、物として価値のある文学作品も取り扱う。たとえば夏目漱石の『吾輩は猫である』の初版本や、川端康成による直筆が収められた『雪国』の30部限定版の1冊などがガラスケースに仕舞われている

。「コロナ禍以降海外からのお客さまが増え、日本の浮世絵や文学作品の需要が高まっていると感じます」(夏目さん)。新しい試みとして、「神保町から世界へ」と自社でオークションを主催している。

ボヘミアンズギルド デザイン集団nendoの展覧会図録

デザイン集団nendoの展覧会図録『吉左衞門X nendo×十五代吉左衞門・樂直入』佐川美術館刊(¥1,000)を手に取って。「クラシックな陶器と現代的な感性の融合が面白い」

ボヘミアンズギルド 竹久夢二の原画

竹久夢二の原画が多数

ボヘミアンズギルド パリの記憶

サラさんのお気に入りは『パリの記憶』高田美著(¥9,000)

INFORMATION

ボヘミアンズギルド

東京都千代田区神田神保町1の1 木下ビル1F・2F
☎03−3294−3300
営業時間:12時〜18時 ㊡年末年始

サラ・アンデルマンが語る、本と書店の今

──本日神保町の書店を巡ってみて、どんな感想を持ちましたか?

サラ・アンデルマン(以下サラ) 書店が多い街、生地店が多いところというふうに区域によって特色があるのが東京の面白いところ。神保町は古い雑誌やアートブックを扱うお店が多く、どんなデザイナーにとってもインスピレーションソースが詰まった街であることは間違いないですね。

——神保町は本が人から人へと受け継がれていくサーキュレーションシステムを築いています。以前古着はあまり着ないと言っていましたが、本についてはどうでしょうか?

サラ 私が古着を着ないのは、その服にまつわる歴史を過剰に想像してしまうから。この服を着ていた人は、楽しい人だったのかしら……、悲しみを抱えていたかしら、と。でも本が循環していくのは素晴らしいと思う。自分はもう読まない本が誰かにとっては必要で、それが次から次へ目的地を探して旅していくのは素敵なことです。

——世界でお気に入りの書店は?

サラ ニューヨークだとStrand Book Store。ポルトガルに1869年からあるレロ書店もおすすめです! ハリー・ポッターのシーンのモデルになったところなんです。東京のカウブックスも好き。

——今読んでいる本は?

サラ オーストリア人の作家、シュテファン・ツヴァイクが書いた伝記『マゼラン』を読んでいます。船の乗員との関係が緻密に描かれていて夢中になっています。

——新しい本にはどのように出合っていますか?

サラ 人のおすすめや“表紙買い”ですね。私の友人Charles Pignalが運営するブックレビューポッドキャスト「Lit with Charles」を参考にしています。でも正直に言うと最近は読書時間を捻出するのに苦労しているんです。買ったはいいものの、全然手をつけられず……日本にそういう言葉があるでしょう? そうそう、「積読」です! 

——イギリスやフランスでは本の売り上げが再び上昇の兆しを見せているとか。その実感はありますか?

サラ あります。先日パリの書店「Librairie Galignani」で働く方と話したとき、パンデミック後、客足が増えたと言っていました。面白いことに、パンデミック後、多くの書店がマーチの販売で生き残っています。私が今回「SELECT」のポップアップで協業した「GiftShop」は、老舗のレストランや店舗のマーチを手がけるパリのブランドで、今人気を博しています。

——あなたの会社であるJUST AN IDEAについてお聞かせください。

サラ コンサルティング会社としてスタートし、そのあと出版事業を始めました。フォーマットを統一した気鋭のアーティストたちの作品集や、ブックエンドなど本にまつわるオブジェを手がけています。

——最後に、もし書店を神保町に出すならどんなお店になりますか?

サラ 小さい空間にJUST AN IDEAで作った本を置いて、おいしいコーヒーを提供したい。あとは毎週ポップアップを開催します。コレットでも、読書会やコンサートなどを頻繁に行い、人々を飽きさせない仕掛けを作るように心がけていました。出版事業は面白いけれど難しい。ホウキさんのように成功するのは本当にすごいことです!

SARAH  ANDELMANプロフィール画像
SARAH ANDELMAN

2017年、惜しまれながらも20年の歴史に幕を下ろした伝説的ブティック「コレット」の元クリエイティブ・ディレクター。現在は「JUST AN IDEA」を設立し、コンサルティング業と出版事業に携わる。今年4月に「SELECT by BAYCREW’S」にて自身がキュレートしたポップアップストアを開催した。この日のスタイルは、カーディガンがMira Mikati、ネックレスはミュウミュウ、スカートはトム ブラウン。

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