読書家の橋本愛さんと巡る、神保町のニュースポット

古書や純喫茶は今も昔も神田神保町の変わらぬアイデンティティだが、ここ数年の間に急増中のニュースポットが新たな風を吹き込んでいる。新旧のカルチャーをのみ込んでますますその魅力を増す街を、俳優の橋本愛とともに歩く

古書や純喫茶は今も昔も神田神保町の変わらぬアイデンティティだが、ここ数年の間に急増中のニュースポットが新たな風を吹き込んでいる。新旧のカルチャーをのみ込んでますますその魅力を増す街を、俳優の橋本愛とともに歩く

神田神保町

神田神保町

シャツ¥224,400・パンツ¥215,600・重ねたスカート¥259,600・ベルト(参考色)¥100,100/ザ・ロウ・ジャパン(ザ・ロウ)

まっさらな好奇心を映す白いシャツで始まる朝

老若男女、学生からビジネスマンまで、さまざまな人が行き交う平日の午前、駿河台下交差点のそばにて。風合いや色みが少し異なる白いシャツとパンツに、エプロンのようなスカートを重ねたモノトーンの装いで。かつて交差点のランドマークだった三省堂書店は現在建て替え工事中、少しずつ変わりゆく神田神保町の「新しい顔」に触れる一日が始まる。

神田神保町

「本の街」神田神保町となったのは、明治時代に多くの学校が開かれたことに端を発する。高いレベルの知識が集まる、文化を抱く場所として成熟を遂げていった。世界最大級の古書店街として、現在も訪れる人々は引きも切らない。近年はその歴史の象徴的存在だった「岩波ホール」や「柏水堂」などが惜しまれつつ閉じてしまったが、次の時代の神保町を形作るべく、新たな息吹が宿り始めている。

神田ポート

神田ポート

ニット¥231,000・シャツ¥214,500・パンツ¥192,500・靴¥203,500・ソックス(参考商品)/ジルサンダージャパン(ジル サンダー)

レトロモダンな装いでこの街の新しい「港」へ

花のモチーフを編み込んだニット、大きな襟の白いシャツ、マイクロチェックのバミューダパンツ。シルエットバランスによって、ノスタルジックなアイテムをモダンに昇華する。アートディレクターでグラフィックデザイナーの菊地敦己による作品『はじけ』が出迎える、神田ポートビルの前にて。

神田ポート

1964年に建てられた印刷会社の旧社屋をリノベーション。都市生活者の新しい居場所を提供する文化複合施設として2021年に誕生した。地下1階には本格的なフィンランドサウナ、1階にはカフェやオリジナルのグッズを扱うショップとギャラリー、上階には「ほぼ日の學校」や印刷会社「精興社」が入居。定期的にイベントや展覧会も行なっている。

●東京都千代田区神田錦町3の9 ☎なし
◯営11時30分〜20時(サウナラボ神田は21時30分まで) 不定休

Instagram: @kanda_port

Wols Books

Wols Books

ドレス¥484,000・ブーツ¥247,500(ともに予定価格)/セリーヌ ジャパン(セリーヌ) レースのタイツ/スタイリスト私物

古書店によく似合うプリーツドレスの品格

折り目正しいプリーツスカート、英国調のチェック柄。「神保町にはちょっとレトロで、文学少女のようなムードの装いが似合う気がします」と話す橋本さんが纏うのは、タータンチェックのミニドレス。レースのタイツにロングブーツの足もとで、レディライクなテンションも加えたスタイリングだ。神保町を神保町たらしめる古書店の、店主ご自慢の本棚にてじっくり本と向き合う時間を過ごす。

Wols Books

ビジュアルブックを中心に、国内外のアートに関する古書を扱う「ヴォルス ブックス」は2023年オープン。重量のある写真集も置いて眺めることができるように高さを設計した、特注の可動式本棚が設置された店内は、落ち着いて選書できる空間となっている。源喜堂で長年写真集を担当していた店主の河村愼一郎さんの目利きを堪能しよう。

●東京都千代田区神田神保町3の10の3 松晃ビル1F ☎03−6261−2251
◯営11時〜18時30分 ㊡日曜、祝日

Instagram:@wolsbooks

Donato Records

Donato Records

シャツ¥181,500・ベアトップニット¥149,600・パンツ¥203,500・アンダーウェア¥159,500(すべて予定価格)/ミュウミュウ クライアントサービス(ミュウミュウ)

ジャムセッションのように纏うスーパーレイヤード

シャツの上にベアトップニットを重ね、ドローストリングパンツのウエストからショーツをのぞかせる。そのテンポが楽しいスーパーレイヤードは「今日の衣装の中では、これが一番普段着ている洋服のテンションと近いものがあります。フレキシブルで動きやすくて、散歩するのにいいですね」と橋本さん。一つひとつのレコードに加えられた説明文に思わず引き込まれる。

Donato Records

お茶の水で営んでいたジャズ喫茶「ドナート」を閉めたあと、同名の中古レコード店を2024年にここ神保町にオープンした店主の加藤寛之さん。自身もレコードコレクターであり、商品のレコードの値札にびっしりと書き込まれた説明文からは、加藤さんの音楽とレコードへの愛が感じられる。音楽に関連する書籍もあり。

●東京都千代田区神田神保町1の39の8 ハウス神保町2F ☎なし
◯営14時〜19時(月〜木、土)、14時〜22時(金) ㊡日曜

Instagram: @donato_records

清井商店

清井商店

ドレス¥484,000・ブーツ¥247,500(ともに予定価格)/セリーヌ ジャパン(セリーヌ) レースのタイツ/スタイリスト私物

神保町麺界の新星はだしのきいた沖縄そば

神保町を巡ったこの日のランチは、楽しみにしていたここ「清井商店」で。白をベースにした清潔なインテリアに映える、グリーンのチェック柄のミニドレスで、注文したソーキそば(に橋本さんは焼きトマトをトッピングしてオーダー)を待つ。

清井商店

東京で本当においしいソーキそばを提供したい、という思いに突き動かされた店主が2024年秋に開いた。知る人ぞ知る勝浦の名店「だいにんぐ 清」で学んだ味をベースに、オーセンティックな沖縄の味を提供する。汁そばのほかに焼きそば、ソーキ丼やジューシーなども取り揃えて、たちまち神保町の新ランチスポットに。

●東京都千代田区神田神保町2の10の14 THE CITY神田神保町1F ☎080−2330−3700
◯営11時〜15時 ㊡日曜・祝日

Instagram:@kiyoishouten2024

シネマリス

シネマリス

ドレス¥907,500・ベスト¥253,000・タイツ(参考色)¥99,000(ヴァレンティノ)・ロングネックレス¥781,000・グローブ¥89,100・パンプス¥222,200・ネックレス¥693,000(参考価格)(ヴァレンティノ・ガラヴァーニ)/ヴァレンティノ インフォメーションデスク

まだ見ぬ物語を想うレディライクなドレス

ドレスにもニットベストにも、小さな犬がずらり! イエローのタイツにスクエアトゥのパンプス、大ぶりのネックレスを合わせたヴィンテージシックな着こなしは、閉館した映画館から譲り受けたシートの、ボルドーカラーによく似合う。

シネマリス

「小さくても善いものを」という理念を掲げ、この秋開業を目指すミニシアター。支配人の稲田良子さんは、第二の人生を映画館運営に情熱を捧げよう、と脱サラ(!)をしてこの世界へ飛び込んだ。「シアター1」と「シアター2」それぞれ65席ほどのスクリーンを備え、1で新作や特集上映、2では旧作を上映する予定だ。

●東京都千代田区神田小川町にて開業予定 ☎03−6803−3214 不定休

@cinemalice.mini.theater

新しい自分と出会う街 神保町で変化を見つめる

橋本 愛

シャツ¥224,400・パンツ¥215,600・重ねたスカート¥259,600・ベルト(参考色)¥100,100/ザ・ロウ・ジャパン(ザ・ロウ)

俳優だけでなく、モデル、歌手、作詞や文筆など、個性を生かし、さまざまな表現を重ねる橋本愛さん。『セブンティーン』で専属モデルをしていた10代の頃から、神保町を訪れていた彼女は、この街の印象を「オフィスビルがたくさん立ち並んでいるけれど、一歩足を踏み入れると多種多様なディープな文化が根づいている」と語る。

「速いスピードで進んでいるところと、ゆったり時間が止まっているように感じる場所が混在しているのが面白いですよね。独特な時間軸がある。たまに来てはマニアックな文化に触れる場所だと思っていましたが、今回は変化の過渡期にある、新しい風が吹く神保町という側面を知ることができました」

変化していても、神保町らしい景色や印象は変わらないと橋本さんは言う。

「新しい場所であっても、流行をただ追うような表面的なお店ではなく、本質的なものをより間口を広げて多くの人に届けている感じがする。今日、歩いていて気づいたのは、いろんなものに触れられるチャンスがそこかしこにあるということ。来るだけで、新しい自分に出会える街だなと思います」

専門性の高い分野だと「狭き門」として堅苦しい空気が出ることもあるが、親しみやすさもまた魅力だ。

「自ら手を伸ばさなくても、『面白いからおいで』と導いてくれるような開かれた空気感があると思います」

神保町といえば、本の街としての変わらない側面も。書評執筆の連載を持つほどの読者家の橋本さんだが、その関わり方は少しずつ変化しているとか。

「20代の頃は、読書は自分を保つための薬のような役割だったんです。当時は現実よりも架空の物語の世界に浸っているほうが、心が楽だったというか。でも、最近は新書を読む機会が増えました。それは単に知識を得ることが目的ではなく、現実世界を見て、知るための自分のフィルターや感性を育んでくれるものだと捉えています」

「書を捨てよ、町へ出よう」。詩人アンドレ・ジッドが残し、寺山修司が引用したこの一文を、「本への最大の愛の賛辞」だと橋本さんは表現する。

「捨てるぐらい、たくさんの書に触れてきたということだから。そこで得た知識や蓄えがあるからこそ、初めて街に出たときに、見えるものがすべて変わってくる。そういう経験ができるから、本はなるべく読みたいですね」

そんな橋本さんを刺激し、表現者としてさらに深めることになった最近の出合いは、昨年参加した一人舞台、オペラ公演『ローエングリン』だ。

「レジェンドと呼ばれる皆さんとご一緒したのですが、奥深い世界で音楽の成り立ちや起源に触れられるような体験でした。音楽を知り、自分の体を通して演奏することが面白くて仕方なかったんです。お芝居はよい意味で苦しみながらやっていますが、音楽は努力することさえ苦しくなくて。これは自分がやるべきことだと感じましたし、今後も続けていきたいと思います」

街も人も、変わらない本質を核として持ちながら、生命力の赴くままに進化していくものなのかもしれない。

「変化を経ても、その街の魂のようなものが受け継がれ、そこにあると感じられたとき、私はとてもうれしい気持ちになります」

橋本 愛プロフィール画像
橋本 愛

はしもと あい●1996年、熊本県出身。最新の出演作に、映画『早乙女カナコの場合は』(’25)『リライト』(’25)など。大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」にも出演。独自の感性を生かしてファッション、コラム、書評などの連載を持ち幅広く活躍。

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